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元婚約者サイドはこんな感じでした

元婚約者サイドのお話です。

コメディだったはずなんですが…?

「ハーッハッハッ!!見たか、あの悪女の無様なさまを!我が最愛のマリーをいじめた罰だ!何が上王に連なる聖なる血筋だ、いつも俺をバカにしおって!いい気味だ!」


カディス王太子は上機嫌で高笑いした。

卒業パーティーは何事もなく終わり、王太子とその取り巻きたち、マリー・ゴールド準男爵令嬢は、学園内の王族専用のサロンに移動して、二次会と洒落込んでいた。


「おめでとうございます、カディス様!」


お追従を述べるのは神官長の息子、リュカ・キルネンだ。侯爵令嬢であるメリッサ嬢を袖にした彼は、王太子付きの王宮神官になるため、余念がない。


「ふふ、そなたたちも無事、悪女どもと手が切れたようだしな!間もなく、国王陛下が玉座を空にしてから200日経つ!慣例通りに俺が即位した暁には、そなたたちを取り立ててやろう!」


「光栄でございます、カディス様!」


リュカと同じく王太子にかしずくのは、パトリス・ノルディク。

彼は名門フォーリー学園長の息子という立場であるが、学者には確たる位がないこの国。のしあがるには爵位のある令嬢の婿に入ることが必要不可欠だったが、シャーリー嬢と婚約破棄した今、ツテといえば王太子しかいなかった。


そんな2人を少し離れた所で見ているのは、王宮騎士団長の息子、ロイク・ドット。

団長の息子と言えど騎士爵でしかないドット家の人間は、武勇で身を立てるしかない。その点で言うなら、騎士の家系であるエリシア嬢との結婚は願ってもない縁だった。


(俺たちは、まずいことをしてしまったんじゃないのか……?)


皮肉なことに、脳筋と呼ばれたロイクだけが、自分たちの立場の危うさに気付き始めていた。

確かにマリー・ゴールド準男爵令嬢のことは愛している。キイキイと口うるさいエリシアなんかとは比べ物にならない。

だが、いちばん最初にマリーに告白したのは自分であり、マリーは「嬉しい!」と抱き付いてくれた。

その浮かれた気分のままに、エリシアに婚約破棄を言い渡すと、王太子が「逆恨みでマリーに害を及ぼさないように」と、王宮近くの塔へエリシアを幽閉した。

そのあと、マリーと自分は婚約するはずだった。

今ごろは結婚式の準備に追われていたはずなのに、なぜマリーは王太子と婚約しているのだろう?あの日、嬉しいと言ってくれたのは、何だったのか?自分はなぜ、「王妃となったマリーをみんなで支えよう」などという馬鹿げた提案に乗ったのか?


「む?マリーはどこに行ったのだ?」


勝利の高揚感に酔いしれていたカディス王太子が、最愛の令嬢の姿がないことにようやく気付いた。


「ご不浄です。アダン様が付き添って行きました」


リュカが言うと、そうか、と王太子は答えた。ほどなく戻ってくるだろうマリーの姿を思い浮かべ、彼の顔はだらしなくにやけていた。


‡‡‡


「……終わっちゃったなあ、攻略」


マリー・ゴールド準男爵令嬢は、トイレからの帰り、サロンには戻らずバルコニーに出た。

夜も更け、空には半月と星が並んで登っていて美しい。

月光を反射して、彼女の金髪の巻き毛が白く輝いている。


「……こちらにいらっしゃいましたか、僕のお姫様は」


声をかけてきたのはアダン・セファード侯爵令息だ。現宰相の息子でもある。

彼は次男坊とはいえ、コルレット嬢との結婚がなくても、父親から伯爵の爵位を授かって、独立する予定だった。他の取り巻きとは少し立場が違った。


「アダン様」


揺れる水色の瞳が、アダンを捉えた。

彼は遠慮なくマリーに近付き、馴れ馴れしく頬に触れて、囁く。


「このまま僕が連れ去って差し上げましょうか?僕だけの可愛いお姫様。あなたとなら、どこまででもご一緒しますよ?」


自慢のセクシィ・ヴォイスを炸裂させる。

彼はこの声と歯の浮くようなセリフ、優れた容姿で、数多くの令嬢を陥落させてきたタラシだった。出会った全ての女は自分のものだと思うタイプ。もちろんマリー嬢も、王太子から本気で奪うつもりはないが、自分が声をかければいつでも靡くと思っている。


「飽きました」


……そのため、マリー嬢のその言葉を理解するのに、少し時間がかかった。


「……今、なんと?」


「飽きたと言ったんです、あなたも、あなたのそのネットリとした話し方にも。ていうか、この世界そのものが、もうどうでもいいかなあ。私、元々好きじゃなかったんですよ、このゲーム。ヒロインでスタートしちゃったから義務的にクリアしたけど、やっぱりチョロすぎてつまんなかったです。王太子も頭悪すぎるし、ほんとテンプレでお腹いっぱい!て感じ」


「ま、マリー……?何を……」


普段の天使のような立ち振舞いから一変した彼女は、ふてぶてしい態度を隠しもしなくなった。


「何回も言わせないでよ!もう飽きたって言ったでしょ!……はあ、どうすれば違うゲームに移動できるんだろ。キャラデもビミョーに古いし、声優も私の好きな人いなかったし……次は絵がもっとセンスよくて、シナリオがカッコいいヤツがいいなあ。このゲーム、『空と大地のフェアリーテイル』ってタイトルからしてクソダサかったし」


ため息まじりに吐き捨てるマリー嬢。

アダンは理解が追い付かず、凍りついたように硬直した。お得意な美辞麗句も、すっかり吹っ飛んでしまったようだ。


「あっ!そうだ、わかった!ここに来た時と同じようにすればいいんだ!私、あったまいーい!」


マリー嬢がパンと手をたたきながら突然叫んだ。アダンはびくっとした。既に彼の中では、マリー嬢は理解できない何かに変容していた。ぐりんっと振り返られて、思わず後ずさってしまう。


「と、いうわけなんで!お世話になりました!私は次のゲームへと旅立ちます!王太子によろしく言っといてくださいね!では!」


言うなり、彼女はひらりとバルコニーを乗り越え、そのまま飛び降りた。


「なっ!マリー嬢!!」


慌ててバルコニーに駆け寄るも、夜の暗さのために、下がよく見えなかった。

何にせよ、ここはフォーリー学園の3階に位置しており、か弱い令嬢が飛び降りて、無事でいられるとは思えなかった。耳を済ませても風にざわめく木立の音しか聞こえない。


「おお、アダン、こんなところにいたのか。マリーはどうしたのだ?」


タイミングの悪いことに、マリー嬢の戻りが遅いことに焦れた王太子たちがぞろぞろやって来た。


……どうする?!と、アダンは『切れ者だ』と噂される頭脳をフル回転させた。




不穏になって参りました。おかしいな…。

次回からまた幽閉サイドに戻ります。

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