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あれから

その後のお話になります。

結論から言えば、今回の件は『王都から離れた学園都市で、若い学生が起こした騒動』として処理された。


王太子が主導し、4人の若者が追随した国家転覆事件であり、本来なら一族郎党連座で打ち首・または終身幽閉となるが、特例中の特例で、かなり軽めの処分となった。


そもそも、国王自身が政務をバックレたいがために、大人しく幽閉されたことが一番問題視された。


国王はこの国で5本の指に入るほどの剣の達人であり、4属性の魔力持ちである。彼を本気でどうにかするなら、元王太子の手勢ごときでは不可能。

なのに、国王自筆の書き置きを残して素直に連行されたり、現在未使用の南東の塔に水道を通して半年以上持つ食糧や魔石をこっそり配備していたことから、計画的かつ悪質であると非難された。


王を裁く法律はないが、今後、国王はかなり厳しい監視下に置かれることになる。主に王妃に。


その手始めとして、ぎっくり腰がちょっと良くなった3日後、王宮の重鎮が揃う中、王冠を被り直して誓詞を述べるという、セカンド戴冠式が行われた。

王冠はさっそく頭皮に食い込んで、国王はか弱い悲鳴を上げたという。


それから、当事者やその実家は、それぞれペナルティを負った。


主犯である元王太子カディスは、王籍剥奪の上、正神殿預かりとなった。

本来であれば国家反逆罪で極刑だが、悪夢に取り憑かれた状態であり、回復も見込めないため、呪いの研究材料としての神殿預かりである。つまりモルモット扱いだ。万が一正気に戻ったとしても、神殿の奥でぷいぷい言うしかできないだろう。


パトリス・ノルディクは、王都並びに学園都市から終身追放の身となった。心神耗弱が激しかったため、国外れの小神殿に送られた。

一般の勉強はできないが、魔法研究に並々ならぬ情熱を持っていた彼は、回復すればひとかどの研究者として、身を立てることができるかもしれない。

彼の手には常に、女性が髪をまとめるゴム紐があったという。

彼の父親であるノルディク学園長は、フォーリー学園長を辞し、息子のいる神殿の近くの町で、教職に就いたとか。


宰相のセファード侯爵は、侯爵位を返上し、息子に与えるはずだった伯爵位に収まった。

宰相としての執務は、このまま行う。

アンブロシア侯爵家のコルレット嬢がどうしてもと乞うたため、アダンは婿養子に迎え入れられた。

罰にならないのでは?という声もあったが、コルレット嬢がちょっとアレであり、アダンも生ける屍のような状態だったため、やがて誰も何も言わなくなった。


キルネン神官長も長の座を退き、正一位から従三位まで位を落とした。

息子のリュカはキルネン家を勘当の上、神官の資格を剥奪された。この国では神官にはなれないので、他の国に行くらしい。「らしい」というのは、その可愛らしい容姿を利用して、国内の金持ち貴族の家に婿入りしようと企んでいるという噂があるからだ。しかし、火傷のあとがハゲになってしまい、苦心しているようだ。


ロイクは二週間ほど生死の境をさ迷った。

彼が気が付いた時、枕元の花瓶の花を替えるエリシア嬢と、目が合った。


「あんたがあの時助けてくれたことには感謝してる。でも、それだけよ。ただ、ヒョロ茄子野郎の呼び方は改めてやるわ」


「わかっている。……ありがとう、そしてすまなかった」


それきり、エリシア嬢が彼の元を訪れることはなかった。


回復したあと、ロイクはドット家から勘当され、武の国として有名な遠国に旅立ったという。

ドット騎士団長は、長の任を解かれることはなかったが、三年間の減給処分となった。


コルレット嬢を除いた4人の令嬢は、婚約破棄ではなく、婚約解消となった。

セシリーとコルレット嬢は学園の卒業資格を得ていたが、メリッサ嬢とシャーリー嬢は復学手続きした上、学園に通い直すことにしたそうだ。

エリシア嬢はそのまま退学し、王宮で侍女兼騎士として働き出すという。


セシリーは将来の確たる予定もなく、結婚もなくなったので、家族のいる王都のタウンハウスに滞在していた。年の離れた弟ふたりの遊び相手になったり、親交を深めた令嬢たちと手紙のやりとりをしたりと、穏やかに暮らしている。


事件は王都から離れた学園都市で起きたが、学生たちの間で、話は広まっていた。好奇心にかられた貴族たちから、頻繁に茶会や夜会に誘われたが、全てやんわりと断っていた。本格的な社交シーズンに入る前に、領地の本宅に帰ろうかなと思い始めた頃。


