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91:剣王編⑥襲撃

 剣士の里には荒くれ者だらけだ。腕っぷしも強く、そこかしこで喧嘩が起きる。


 喧嘩する人間が勝手に怪我するのは構わないが、商店、宿、他資産が壊されてはたまらない。


 よって剣士の里では腕の立つ剣士が常に巡回している。時は夜中で暗闇が一面を覆っているが、等間隔で設置された灯籠があたりを照らしている。


 本日は剣王を決める戦いが明日に控えている。


 その前夜祭として盛大に宴が行われている。酒に酔う者も多く、必然的に治安も悪くなる。更にタダでさえ人が増えていて、よそ者ばかり。


 巡回の人員を増やさなければならなかった。


 騒ぎ自体は頻繁に起きていた。人員を増やしてなお目が回る忙しさだったが、いつも通りといえばいつもどおり。


 特に違和感は感じなかった。


 だが、突然それは起きた。


「がっ、かはっ!」


 小さな嗚咽が聞こえた。


 そして直後にきゃーと甲高い悲鳴が上がる。


 人が刺されたようだった。


 暴力沙汰は多いが殺人が起こることはめったに無い。剣士の里でも無闇矢鱈な殺人は重罪だ。


 驚き、被害者の元へ駆けつけようとしたが、悲鳴がそこらじゅうから聞こえ始めた。


 巡回の剣士にも腹を刺され血を流し倒れ込む男が視認できた。


 その場面に見入っていたら刺した男と目があった。


 そしてその男は手にしていた短剣を捨て、背中から黒い長剣を取り出し、巡回の剣士に襲いかかってきた。


 巡回の剣士が襲われるなど異常事態である。


 度肝を抜かれつつも、剣を鞘から抜いて対応する。


「貴様、どういうつもりだ。」


 まさか返事が返ってくるとは思わなかったが、返事はあった。


「どういうつもりも何も仕事だよ。」


「は?」


 驚きとともによくよく顔を見てみると、男は大きな傭兵団の腕利きだった。


「お前!」


「流石に巡回の剣士相手だと勝ちきれねえな。」


 傭兵の握る黒い剣が怪しげな光を放つ。そして傭兵は詠唱した。


『偉大なるヴァジュラマよ!血を代価に!大いなる力を与えたまえ!』


 傭兵の持つ黒い剣を起点に目視できるほどの力が溢れてくる。そして傭兵の力と速度が急激に強く速くなった。


「ぐっ…」


 強化された傭兵に剣士はどんどん追い詰められていく。


「金のためだ。悪いが死んでくれ。」


 傭兵は剣士の晒した隙に容赦なく剣を振るった。黒い剣閃の跡を血しぶきが舞う。


 そして巡回の剣士は灼熱の痛みとともに意識を手放した。


 その後、少ししてようやく警鐘が里中に鳴り響いた。


 その時にはすでに同じような騒ぎが里の至るところで発生していた。







「おいおい、マジかよ。勘弁してくれ」


「囲まれてしまいましたね。」


 モネの言葉通り、俺達はヴァジュラマ教徒と思われる黒い外套を羽織った者達に囲まれてしまっている。警邏のいうようなタダの傭兵の裏切りじゃなさそうだ。


 里の至るところから悲鳴が聞こえてきているし、視界を確保するための火にしては大きすぎる火の手が上がっている。結構な騒ぎになっている。


 この騒ぎにヴァジュラマ教徒が絡んでいるとなるとかなり深刻な事態かもしれない。


 俺が気を引き締めていると、横から緊張感のない声がする。


「ここまで多いと壮観です。」


「言ってる場合か」


 などとモネと話す間も奴らから視線は外さない。


 背後から少女剣士がやってくる。


「うわっ、偉いさわぎだね。」


「お頭、ハクモちゃんがアイギスとレミスに連絡をとるために眷属を放ちました。あ、あとヴォークト師範と剣王にも送ったみたいです。情報収集他指示等はハクモちゃんが担当してくれるのでお頭は戦いに集中してください。」


