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『国王に能わず』 (ホラー注意)

1日1話更新を目指して、昨日は間に合いませんでしたが、今日は間に合いました!


かなりホラーぽい上に王太子メインの回になりますので、苦手な方はご注意ください……!


カディスは歩いた。

王冠を手に、のろのろと足を進めた。

まわりがよく見えない。どんよりと薄い紫色の霞ががった視界は、ひどく狭く感じた。


ーー待っていろ、マリー。今、そなたを迎えに行くからな。


ギュッと右手の王冠を握りしめた。

やけにベタついているが、今はそんなことを気にしている場合ではない。

愛したマリーの行方もわからなかったが、自分が王位に就き、正妃はマリーだ!と宣言すれば、きっと戻ってくると信じていた。

何故ならば、これは『真実の愛』だからだ。2人が結ばれないわけがないのだ。


「……む?」


ふと、カディスは、行く手に人影があることに気付いた。

また悪女のセシリー・マードックの奴か!と気色ばんだが、そこにいたのは背の高い中年男性だった。


自分の国ではあまり見かけない、赤茶けた髪と同じ色の口ひげ、瞳。善良そうな顔立ちは、誰もが好感を抱くだろう。

彼は見慣れない衣裳を身に纏っていたが、その豪華さから、一目で高貴な存在だと知れた。


「……貴様は、誰だ。俺の邪魔をする気か」


油断することなくカディスが睨み付けると、男は声を上げた。


『国王は何処(いずこ)(おわ)すや?』


不思議なイントネーションの声だった。

カディスがもう少し勉強を真面目にしていたら、それが自国の古い時代の言い回しだと気付いただろうが、残念ながら「は?何言ってるのかわからん」レベルだった。


「国王なら、俺だ。見ろ、これが証だ。俺は国王になり、正妃を娶る。『グラウン』の名も、『天地』の属性も、マリーも、全て俺のものだ!」


カディスは誇らしげに王冠を掲げた。

血を滴らせた、汚れた黄金の冠を。


すると赤茶の髪の男は、スウッと無表情になった。

先ほどまでの柔和そうな顔は掻き失せ、ゾッとするほど冷たい視線がカディスを射る。


「な、なんだ、何か文句があるのか!」


思わず怯んだカディスに、男は告げた。


(あた)わず』


「は?」


(なんじ)、国王に(あた)わず』


カディスは相変わらず何を言われたのかよくわかっていなかったが、否定的なことを言われたことだけは肌で感じた。とたんに、いつもの癇癪が起きる。


「貴様!この俺を馬鹿にしているのか!さては、貴様も父上の手の者だな?!父上はもはや王ではない!これからは俺が王なのだ!雑魚が邪魔をするな!!」


雷の魔力がバチバチと放電した。

カディスはオーソドックスな火や氷の魔力より、比較的レアな雷の魔力を好んでいた。相手を痺れさせ、強制的に平伏させるところも気に入っている。

左手に溜めた魔力を放つと、雷はジグザグの軌道を描きながら、赤茶の髪の男に当たった。


「ハハッ、馬鹿め!無様に這いつくばるがいい!」


哄笑するカディスは高揚感に満ちていたが、ふと、笑いは止まった。驚愕に目を見開く。


そこにいたのは、赤茶の髪の男ではなかった。

シンプルな白のワンピースを纏った、1人の少女。


「セシリー・マードック?!いつの間に……!」


雷が当たった様子もなく、ただ立ち尽くす彼女は、悲しそうな顔をしている。

その瞳は、慈しみと憐れみに満ち溢れていた。

まるで神殿の女神像が如く、カディスを見つめる彼女に、思わず後退ってしまう。


『カディス・サザーランド。汝、国王に能わず』


その時発せられた声は、セシリーの声のようであり、違うようでもあった。威厳に満ちた、よく通る声。

カディスは一瞬気圧されたが、尊称も付けずに名を呼ばれたことに気付き、あっという間に激昂した。


