何で王様まで幽閉されているのか
また長くなりました。
「ちなみにパンはないぞ。白飯しかない。白飯オンリー。白いご飯は全てを解決してくれるのじゃ」
国王がご高説をぶってる中、令嬢たちはテーブルに付いて、めいめい食事を取った。
ちなみにセシリーは肉じゃがを食べました。
おいしかった。
「あの……国王陛下、恐れ入りますが……なんでこんなことになっているのでしょうか?」
みんなでお皿を洗って、エリシア嬢が煎れてくれた緑色の渋めのお茶を飲みながら、セシリーが尋ねた。
「ん?ご令嬢方は刃物扱えんじゃろ。ここ、食材は根菜類と塩漬け豚肉と米しかなくてのう。水は水道管があるから酌まなくてよいし、コンロは炎の魔石があるから苦労はないが、さすがにニンジン切ったり玉ねぎ刻んだりは」
「いえ、あの、それもそうなんですけど、そもそもなぜ国王陛下が幽閉されているのでしょうか?私たちはなぜここに?」
さっきから料理のことしか言わない国王に焦れながら、セシリーはもう一度尋ねた。
「え?そりゃまあ、よくあるクーデターじゃよ。うちの王太子はせっかちでのう。この国の法律だと、国王が玉座を200日空けると、王を続ける気がないとされて王太子が自動的に国王に繰り上げ当選になるんじゃ。ワシはエリシア嬢と同じくらいに幽閉されたから、だいたい半年はここにおる。あと10日ちょっとくらいで、元国王になってしまうのう」
アゴヒゲをいじりながら国王は答えた。
セシリーは頭をガツンとと殴られた気がした。
「くっ、クーデター?!カディス様がですか?!」
「そうじゃよー。他の令嬢方の元婚約者どもも、家ぐるみで噛んでいるはずじゃよー」
既に話を聞かされていたらしいセシリー以外の令嬢は、ハアとため息をついた。
「くっだらないよねえ。あの人たちがクーデターしよう!て思った理由わかる?セシリー嬢」
メリッサ嬢が行儀悪く頬杖をつきながら聞いた。
セシリーは首を横に振る。
「わかりません……こう言っては何ですが、カディス様は気難しい上にお考えが浅く、お勉強もあまり出来ず、ほんと外見しかいいところがないんですけど、とてもクーデターなんて思い付くような度胸がある方ではないんです」
おどおどと言うセシリーに、他の者はアッ……と察した。こいつ見た目の割にズバッと言うタイプだ、しかも悪気なく。婚約破棄にはその辺も影響してたのでは?と思う。
「ま、まあ、王太子については私も同意見かな。でも、あの人たちがクーデターを起こした理由は、マリー・ゴールド準男爵令嬢を愛するが故、らしいんだわ」
メリッサ嬢は告げた。
は?となるセシリーに、シャーリー嬢が続ける。
「同じ女を愛してしまった彼らは、落とし所を探したのでしょう。王太子が彼女を娶り、未来の王妃となれば、この王国で至高の座に座る。新しい王の側近として、他の者は彼女の側に侍ることができる。彼らの親はこの提案に乗ったのでしょうね、家格アップを狙って」
「きっも。逆ハー思考きっも!」
国王がまた何か理解しがたい単語を発した気がする。
「私のような子爵家はともかく、さすがに国王陛下や高位貴族のご令嬢方を、国外追放やら抹殺やらする度胸はなかったのでしょう。この王城南東の塔は、元政治犯を収用していた場所で、隠蔽魔法がかけてあるんです。ここに入った人間は、王都の住人の認識から外れるようになってます。『そういえばいたっけ?』レベルなので、完全に無にはならないんですが、いなくても気にしなくなるんですよ」
エリシア嬢が眉をしかめて言った。
エルモア子爵家は代々優秀な騎士を輩出する家系なためか、彼女も王城の仕組みに詳しかった。
その魔法のせいで、令嬢たちのご家族からも何のリアクションもないらしい。そもそも、学園の寮に入っている彼女たちは、夏期休暇でもなければ王都にあるタウンハウスに帰らなくても、疑問に抱かれないだろう。
「すまんのー、ワシが『誰がクソビッチの準男爵の娘との結婚なんか認めるかボケぇ』て率直に言ってしまったのが悪かったみたいでのー、その日の夜にはこの塔にぶち込まれてしまったんじゃ。ワシが出奔したとなると、全ての権利は王太子に委譲されてしまうからのー、王宮は奴らの言いなりじゃ。ご令嬢方には迷惑をかけたのう」
国王がぺこりと頭を下げる。
王宮の謁見の間なら一騒動起きそうだが、ここは隔離された塔の中。令嬢たちが頭をお上げくださいと慌てるだけだった。
「そんな……王妃様やお子様方、衛兵や城の者たちは何も言わなかったのですか?!国王陛下がこのような目に合っておられるのに!」
セシリーが声を上げても、他の令嬢たちはビミョーな顔でシンとした。
「ワシ、人望なくてのう。てへぺろ☆」
頭をコツンとやりながら舌を可愛く出すオッサン……国王陛下に、セシリーは意識が遠ざかりそうになった。
豚肉しかないので肉じゃがもカレーもシチューもポークです。