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92:剣王編⑦

「モネ、女神像はあるか。」


「アイギスが持っていて手元にありません。」


 俺の問いに、モネは答えた。


 まずはあの大鷲が厄介だ。空を飛ばれると相手に攻撃が届かない。だが、相手の攻撃はこちらに届く。


 女神像を用いて聖域の結界を張れば闇の眷属は入ってこれなくなる。すでに結界内にいるものは弱体化する。あの大鷲も攻撃が届く範囲にまで飛ぶ高度を落とすかもしれない。


 結界を張るための儀式に時間はかかるが、部下共を動員すれば不可能ではない。やるだけの価値はあると思ったが、手元にないのでは仕方がない。


「あの大鷲をどうにかしたいということですよね。」


 モネは俺の意図を察したようだ。


「そうだ。」


「私にはあまり戦闘向けの恩寵はないのですが…」


 モネはそう言うと俺に手をかざし、詠唱した。


『彼らは鷲のごとく翼を張りて登らん。走れども疲れず、歩めども倦まざるべし。かの者を地の枷から解き放ち給え。飛翔』


 すると、俺の身体は光に包まれ、足が地から離れた。


「お、おい!これどうやって制御するんだ?」


 空中に浮かんでいるだけで制御不能だ。これで空を飛び、あの大鷲とその背に乗る奴らを落とせということだろうが…。嫌な予感がする。


「制御権は残念ながらあなたにはないです。私の制御下にあります。」


「え!?」


「私があなたを大鷲に向けて放ちますので、そこからはフランシスコ、お願いします。」


「おい、待て待て待て!」


「お頭嫌なら我やってみたい!面白そう!」


 少女剣士が言った。こいつ人の気も知らないで…。だがぜひ代わってほしい。


「そうだな。大事な役割だがお前になら任せられる。頼んだぞ!」


 両手を上げて役割を交代しようとした。しかし…。


「残念ですが、アスワン教徒の神官にしか効力を発揮しないのです。」


「なに!?」


「ちぇっ」


 俺と少女剣士が揃って落胆の声を漏らす。


「普通の神官にやると大事故になってしまいそうで出来なかったんですが、フランシスコなら安心です。さあ行きますよ!」


「また自傷覚悟の特攻かよ!?」


「外聞が悪いですね。そうですね、神風とでも名付けましょうか。」


「おい話をそらすな!それと自殺特攻にふわっとした素敵なラッピングしてんじゃねえ!」


「いいではないですか。どうせあなたも他に妙案があるわけではないのでしょう?」


 確かにあの大鷲を落とす案は俺にはない。


「……。」


「ほらね。覚悟を決めてください。」


「ぐっ……、くそったれ!」


 俺は覚悟を決め、二本のメイスを取り出し構える。頭部を守るようにメイスを頭上で十字を描く。


「では行きます。人間弾頭フランシスコ!」


「おい変な呼び方すんな!」


「発射!」


 そして俺は空を旋回する大鷲とヴァジュラマ教徒に向かって矢のごとく高速飛翔した。





 一方その頃レミスは以前から雇っていた傭兵達とともに、騒ぎが過ぎるまで身を隠す場所を探していた。


「隠れましょう」


「へい。了解です」


 レミスの雇った傭兵達はアスワン教の神官と親密だったため、情報流出をおそれヴァジュラマ教徒は接触しなかった。


「はやくあの娘に見つかる前に!」


「へい!」


 レミスはどこか慌てた様子でそう言った。傭兵たちもまたそこはかとなく落ち着きのない様子だった。


「見つけた。」


「ひっ」


 唐突なハクモの声にレミスは悲鳴を漏らす。


 声の方に視線を向けると拳大の白い球体に目と羽がある。ハクモの眷属だ。そこからハクモの声がする。皮肉なことにレミスとともに討滅した迷宮で調伏した眷属だ。


「時間がないから単刀直入に言う。こちらは今、苦痛のヘイムを含むヴァジュラマ教徒と交戦中。傭兵団と老齢の師範二人を含む剣士の一部がヴァジュラマ教についた。レミス、隣村に言って今の状況を教会に伝えて。可能なら援軍の要請を。」


 案の定、仕事の話だ。ハクモはいつも困難な仕事を持ち込む。ハクモの眷属を飛ばせばいいじゃないかとも思ったが、ハクモの眷属も操作できる範囲に制限がある。隣村はその範囲外だった。


「え、里から出るの?里境、人が多い上に争いが激しいんだけど…」


「じゃあこっちにきて四大魔と戦う?」


 しかも、断りにくい仕事の振り方をする。レミスはすぐに損得を計算し返答した。


「隣村行ってきます!」


 白い球体の眷属の目がレミスから傭兵に向く。


「ペドロ」


「へいっ!」


 ペドロはレミスの雇っている傭兵の隊長だ。


 幼女の声を相手に身体を縮こませておりその威厳はないが、間違いなく一流の腕利きだ。


「ペドロは敵じゃないよね?」


「もちろんですぜ!ハクモさんには逆らいませんや!」


「そう。じゃあ、レミスの護衛をお願い。こちらからもボーナス出すから」


「へへへ。ありがとうございます。お任せください。」


 ペドロは直立不動でそういった。


 白い球体の眷属はその言葉に満足し、その場を去った。


「ふー」


「行ったか…」


 ハクモの眷属が立ち去ったのを確認し緊張を解く。


「で、どうします姐さん?」


「従うに決まってるでしょ。あの幼女怖いのよ。」


「同感ですぜ。逆らっちゃいけねえ匂いがプンプンしますぜ。」


 そしてレミスとペドロとその部下達は隣村に向かった。


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