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89:剣王編④少女剣士VSブルーノ②

 剛体により荒々しく地を踏みしめ、剛剣を振るったかと思えば、音もなく瞬体の神速で隙をつく。


 緩急の激しい攻防は流体の使い手同士故だろう。


 片腕を切り裂かれたブルーノの圧倒的不利に思われたが、気づけば互角の斬りあいを演じている。


「だんだん身体が温まってきましたねヴィクトリア!」


 満身創痍でありながら、時間とともに動きにキレが増していくブルーノが昂りにしたがって叫ぶ。


「神聖な殺し合いに無駄口叩くな!」


 一方ヴィクトリアも負けず劣らず、目に見えて動きが向上しているが、昂るブルーノとは反対に感情が抜け落ちたように平静になっていった。ヴィクトリアを知る者からすれば意外なほどに。


 しかし同時に口にする言葉は戦いの場にふさわしい物騒さを備えていた。


「くははは!とんだ戦闘狂だ!なんですか神聖な殺し合いって。そもそもこれは優劣をつけるための戦いで、結果的に命のやり取りになることはあってもそれは目的ではないですよ。」


 ブルーノはヴィクトリアの言葉が痛く気に入った様子で、笑いながら更に調子を上げた。


 ヴィクトリアもそれに追随する。


 戦いは更に激しさを増した。


 ヴィクトリアは極度の集中状態にあった。心が強敵に沸き立つのを感じながらも平常心を保つことが出来ている。頭はよく周り、視界も広い。


 そして剣気と力の流れを感じる第六感が拡張しつつあるのを感じていた。


 未知の力がすぐそこにある。


 新しいなにかが掴めそうだった。


 剣と剣の剣先に命運を左右する何かが宿っている。そこに神聖さを感じずにはいられない。不思議な酩酊感がある。


 だが、不意にブルーノの一撃を受けた。


「うぐっ!?」


「今、集中が乱れましたね。」


 ヴィクトリアは新しいなにかに気を取られ、気づけば戦いから注意がそれていた。


 攻撃の衝撃で、掴みかけていた感覚も霧散してしまっている。


「何かしらの変化の兆しがありましたが、変化というものはたとえ長期的に良いものだったとしても短期的には悪い方に働くことも多いんですよ。」


 ブルーノの言葉にヴィクトリアは顔をしかめる。


 攻撃を受けたのは右の太もも。しかも大きな血管を傷つけていて血が止まらない。剣気で血を抑制してなお、そう長くは戦えない。


「これでやっと互角ですかね。実は私も限界です。決着をつけましょう。」


 ブルーノの誘いに乗るのは癪だが、他にしようがない。


 ヴィクトリアはブルーノと同時に奥義を使った。


「「超越体」」


 剣気が更に増幅する。


「一撃で決める!」


「超越体もあまり長く維持出来ませんからね。」


 ヴィクトリアの威勢のいい言葉にブルーノが応える。


 ブルーノもヴィクトリアも必要な箇所に必要なだけ剣気を送り集約していく。


「白閃光!」


「超密多羅!」


 ヴィクトリアとブルーノの力がぶつかりせめぎ合う。


 力の余波により目を開けているのも困難だ。


 そして目を開けていても、ほとんど何も見えない。


 だが、それは突如として終りを迎えた。対抗する力が消失したのだ。


 おそらくヴィクトリアが超越身体を維持できなくなったのだろう。そうブルーノは思った。


 ブルーノは安堵した。自身もまた超越体の維持の限界が近かったからだ。ブルーノは勝利したと思った。


 しかし、この手に伝わるべき、敵を引き裂く感触がない。


 視界を取り戻した時、その理由をブルーノは悟った。


「一撃で決めるって言ったね。あれは嘘だ!」


 眼前には未だ超越体を維持し、剣を振りかぶったヴィクトリアがいた。


「マジですか…」


 先程の力の消失はただ力を往なされただけだったとブルーノは気づく。


 慌てて体勢を立て直そうとするももう遅い。


「白閃光!」


 そして再度ヴィクトリアは膨大な剣気の集約された剣を振り下ろした。


 そしてヴィクトリアは剣王への挑戦権を手に入れた。










「何てざまだ!この体たらくは!」


 スネイルはヴィクトリアに敗北し、マクファーソンはブルーノに敗北した。


 どちらも致命傷と言えるほどの重傷を負っていたが、アスワン教の神官の神聖術で治癒され、一命をとりとめていた。


 師範代、そして剣王候補として恥じるような戦いではなかった。しかし、ヴィクトリアにもブルーノにも傍目にもわかるほど、まだ力に余裕があった。力の差があった。


 剣王を決める戦いは師範の代理戦争でもある。


 少なくともガンピードとダビッドソンはそう考えている。


 ヴォークトに師範として劣っていると証明されてしまったような、強烈な屈辱を二人は感じていた。


「ご立腹なようですね。」


 半笑いで、ともすれば煽っているともとれる態度でヘイムは現れた。後ろにはマルコを引き連れている。


 ダビッドソンは鼻を鳴らし憮然とする。


 ガンピードはヘイムの言葉を無視して要求を口にする。


「黒剣を寄越せ」


 命を代償に力を得る。アスワン教の禁ずる呪いの剣を師範は求めた。


「賢い選択です。これで寿命と引き換えに力を得ることができます。代償なくして得るものなどないですから。まあ、代償を払ったからといって何かを得られる保証もありませんがね。」


「承知の上だ。もはや若造共に任せてはおけん!」


「自ら剣士の範を示さねばならん。」


 鼻息荒く、二人の師範は気炎を吐く。


 そしてガンピードとダビッドソンは黒剣を手に取った。


「良い覚悟です。覚悟に値する成果を期待しています。」


 ヘイムは笑みを深めて言葉を続けた。


「さて、いよいよ革命のときです。マルコ、準備は出来ていますか。」


「万全だ。気力も充実している。」


 マルコが黒剣を手に返答する。


「それは重畳。傭兵団も準備出来ていますし、ヴァジュラマ教徒も集結しています。」


 ヘイムは笑みを浮かべて言った。


「ヴァジュラマの加護のあらんことを。」


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