 部下の言葉にモネが感嘆の声を漏らす。


「将来有望な後継者が育っていますね。」


「親が優秀だと娘も優秀に育つんだよ。」


「では、フランシスコの優秀なところも見せてもらいましょうか。」


 しょうがない。


 警鐘が鳴らされている状況下でヴァジュラマ教徒らしき集団に囲まれ続けるのはよろしくない。


 まずは暴力を振るっていいか確認して、良いなら物理的に蹴散らすとしよう。


 普段なら相手に信を問うという無理ゲーが発生するが、今回は横に俺の行為に責任を取ってくれる上司、聖女様がいる。


「聖務執行の許可をくれ」


 聖務執行とは当然暴力のことだ。暴力は教義上の正義と道徳という大義を背負うことで聖務となる。


「断ったらどうしますか?」


「許可するまで奴らをお前にけしかける。」


「ふふふ。冗談ですよ。そうにらまないでください。」


 聖女はクスクスと場違いに軽い口調でそう言うと、ようやく真面目な表情で命じた。


「聖女モネが聖務の執行を命じます。フランシスコ・ピサロ、神敵を討て。」


「信仰の名の下に、血祭りだ!」


「我もやるよ!」


「我々の信仰はいつだって無数の異教徒の屍の上にあります。彼らもその礎に加えてあげてください」


 そして俺と少女剣士と部下数名で黒い外套に身を包んだ集団に襲いかかった。


 そしてすぐに制圧した。そこらのヴァジュラマ教徒など物の数ではない。


 黒剣を使用していたためヴァジュラマ教徒、もしくはそれに与するものであることは確定だ。情報を吐かせるため、止めは刺さず、拘束している。


「なんかお頭、今回ちょっと張り切ってなかった?」


「そんなことないだろ」


 何やら訝しんでいる少女剣士に気のせいだと否定する。


「そんなことありますよ。これだけ戦力差があったら普段なら俺らに任せるところでも手ぇ出してましたし」


「……」


 余計なことを言う部下から目を背けるとモネと目があった。


 モネはにやにやと嫌な笑みを浮かべている。


「なに見つめ合ってんすか。状況わかってんすか。イチャイチャしないでください。」


「イチャイチャしてねえ。それよりコイツラ尋問するぞ。」


「ごまかした…」


 不満げな少女剣士を無視して拘束したヴァジュラマ教徒を尋問する。


 するとあっさりこの襲撃の状況を教えてくれた。


 こいつらヴァジュラマ教徒は自己顕示欲が強く、自らが行っていること、携わっていることをとにかく他人に言いたくて仕方ない。尋問事態はスムーズに行われた。


 ヴァジュラマ教徒の分かりづらい構文も少女剣士がいれば容易に解読できる。


 尋問の結果、今回の襲撃はやはりヴァジュラマ教徒が企てたもののようだった。


 傭兵を大金で雇い、老齢の師範二人を唆し、ヴァジュラマ教徒を結集させているとのこと。


 老齢の師範とはガンピード師範とダビッドソン師範のことだ。


「ああ。あの二人ね。兄上に相当やり込められていたし、軽んじられていたからね。我慢できなくなっちゃったかぁ。」


 少女剣士が内容のわりに軽い感じでそう言う。


 なっちゃったかぁ、じゃねえ!


「剣士は軽んじられた程度で里を攻撃するのか…。裏切り行為以外のなにものでもないだろ。」


 傭兵はともかく、剣士まで抱え込んでいるとなるとかなり厄介だ。とはいえ老齢の師範二人に従う剣士の数はそう多くない。年配の者が多いし、年配で現役の剣士は少ない。


「で?今回の襲撃の目的は?」


「目的?我らは争いと混沌を望むヴァジュラマ教徒だぞ!!襲撃そのものが目的だ!!」


 往々にしてコイツラのような下っ端には作戦目標は知らされていないものだ。よくあることだが、やはり肩透かしを食らう。


 憤懣遣る方無くしていると、唐突に上空から詠唱が聞こえた。


『敬虔なる同胞よ。その命、神に捧げる供物となれ』


 その言葉とともにヴァジュラマ教徒の身体が発光し、光の粒となって霧散した。


 光の粒は声の主の元へ集まっていく。


 そこには黒い大鷲の背に乗るヘイムと数名の教徒。大上段からこちらを見下ろしていた。


「まさかすでにやられているとは」


 ヘイムの声だ。代償術でも使用しているのか、声が届くような距離ではないのに声が届いている。


 遠目からでもヘイムがこちらを見回しているのがわかった。


「お久しぶりです。生ける屍フランシスコ・ピサロ、ヴィクトリア師範代、そしてはじめまして聖女モネ。四大魔が一人ヘイムです。」


「まさかマルコ師範代も!?」


 少女剣士が以前敗北を喫しているマルコがこの場に来ているのか問う。再戦を期待しているのだろう。


「彼はいません。大事な別件がありますので」


 ヘイムの返答に少女剣士は肩を落とす。


「そんなことより、今日は前回よりも多くの、そして強力な仲間を連れてきています。前回のリベンジです。この時のために傭兵を雇い、老いた師範を唆し、仲間を結集しました。さあ、殺し合いましょう。」


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