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ヒロインはどこに消えたのか

続きです!

あと1話上げます!

「恐れながら、国王陛下!確かにマリー嬢は、僕の目の前で姿を消したのです!彼女はあの日、突然様子が変わって、もう飽きただの、このゲームはつまらないだの、わけのわからないことを言い出して、3階のバルコニーを乗り越えて、自分から飛び降りたんです!」


「何だと?」


アダンの訴えに、王太子たちが目を剥く。

令嬢たちも目を見張った。


「僕は、カディス様たちがマリー嬢の捜索を始めた時、速やかにバルコニーの下を確認しました!…ですが!どこにもマリー嬢の姿はなかったのです!!あの高さから落ちて、ご令嬢が無事でいられるとは思えません!明るくなってから探しても、血の染みひとつなかった!……何かカラクリがあって、彼女が自分から姿を消したか、もしくは何者かにかどわかされたとしか……!」


「アダン!貴様!」


カディスはアダンの胸ぐらを鷲掴んだ。


「貴様が!貴様がマリーを殺したのだろう!それを誤魔化そうとあんな嘘を……!もしくは貴様がマリーを隠したのか?!おのれっ、我が腹心でありながら、この裏切り者が!返せ!マリーを返せええ!!」


ガクガクとアダンを揺さぶるカディスに、まわりの者はあーあと思った。そりゃアダンも咄嗟にセシリーに擦り付けますがな、論理的な思考できないもん、この王太子……。


「どういうことでしょう、国王陛下。アダン様が出鱈目を言っているとは思えないのですが」


セシリーが聞くと、国王はウームと唸った。


「こりゃアレじゃな、データ飛んだかもしれんな」


「は?データ飛ん……?」


国王が言うには、この世界の元になったという『乙女ゲーム』は、様々な結末を迎えることができる。そして全ての『エンディング』直前に、必ず『最後の選択肢』が出るそうだ。


" あなたはこの世界を愛していますか? "

" 永遠に愛し続けることができますか? "


このふたつに両方とも『いいえ』で答えると、画面が暗転してオープニング画面に飛ばされ、セーブデータが消えているらしい。


「当時はしばしばこういうイジワル選択肢のゲームがあったんじゃがのう、だいたいは『セーブデータが消えました』という脅かしメッセージが出るだけなんじゃ。じゃがこのゲームはガチで消える。ニーアシリーズレベルで消える。SNSで少し騒ぎになったんじゃが、マイナー乙女ゲーだったんで、速やかに鎮火した」


セシリーには、国王の言っていることはよくわからなかった。首を捻りながら聞いた。


「ええと、つまり、マリー・ゴールド準男爵令嬢は、どうなってしまったのですか?」


「そりゃ、これまで積み重ねてきた全てが消え去ってしまったんじゃもの。……今頃は、ゲームスタート時の場所に戻ってるんじゃないかのう?知らんけど」


国王も首を捻りながら答えた。

正確なことは、国王にもわからないらしい。


……ただひとつ確かなことは、今この場所にマリー・ゴールド準男爵令嬢がいない、ということだった。

そして、錯乱した王太子が、面倒な方向に仕上がりつつある、ということ。

先ほどまでカクテルのごとくシェイクしていたアダンを放り出して、カディスは真っ赤な顔で国王に立ち向かった。


「父上!!父上がマリーを隠したのか!?そうだ、そうに違いない!!父上は始めからマリーを、びっ、ビッチ呼ばわりしていたものな……!おっ、おのれ、この悪国王めぇえ!!よくもマリーを!!マリーを返せええ!!」


あくこくおうって何だろう。言いづらいな。

あと、本当に語彙が少ないんだな、この王太子。


周囲の者が完全に諦めた顔でカディスを見守っているうちに、彼の中から魔力が迸った。

こんなんでもカディスは王太子だったので、魔力量は一般貴族の倍以上あった。

そして、王族特有の多属性持ち。火、氷、雷の魔力が合わさって、不吉な色のオーラが立ち上っている。

……それはもう、カディス自身が制御できないであろうほどの、魔力の奔流であった。


セシリーは眉を潜め、覚悟を決めた。


「国王陛下、王太子殿下はここまでのようです。塔を降りて遮蔽魔法の影響外まで待避し、速やかに玉座にお戻りください。王宮に王太子の捕縛要請をお願いいたします。ここは私が食い止めますので」


国王を守るように一歩前に出て、セシリーは進言した。


彼女の持つ光魔法は、全ての属性の魔力を無効化することができた。……しかし、とてもじゃないが、この状態のカディスに見合った魔力量は持ち合わせていない。


「マードック公爵令嬢!退がってくれ、これは俺の役割だ!」


突然、第三者の声が響き渡った。

それは先程まで、地蔵のように黙っていたカディスの取り巻きの1人、ロイク・ドットだった。

彼は騎士団の団員が、魔力を暴走させた時に使う魔封じの組紐を取り出し、王太子に絡ませた。

バチバチと音がして、禍々しいオーラが少し小さくなる。


「エリシア!国王陛下とご令嬢方を外まで誘導してくれ!早く!」


ロイクの指示が飛ぶ前に、エリシア嬢は既に動いていた。彼女の体を金色の光が覆っている。

『肉体強化』の魔法を発動させた彼女は、尋常ならざる力で両手に国王とセシリーを抱え上げ、暴走しつつある王太子の横をすり抜けて階段を降り、外に向かった。


「おおっ、ちっこいのに凄いのうエリシア嬢!」


はしゃぐ国王をよそに、セシリーは緊迫した。


ーーもし外に、王太子が連れてきた兵士がいたらーー


……しかしそれは杞憂に終わった。

魔法で遮蔽され、内側からはけして開かない扉は、無造作に開け放たれており、扉の外には彼らが乗ってきたであろう馬車が一台停まっているだけだった。


(あの人たち、本当に何も考えてなかったのね……)


馬車にいたふたりの御者が国王に気付いて、慌てて膝を付くのが見えた。


「御免つかまつる!」


一礼して、エリシア嬢が塔に戻って行った。

騎士言葉カッコいい、と国王がウットリしている内に、セシリーは御者に声をかけた。


「そこの者!マードック公爵家長女、セシリー・マードックが命じる!ただちに王宮に、国王陛下の環御を先触れせよ!」


すっぴんに簡素な服の令嬢でも、名前を出せば御者は飛び上がった。慌てて平伏し、賜りました!と叫んで1人が王宮に向かった。


「セシリー嬢もカッコいいのう」


ニコニコしている国王に、セシリーはつられて少し笑ってしまった。そんな状況ではなかったが。


「国王陛下は馬車にお乗りください。我々は後から参りますから」


「いやしかし、セシリー嬢」


そうこうしている内に、エリシア嬢がシャーリー嬢とメリッサ嬢を抱えて塔から出てきた。


「皆様方!早くお逃げください!」


エリシアの逼迫した声が響いた。

セシリーと国王は振り返って、目を見張った。



なんかバトル系になってきました…

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[一言] >ニーアシリーズレベルで消える ちょっ・・・! それガチでやべーやつぅ!!
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