王妃リュドミラから、お茶会の招待状が来た。


‡‡‡


「単刀直入に言います。セシリー・マードック公爵令嬢。こちらのゼシク・エニュラス公爵令息と婚約なさい。その上でゼシク卿を王太子とし、2人の間に生まれた子供に、王統を継いでもらいます」


「はあ」


リュドミラの圧力が満ち満ちている王妃のサロンにて、セシリーは気のない返事をした。


豪華なテーブル席の上座に王妃、その隣にエニュラス公爵夫人、更に隣にゼシク卿が座っていた。


(エニュラス公爵夫人は、ヘンドリック国王陛下の姉君で、元クラリッサ王女殿下だわ……ゼシク卿は確か次男のはずだから、長男のアラステア卿は、エニュラス公爵を継ぐのね)


セシリーは紅茶をひとくち飲んで、気持ちを落ち着かせた。

現王家に男子がいない今、この婚約話は順当な落とし所であると思われた。

ゼシクは19歳で、18歳のセシリーとは年齢も釣り合っており、カディスと違って人格者だ。

……しかし、セシリーはいまいち乗り気になれなかった。

12歳でカディスの婚約者に選ばれ、以来、王妃教育や、気ままなカディスの相手などで、セシリーはずっと気を張ってきた。

カディスがああなってしまい、すっかり気が抜けた所に、この話。


(お父様もお母様も、しばらくゆっくりしなさいと言ってくれたのに……)


セシリーが思案に沈んでいる間にも、王妃やエニュラス公爵夫人、ゼシク本人のアピールトークは続いていた。どうせ王命により、断ることは許されないのだ。

セシリーは同意を求められ、「はい」と答えるしかなかった。


お茶会が終わり、王宮を辞して、馬車までゼシクに送られた。


「マードック公爵令嬢は、王太子妃になりたくないのですか?」


途中でゼシクに尋ねられ、セシリーは足を止めた。

答えに窮していると、ゼシクはふっと笑う。


「いえ、余りにもピンと来ていない顔をされていたので。王妃陛下とウチの母上は乗り気ですが、マードック公爵令嬢がお嫌なら、私の方から、この話はなかったことにできますよ?」


「えっ……」


優しく言われて、セシリーは戸惑った。

するとゼシクは少しだけ顔をセシリーに寄せて、そっと言った。


「何を隠そう、私も王太子なんかまっぴらゴメンなんです。次期公爵として教育済みの兄さんならともかく、一介の公爵家の次男には、荷が克ちすぎます。でも、じゃんけんで負けましてね……」


話によると、エニュラス公爵家の長男と次男は、降って沸いた王権絡みの話に仰天し、お互いに押し付け合ったらしい。らちがあかないので、最後はじゃんけんで決めたそうだ。

こないだのスラーヴァ王みたいな話だな、とセシリーは思った。


「私は、どうせ国王になるなら、兄さんの方がずっと適任だと思ってます。よろしければ兄さんに会ってみてください。あなたの意見が聞きたい」


そう言って、ゼシクは馬車停まりではなく、王宮の庭園にセシリーを案内した。花が好きな公爵家長男が、そこに来ているという。


(……えっ?!)


促されるままに連れてこられたセシリーは、庭に立っている男性の後ろ姿を見て、ギョッとした。

その赤茶けた髪の色に、見覚えがあったからだ。


「アラステア兄さん!」


ゼシクが呼び掛けると、彼が振り返った。

……瞳の色は灰色がかった緑で、口ひげもたくわえていなかったが、明らかに、かの王族の面影があった。


セシリーもぽかんとしていたが、相手もセシリーを見てあんぐりと口を開けた。


「アラステア兄さん、紹介するよ。こちら、次期王妃と定められている、セシリー・マードック公爵令嬢」


「っ、あ、はじめまして、セシリー・マードックと申します」


「こちらこそはじめまして、アラステア・エニュラスです。」


ゼシクに紹介されて、慌ててふたりは自己紹介しあった。

何故かお互いに初対面だという気がしないふたりは、春の花の咲く庭園で、しばらく無言で見つめあった。


「……ククク、絶対兄さんの好みの女性だと思ったんだよ……!これで王太子は兄さんに決定だな!私は王太子も公爵もゴメンだから、三男(おとうと)に任せてトンズラさせてもらうゼ……!」


庭の噴水の陰で「計画通り!」とほくそ笑むゼシクは、誰よりも国王陛下に似ていたという(中身が)。



今日はあと1話、短めのヒロインの話をアップしたいです…!

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