「……おのれ、この悪女め!新たなる国王に向かって、なんたる無礼!なんたる不敬か!もう許さぬ、貴様も俺の前で這いつくばれ!!」


カディスは激情のままに、雷の魔力を発動させた。

魔力を放つために左手を振りかぶろうとすると、ギチっと音がして、何故か動かすことができない。

何事かと驚き、己の左側に目をやって、硬直した。

……真っ白い手が、カディスの左手を掴んでいる。

地面から長く伸びた細くて白い手が、何本も。


「ヒィイ!!」


カディスは悲鳴を上げた。

よく見れば自分を掴む手は、真っ白な骸骨の手だった。

慌てて引き抜こうとするも、がっちり掴まれていて、びくともしない。


『汝、国王に能わず』


今度は男の声が右から響いた。

ぎょっとして右側に視線をやると……王冠を握っていたはずの右手からは、いつの間にか王冠が消え失せていた。


その代わりに、自分が掴んでいたのは……生首。


赤茶けた髪、同じ色の瞳と、口ひげの男。

血みどろの生首はパクパクと口を動かして、同じ言葉を繰り返した。


『国王に能わず。国王に能わず。国王に能わず……』


「うわあああ!!」


たまらず、カディスは生首を放り投げた。

生首はゴロゴロと地面を転がって、カディスの方を向いてピタリと静止した。

無表情だった顔が、ぐしゃりと歪む。

目は落ち窪み、頬はこけ、皮膚は腐り落ちる。

すっかり髑髏に成り果てても、口の動きは止まらない。

カチカチと歯を鳴らしながら、言葉は繰り返される。


『国王に能わず。国王に能わず。国王に能わず……』


「や、やめろおお!!」


恐怖にかられたカディスが魔力を発動させようとするも、何も起こらなかった。骸骨の腕は無数に増えて、カディスの腕を、足を、胴体を引っ掻くようにまとわりついていく。


「ああっ!誰かっ……誰か、俺を助けろ!俺は国王だぞ!今すぐ俺を……誰かっ!!」


泣きそうになりながら、カディスは助けを求めて視線を巡らせた。

視界にセシリーが映る。

溺れる者が藁をも掴むように、先ほどまでの悪態も忘れて、カディスはセシリーにすがった。


「な、何をしているセシリー!俺を助けろ!貴様は光魔法が使えただろうが!それしか能がないのだから、命を賭してでも使え!とにかく俺を助けろ、早く!」


ギャンギャン喚くカディスに、セシリーは動かない。

悲しそうに見つめるばかりで。


「全てはもう手遅れです、カディス様。……お気の毒に」


震えるようにセシリーは呟いた。

それは昨日、卒業パーティーで追放するまで、毎日のように聞いていた、セシリー本人の声音(こわね)

だが、そこにあるのは憐憫ばかりで、親愛の情などは欠片もない。


「なっ……」


なおも喚き立てようとするカディスの顔を、骸骨の手が掻いた。


「ヒィッ」


とうとう骸骨の手は、カディスを覆い尽くしてしまった。

もがこうとしても体は動かない。

目も口もふさがれ、冷たい無機質な骨が容赦なく突き刺さり、カディスは喉の奥で悲鳴を上げた。

そしてそのまま、彼の体は、ズルリと後ろに引きずられた。……正確には後ろではなく、下に。


(や、やめろやめろやめろやめ、誰か誰か助けて……)


カディスはズル、ズルと引きずられる。地面の中へ。

埋葬されるがごとく、深い闇の底へ。


(イヤだあああああああああああああ)


恐怖と混乱と息苦しさが限界に達した時、カディスは糸が切れるように意識を失った。


「……えっ、ちょっと待つのじゃ!これ、15歳未満もオッケーの、コメディカテゴリじゃなかったかのう?!なんか別のカテゴリになってないかのう?!」


誰かの焦ったような声が聞こえた気がしたが、その時すでに、カディスの意識はなかった。



あと◯話で終わる終わる詐欺申し訳ありません……。

もう少しお付き合いください…!


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