99:剣王編⑭ヘイムの足掻き
「お見事です師範。流石ですね」
ヴォークトが二人の師範との戦いを制した直後に賛辞の言葉とともにブルーノが姿を現した。
「ブルーノ。今まで何していた」
「ハクモの師事でレミスさんを里の外に出す手伝いを。無事逃がせました。その後で黒剣を持ったマクファーソン師範代とスネイル師範代にも襲われました。なんとか倒して今に至ります。」
「そうか」
ブルーノの状況報告にヴォークトが頷いていると、不意に声がした。
「ガンピード師範…、ダビッドソン師範…」
気落ちしていて、嘆きに近い。それはミカルゲの金魚の糞の一人のつぶやきだ。
剣士の多くはヴォークトの指導も受けているが、それ以上に老齢の師範の指導を受けている期間が長い。恩に感じていたり、慕っている者もいる。
敵対したからといってすぐに割り切れるものでもない。
嘆く剣士はずっと地面を見ていたが、しばらくして顔を上げた。
偶然だろうが、ヴォークトと目が合った。
「まあ、恩はあるけど、あれだ、恨みっこなしだ。敵側の仕事を受けたのが悪いな。うん」
唐突に態度を翻す。
身に危険がなければ自らの正義に酔ってヴォークトを糾弾していたかもしれない。
殺すのはやりすぎだと義憤に燃えたかもしれない。
しかし手の届く距離にヴォークトというイカれた猛獣がいる状況でそれをするほどバカではなかった。
「師範二人の造反は残念だった!だがそれを乗り越え僕達は生きていく!切り替えろ!僕達はいまだ戦場にいる!」
ミカルゲの言葉に他の剣士達も頷いた。
「先程ヴォークト師範とは別種の力の奔流があった。おそらくヴィクトリアだろう。ひとまず合流しよう」
そして剣士達はヴィクトリアの元へと向かった。
「降伏しろヘイム」
俺はヘイムに告げた。
少女剣士の白夜光によってヘイム以外の敵勢力が一掃された。
多勢に無勢。俺たちは圧倒的優位にある。
「お前を人質に暴れてるヴァジュラマ教徒共を脅しつける」
「言い方!」
ヘイムを降伏させれば人質としてだけでなく、貴重な情報源にもなる。未だにヴァジュラマ教徒の幹部からの情報を聞き出せたことがない。
「厳しい状況ですね。正直魅力的な提案です」
苦笑するヘイム。
その様子に俺の説得がうまくいくかもしれないと期待が高まる。
そんななか部下がポロッとつぶやいた。
「そういえば大鷲の上で『前回のリベンジです。この時のために傭兵を雇い、老いた師範を唆し、仲間を結集しました。さあ、殺し合いましょう。』とかカッコつけてましたよね。」
「どんな気持ち?ねえどんな気持ち?」
煽る部下。
「ぐっ」
痛いところをつかれ呻くヘイム。
「おい煽るな。今降伏しかけてただろうが」
「お頭も顔、笑ってるじゃないっすか」
そういう部下もまた、顔が笑っている。
笑いをこらえながらヘイムに視線を向けると眦がヒクヒクと動き、青筋が額に浮かんでいた。
「魅力的な提案ですが、私には役目があります」
「ほらあ!お前らがバカにするからヘイム、覚悟決まっちゃったじゃん!」
「いいかげんことを言わないでください!元から降伏する気などありませんでしたよ!」
そしてヘイムは黒剣と豪奢な杖を地に突きたて叫ぶ。
「代償の蔵!」
言葉とともに筐体がヘイムの眼前に出現する。
筐体は出現と同時に凄まじい力を発し、余波で俺も含めヘイム周辺の人間が吹き飛ばされた。
ヘイムは筐体、黒剣、豪奢な杖に手をかざし目を瞑る。
ヘイムがコチラにとって不都合なことをしようとしているのは明らかだ。
「クソ!誰か止めろ!」
「ヴィクトリアさん。どうにか出来ませんか」
「無理だよ。さっきのでガス欠」
モネの要請に少女剣士が困ったように返答する。
超神体と白夜光は使用者に大きな消耗を強いる。一日に何度も使えるものじゃないし、体力も残らない。
しかし、白夜光を即座に使用したのが間違いかと言うとそうではない。下手に温存してたら無駄に負傷して下手すれば死んでいた。
青炎纏った三剣王のゾンビ他多数を相手にするのはそれだけ厳しいことだ。
体力消耗しているとはいえ無傷でいる今が最も最善といえる。
「お嬢様の恩寵は?」
「残念ですが、私の恩寵は本当に戦闘に向いていないのです。」
俺にかけていた飛翔の恩寵も着陸したことで解けている。
再度恩寵を使用する余裕はない。
「これはあなた達を排除してからにしたかった。しかし、この地はすでに十分な怨嗟と死に満ちている」
ヘイムはそう呟き、詠唱した。
『力の根源たるヴァジュラマよ!血肉と怨嗟と数多の非業の死を遂げた魂を対価に肖像をなせ』
筐体の上方になにかの欠片が集まっていき形を成す。
「代償の蔵に蓄えた力だけでは叶わなかった。里の騒乱だけでも叶わなかった。だが、2つの条件が揃えば叶う。」
そこに生成されたのはヴァジュラマ像。
「これが最後の像です。」
そしてヘイムは黒剣を振り下ろす。
最後のヴァジュラマ像が破壊され、その力が解放された。
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