第十二話
暗い森の中、ひたすら歩いているとそこには見覚えのある家があった。
出てきたのは銀色な髪の青年だった。
「アル兄ちゃーん!」
少年が駆け寄っていく。
何度も来慣れているのか、家へと入っていく。
その前にある結界をすり抜けて何の躊躇いもなく通り抜けている。
家主が彼を通したのだろう。
銀色の髪の青年は微笑むとその少年を受け入れた。
「恵、またここに来たのか?」
「うん、アル兄ちゃんに会いたくて…だめだった?」
「そんな事はないが、ここへは来ちゃいけないと言ったはずだが…まぁ、
いい。お菓子でも食べていくかい?」
「うん♪」
素直に頷く少年を招き入れると家の中へと入っていく。
その後を追うように来た大人たちはその家を見つけることさえできない
でいた。
しばらく楽しそうな話し声がすると、少年は帰ると言い出した。
「アル兄ちゃん、またくるね〜」
「恵…このままここで一緒に暮らさないか?毎回帰るのも面倒だろう?」
その後をつけてくる大人達もそろそろ警戒し始めているからだ。
「でも、お母さんお父さんが心配するから…」
「…、もうすぐ私は引っ越す事にしたんだ。だから…一緒に来るか残るか
決めて欲しい。」
「アル兄ちゃん、いなくなっちゃうの?嫌だよ〜」
「なら、一緒に行こうか?」
「それは…だめ。怒られちゃうから…」
恵の煮え切らない答えに銀髪の青年は恵を抱き締めると首筋に噛み付いた。
何度もしている食事なので彼も痛みすら感じない。
うっとりしたような表情を浮かべ半開きの口から吐息が漏れる。
「そうか、明日ここを離れるからそれまで考えてくれないか?」
「うん…でも、本当にいなくなっちゃうの?」
頷く銀髪の青年に恵は寂しそうにしながら帰って行った。
結界を抜けたあたりでふらっと倒れると意識が遠のいていく。
森の外で必死に捜索していた大人達によって保護され、病院へと連れて
行かれた。
帰ってきた恵の容体はどこにも異常はなかった。
まる3日寝ていて、目覚めると記憶が曖昧で何も覚えていなかった。
7日間居なくなっていた間の記憶もなく、神隠しにあったと噂された。
それから引っ越して父親の単身赴任生活が始まった。
母と二人だけの生活に慣れた頃、恵は中学生になっていた。
近くの公園で友人と別れた後に、聞き覚えのある声を聞いた。
「恵…こっちへおいで」
「だれ?…そこにいるの?」
茂みを掻き分けた所で手を引かれ聞き覚えのある声と、銀髪の青年にあった。
昔見たままの姿でそこに居た。
忘れていた記憶が蘇ると恵はその青年に抱きついていた。
「アル兄ちゃん!」
「恵、元気だったか?」
「どうして…何も言わないでいなくなるの?心配したんだよ!あれ…僕何をして
たんだっけ?」
「もういいよ、全て忘れなさい。このまま眠ればいいよ。」
「うん…アル兄ちゃん、僕ね…あのね……あれ…何を言おうとしたんだっけ」
微睡の中に落ちていく。
従順に従うしもべとして。
服を脱がせ背中に血を垂らすと青い陣が浮かび上がる。
そして何か聞き取れない言葉を言うと陣は身体に焼き付き恵に激痛が走った。
「ああぁぁぁっっっ!!」
「大丈夫、もうこれで恵は私のモノだよ」
熱にうなされた様な目で見上げると、まるで恋人でも見ているように顔を赤
らめて青年を見上げた。
「私はまた遠くへ行かなくてはならない。今度こそついて来てくれるね?」
「うん…いく…」
彼の意思とは関係なく頷くと首筋に青年は噛み付いた。
歯が入ると血液を吸い上げる。
その行為をされると身体が熱くなる。
精通したばかりの身体には刺激的で前ははだけたまま、彼に抱かれたのだった。
一ヶ月、彼と一緒に暮らした。
正確には何日経ったのかすらわからないでいた。
ただ、ただ、苦しくて、何か怖いモノが身体の中を支配するような感覚に慣れ
る事はなかった。
鎖に繋がれて、部屋に放置される。ただそれだけなのに、アル兄ちゃんがいな
くなったと同時に何かが部屋へと入って来て恵の身体を乗っ取ろうと入り込ん
でくる。
必死に抵抗しても水の中に沈むように身動きも取れなくて、息もできているの
かさえ、わからなくなる。
毎日そんな時間ばかりが過ぎて、アル兄ちゃんは帰ってくると嬉しそうに恵の
中に入ってきたモノを食べていた。
そして恵にかぶりつくと血を啜った。
逃げたくてもアル兄ちゃんには逆らえず、ただされるがままになっていた。
ある日、アル兄ちゃんが帰ってくると血だらけで恵を抱えると空を飛んだ。
遠くへ飛んで行くと、雷が鳴っていて、近くに落ちた衝撃で地面に叩きつけ
られた。
アル兄ちゃんはそれでも飛ぼうとしたけど、恵を抱えたまま飛ぶのを断念し
、一人で舞い上がっていった。
それを呆然と見送りながら折れた手足を見たが、動かせそうにはなかった。
そのまま死ぬのか?
お母さん、お父さん、帰りたいよぅ…。
願いながら目を閉じた。
気がついた時には病院のベッドの上で、隣には知らない女性が泣いていた。
「恵っ!気がついたのね。よかったわ〜分かるお母さんよ?」
「…お母さん?僕のお母さんなの?」
「…恵?分からないの?うそ…でしょ?あなたは一ヶ月も居なくなっていた
のよ?どこにいたか思い出せる?」
「…分からない、すっごく苦しかった…怖いとこにいた気がする。」
漠然としたことしかいえなかった。
正確には思い出そうとしても思い出せないのだった。