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98:剣王編⑬師範

 師範二人が発動した黒神体はヴィクトリアの扱う超神体に著しく劣るものだった。しかし超越体とは比較にならない力を内包している。


 ヴォークトは剣士で最も強い剣気を有すると自負していた。事実ヴォークトの超越体に純然たる力で敵う者はいない。


 しかし、そのヴォークトをして明らかな力の差を感じ取らずにはいられなかった。


 だが、ヴォークトの戦意は萎えることなく、むしろ獰猛に笑う。


「技を極めてそのあげく、結局力に頼るというのはどういう気分だ!?」


「ふん。負け犬の遠吠えにしか聞こえんわ」


「儂らに敗北した時のいいわけでも考えておけ」


 そして師範二人はヴォークトに襲いかかった。


 黒神体の力は強く、ヴォークトは二人の攻撃を往なしてなお、四肢にダメージを受ける。


 まともに受け止めることは不可能で、下手な躱し方をすると風圧で体勢を崩しかねない。


 その極限状態のなかヴォークトはおおよそ理想的な回避を繰り返し、反撃すら成功させた。


 しかし、それでもなおダメージは蓄積していく。


 ヴォークトのむき出しの上半身。その至るところが内出血により変色している。数え切れないほどの裂傷が刻まれ流血している。肋骨に鈍い痛みがあり、骨折しているかもしれない。疲労もピークに達しており、呼吸が荒い。


 反対に二人の師範は裂傷はあるものの、負傷は軽微だ。


 ガンピードがダビッドソンとタイミングを合わせて斬りかかる。ヴォークトは剣撃を往なし、躱すも、膝蹴りが腹部に命中する。


「があっ」


 本来なら距離を取るところをヴォークトはダビッドソンの追撃を躱し、反撃する。


 ダビッドソンは躱しきれず、頬に深い傷を負うが戦闘に支障はない。


 ダビッドソンはヴォークトを蹴り飛ばし距離を取る。


 ヴォークトは即座に姿勢を整え、二人の師範を見据える。戦意と殺意で目をギラつかせる。


「けっ、惜しいな。目に当たれば視界を奪えた。」


 疲弊しながらも戦意を失わないヴォークトに優勢なはずの師範たちの方がだんだんと気圧されてきていた。


「なぜ倒れぬ。なぜまだ動ける!?」


「はあ?まだ死んでないからだろうが。本当に盲碌してんだな。お前らが俺に教えたことだろうが」


 ヴォークトは師範になる以前はガンピード、ダビッドソン両師範に師事していた。若き天才として二人の期待を一身に受けていた。


「他者は利用価値で計れ。自らの欲求に真摯たれ。剣の冴えはそうして生まれる」


 ヴォークトは師範の教えを諳んじながら、地を舐めるように低姿勢で踏み込み、ダビッドソンを襲う。助勢にきたガンピードの剣を躱し、剣の柄で顔面を殴りつける。


「ぐあっ!クソ!この恩知らずが!」


 ガンピードが殴られた頬を抑え、叫んだ。


「恩?お前らが俺に剣を教えたことか?それはお前らの義務だろう?その義務をこなすことでいけすかない小汚い老人が食料と敬意を享受していたはずだ。なぜ恩に感じなければならない。」


 ヴォークトは剣技を教授され、師範の認定を受けるまでは理想的な弟子としての振る舞いをしてきた。


 弟子としての振る舞いがそのまま師範たちの言う恩に対する報いだと認識していたし、今もしている。


 老齢の師範たちの言は恩着せがましく感じる。


 当時の恩は当時の行動で贖われているはずで、そうでなければ一体いつまでその恩とやらに縛られ続けなければならないのか。


「仮に恩だったとして、お前たちは俺という天才師範の師を名乗れる。それだけで師範としての実績になる。恩は十分過ぎるほどに返した。」


 ヴォークトは幼き頃よりその才能が知られていた。そのためガンピードもダビッドソンも揃ってヴォークトに技を教えたがった。


 教えれば教えただけそれを吸収する弟子の教育は面白い。


 さらに言えば、ヴォークトの才能が突出しすぎておりヴォークトが未来の里の重役を担うのは明らかだった。そうした傑物の人生に関わりたいと思うのは普通のことだろう。


 要はヴォークトも剣の指導を受けたが、師範たちもまた自ら望んでヴォークトを指導していた。指導していなければ、今頃指導していた方が、指導してない方より優越的な立場に立っていただろう。


