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その影にご注意  作者: 秋元智也
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第十九話

父の手は迷う事なく細いパイプを手に取った。


「おっ、ちょうど目覚めたな…気分はどうだ?人間よ。ありがたく思えよ

 お前は特別な人間なんだ。これから始祖様の為に命を差し出すんだから

 な!」


ゆっくり恵が目を覚ますと、そこは見慣れぬ壁に覆われた湿度の高い部屋

だった。

公園で声をかけて来た男性に横にいるには田辺だった。


「田辺…これは…?」

「…」

「目覚めたのなら始めようか?さぁ〜ゆっくりやるとしようか」


男の手には細いパイプが握られていた。

先が尖っている。

そこをゆっくりと浅田の方へと向けていく。

肌に当たるとヒヤッと冷たい感触が伝わってくる。


「これ…は…どういう…!!」

「じきに分かるよ」


手に力が篭るとプツッと皮膚を破る。

ズズズッと皮膚を突き刺さると痛みが脳を支配する。


「あぁぁぁあぁぁあぁっっ!!」


痛い、痛い、痛い、痛い!なんでこんな事になってんだよ?

これじゃ…まるで…。。。

こんな形で死ぬのか?

嘘だろ…何が俺に眷属になれだよ…結局殺すんじゃねーか…。


「お前も…なのかよ…最低野郎が…」


必死に絞り出した声で言葉を出すも、すぐに悲鳴へと変わった。

声が枯れてくると、パイプを引き抜いた。


腹に空いた穴から血が溢れ出て行く。


ビクビクッと身体は痙攣しショック状態へと陥って行く。


「こんなもんかな…さて次は〜」


点滴の用意をすると首筋に針を刺す。

そして太腿を開かさるとそこにも太めの針を刺した。


一番太い血管を選んで入れると浅田の顔色が変わっていく。


「あさ…だ…なぁ〜大丈夫なのかよ…」

「…ぅ…っ…」

「心配はいらん。死にはしないから安心せんか。今はまだその時じゃない

 からな」


父は滴り落ちた血が下に置いておいた器に注がれて行くのを見ると嬉しそ

うに掬い上げた。


「少し味見するか?これは極上の味だぞ?」

「…」


何も言わない唯に父はコップに注ぐと机に置いた。

自分の分も注ぐとごくごくと飲んだ。


「はぁ〜これは美味い。人間でここまで濃い味はなかなかないからな〜。

 お前も飲まんのか?それとももう味見してたか?眷属にするっていう

 くらいだし、飲んだんだろう?美味かっただろ?」

「父さん…やっぱり…」

「駄目だ!もう、遅いからな。このまま明日には薬液が浸透して馴染む。

 そしたらそのまま満月の夜に決行だ。もうすぐ始祖様が復活なさるん 

 だ〜感激だぞ〜。この人間の身体を破る様に誕生なさるんだ。そして

 …、子供の姿から青年の姿におなりになるんだ!」


まるで夢にで囚われているようにうっとりと話す父に田辺は愕然とする。


「破る様に…浅田は?そんな事したら浅田が…!」

「だから言っただろ?生きていられるのも、それまでだって。人間は元々

 短命なんだ、少し短くなったとて変わらんだろ!」


父はその場から出て行こうとしていた。


「父さん!そこのベッドに寝かせてもいい?」

「どうせ、動けんからな…まぁいいだろ。ただし…手を出すなよ!始祖様

 を汚す事は絶対にするなよ!分かったか?」

「…あぁ、わかった。」


檻から出すと手足の縄を解いた。

ぐったりしたまま薬液が体内へと入って行く。

腹に空いた穴からは血液が流れ出て行く。

全ての液体が入れ替わると自動的に止まる筈だ。

それは分かってる…分かってるけど…。

血に染まるベッドの上で浅田の上に乗った。


「ごめん…こんな事になるなんて…」

「…」


何も言わない。

ただどこも見ていないのかもしれない。

それでも、浅田の声で。浅田の口から聞きたい。


「俺を選んでくれ…頼むから俺の側に居てくれるって…言ってくれよ」

「…」

「俺なら、俺の眷属になれば始祖様に渡るのを防げるんだ。もう時間が…」

「…もう…いいよ。殺して…?田辺が…シテよ…」


か細い声にハッとなって見下ろした。


「ごめんな…一回死ぬ事になるけど…絶対に助けるから…」


田辺は恵の首筋に歯を立てると一気に噛み切った。

血が噴き上げるが痛み止めに魅了を使うと、止血はせずに血で自分の印を

刻み込んでいく。


その度に痛みはあるはずだが、それでも急いで書いて行く。

焼け付くように皮膚がジリジリと焦げる匂いが充満して行く。


「…ぁっ…ッ…あっ…あぁっ!」

「もう少しだから…もうちょっと我慢してくれ…」


描き終わると定着させる。

そして浅田の中から聞こえる二つの心臓の音を確認する。

一つは弱々しい浅田本人の物。そして力強い脈打つもう一つのは始祖様が

残した異物だった。薬液が馴染んだせいでより一層存在感を持っていく。


「これを取り出せれば…始祖様なんかに渡さなくてもいいはずだ…!」


爪を一気に伸ばすと浅田の皮膚に突き立てた。

肌が破けて血まみれの心臓を取り出すと床に投げ捨てた。


破けて吹き出す血を抑えると田辺は腕に歯を立てて血を滴らせると浅田の

血に混ぜた。

少しでは足りないとなると近くの刃物でスパッと切ってみる。

流れ出る血がまるで生き物のように浅田の身体の中へと入って行く。

一滴も溢れる事なく吸い込まれて行くと傷口は綺麗になくなってしまって

いたのだった。




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