 ときにはヴォークトに対する影響力を持とうと威圧的な言動を取ることもあった。それをヴォークトは彼らに師範認定の権利があるために我慢してきた。


 特に恩に感じる筋合いはないようにヴォークトは思う。


「何を言うか!?貴様のその力は儂らの指導の賜物だ!」


 だが、師範たちからすればヴォークトを師範と認めた途端に態度が変わった。それを裏切りと感じる。不義理と感じる。


 それもヴォークトに言わせれば理のない感情論にすぎない。技能以外の価値を自らに提供出来ないのが悪い。


「俺の力にお前らが寄与しているのは認めよう。だが、それだけだ。俺の力の大部分は俺の才能に依存している。俺以外に師範たりうる人間が出てきていないのがその証拠だ。本来お前たちに師範を産み出すほどの教育をする能力はない。むしろ過大過ぎるほどの実績をお前たちに与えた。報いた。釣りを返してもらいたいくらいだ。」


「その考えが貴様を破滅させるのだ!」


 二人の師範の猛攻がまたもヴォークトを襲う。


 ヴォークトは徐々にその攻撃を往なしきれなくなってきた。


 傷が増え、血が流れる。


 満身創痍。追い詰められていく。


「ふははは!威勢の良いこと言っても力の前では意味をなさぬ!」


 ガンピードが快哉を叫ぶ。しかし鋭い黒剣による連撃をヴォークトに紙一重でかわされる。


 危機に瀕するほどに動きが洗練されていくのをヴォークトは感じていた。


 痛みが和らぎ、視界が広がる。


「いい加減!諦めろ!貴様はもはや儂らに敵わぬ!」


 重い風切り音とともにヴォークトをダビッドソンの凪払いが襲う。


 ヴォークトはダビッドソンの懐に飛び込むことでその攻撃を無力化する。


「ぐおっ!?」


 予想外のヴォークトの動きと苦しい体勢にくぐもった嗚咽がダビッドソンから漏れる。


 ヴォークトはそれを無視してつぶやく。


「クソ愚妹が流血するほど早く動けるとか言ってたが、馬鹿め、死にひんすると戦う以外の機能が停止して脳の処理が早くなるだけじゃねえか」


 ヴォークトは超越体の維持も難しくなってきた。ガンピードもダビッドソンもヴォークトの限界に気づきほくそ笑む。


「だが、人を殺すのに大した力はいらないというのは事実だな」


 瞬きの刹那、ヴォークトはダビッドソンの意識の合間を縫って首を掻っ切った。


「かっ、かひゅっ」


 ダビッドソンの首は深くえぐれ、血飛沫が上がる。ダビッドソンは目を見開く。必死の形相で空気を集めるかのように空中を掻く。だがやがて脱力し、倒れ込んだ。


「ダビッドソン…」


 ガンピードは盟友に凄惨な死に息を呑む。


「次はお前だガンピード」


「ダビッドソンを屠ったからといい気になるな。現にお前は超越体を維持できていない。お前も限界だろう」


 ヴォークトの超越体は維持限界を迎え、もはや僅かな剣気しか残っていない。


「黒剣の恩恵を受ける儂の力の限界はまだまだ先だ!」


 かするだけで骨が砕けそうな剣撃が連続でヴォークトを襲うが、ヴォークトはことごとくそれを避ける。表情一つ変えないその様子がガンピードを焦らせる。


「ぐっ、なぜだ。なぜ当たらん!」


 ガンピードが遮二無二剣を振るう中、ヴォークトは新しい力を自身の中に感じていた。


 剣気と共に新たな力を燃料として投下する。


「命を削り力とする。一振りで骨はハズレ、筋肉は断絶するだろう。」


 命を代償に力を得る。ヴァジュラマ教徒と行き着く先は同じだった。


 しかし、ヴォークトは黒剣や信仰を経由せず直接自らの生命を力に変換する術を見出した。


 ヴォークトの丹田で剣気と生命力が合わさり膨張し体外に溢れ出す。


「馬鹿な!何だその力は!?」


 目視可能な濃密な力の奔流は雷光のごとき威容と紫電の輝きを放つ。


 後ずさるガンピード。その隙をつき神速の踏み込みでガンピードの膝を蹴りぬき機動力を奪う。


「ぎゃあああ!」


痛みに叫び声を上げるが、ヴォークトは表情を変えず止めの構えだ。


「頼む見逃してくれ!せめて命だけは!」


 ヴォークトが剣を振り上げたその時、ガンピードが命乞いを始めた。もはやヴォークトには敵わぬと理解した。


「死ぬ覚悟でその黒い剣を手にしたんじゃねえのかよ」


 ヴォークトは呆れる。


「貴様に人としての心は、情はないのか!?」


「情なんてのは脳みその誤作動だ。」


 振り上げた剣に力を収束させる。


「そして心というのは優先順位のこと。そしてお前は順位外だ」


 ヴォークトは剣を振り下ろした。


『タケミカヅチ』


 落雷に似た轟音が辺り一帯に轟きガンピードはその生涯を終えた。


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