87:剣王編② 少女剣士VSスネイル
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名乗りを終え、剣王の強さを示すセレモニーが行われる。
舞台に立つ剣王の眼前に空から唐突に化け物が飛来し、着地した。
唐突なできごとに観客から悲鳴があがり、剣士や傭兵は武器に手を伸ばした。
だが、化け物に相対する剣王も周囲にいる四人の挑戦者も落ち着いている。本来あるべき驚きの様子すらない。
それもそのはず、何を隠そうこの化け物、剣王の依頼を受け俺たちが用意したものだ。
剣王の強さを際立たせる、ぶっ殺すための強そうな闇の眷属を連れてこい。そう剣王から依頼を受けていた。
気が進まなかったが、そう難しい依頼でもなかった。うちには調伏の恩寵持つハクモがいるし、迷宮は活発化したヴァジュラマ教徒の影響で急増している。
本来、闇の眷属なんざ簡単には見つからない。しかし皮肉なことにヴァジュラマの力が増したこの情勢が味方した。
闇の眷属には困らない。
だが、それでも問題はある。闇の眷属をハクモが調伏すると例外なく体が白く塗り替えられてしまう点だ。
白はアスワンを強く想起させる。神聖さを象徴する色だ。
それを打倒されるのはアスワン教のイメージ戦略上困るため、絵の具で調伏した闇の眷属を装飾した。
武辺者の集まる剣士の里にも画家はいる。
自身の勇姿を絵画に残したいと思う痛い奴が多いからだ。
よって絵の具は手に入る。
巨大なアラクネと呼ばれる蜘蛛の化け物に黄色と黒と赤で装飾する。
いかにも凶悪な化け物の様相に満足する。いい出来だ。
剣王のやられ役になることを思うとやるせないが、これも仕事である。
ハクモは自身の調伏した眷属は駒としての感情以外抱いていないようで、特に気にしていないようだった。
「あとで戦力補充しなきゃ。」
ハクモのつぶやきになぜかレミスが肩を震わせた。
ということがあった。
いよいよ絵の具まみれのアラクネが役目を果たす時が来た。
キシャーと擦過音のような鳴き声を上げながらアラクネは剣王に襲いかかる。
アラクネは上位の力を持つ闇の眷属だ。そこそこの動きをするし、外皮も硬い。
だが剣王は無造作な振り下ろしで一刀両断した。
そしてアラクネを切り裂くにとどまらず、そのまま轟音とともに大地を揺らし、舞台共々2つに分断した。振り下ろされた魔剣が怪しくきらめいた。
「しまったな。力加減を誤った。」
剣王はバツの悪そうな表情をして頭を掻く。
「まあ、あれだ。久しく身の危険を感じる相手に見えていない。お前たちに期待している。」
剣王は4人の挑戦者に向けて言った。
「病気でくたばる前に我の剣で息の根を止めてあげるよ。」
剣王のパフォーマンスを見て鼻息を荒げる少女剣士。
「威勢のいいことだ」
「身の程を知らぬというのは羨ましくもあるが、憐れでもある。」
言葉の主は壮年の師範代にして剣王候補。スネイル師範代とマクファーソン師範代だ。
剣王に挑む者達であり、それぞれガンピード師範、ダビッドソン師範の直弟子だ。
「なんでこの年代のおじさんは嫌味を言いながら絡んでくるの?」
「おじさんと一括にするのは良くないですよ。個人の人格です。」
少女剣士の純粋な疑問に苦言を呈したのは剣王挑戦者最後の一人、ヴォークトの薫陶篤いブルーノ師範代だ。
それぞれの師範の影響を強く受けた者たちが名乗りを上げていて、剣士内政治のにおいがする。
「貴様ら!目上に対する口のきき方も知らんのか!?」
「だから貴様らは駄目なのだ!」
剣を鞘ごと持ち上げて二人は激高した。
「このパターン、我もう飽きた!なんでこの年代のおじさんって他人のことは煽るのに自分は煽り耐性ないの?」
「一括にしてはいけません。個人の人格ですよ。」
「そうかなあ」
ブルーノの悟ったような物言いに少女剣士は不服そうだ。
「まあ、決着は剣でつければいいでしょ。勝つ自信がないから今のうちに騒いでいるのかもしれないけど。」
少女剣士の言葉を聞いて、師範代二人は更なる大声で怒鳴り続けたが、もはや何を言っているのかわからなかった。
そして対戦相手が決まり、少女剣士は舞台に上がった。
舞台は砕かれたままで足場が悪い。しかし、どんな状況でも最強を示すのが剣王だ。
戦いの日を変更するほどのことではない。
少女剣士の初戦の相手はスネイル師範代。ガンピード師範の直弟子だ。
「小娘がこの舞台に立てたこと、光栄に思え。今が貴様の人生の絶頂、後は降るだけだ」
「負けたら偉そうにもの言えなくなるから今のうちに言っておこうって魂胆?狡いよ?」
「もはや、泣いて詫ても容赦はせんぞ」
「我は容赦してあげるから安心して」
少女剣士の無邪気な感想にスネイル師範代は本日何度目かわからぬ怒りに顔を紅潮させた。
そして、立合い人の合図とともに戦いが始まった。
「死ね!」
罵声を吐き、突進するスネイプに少女剣士は呆れたようにつぶやく。
「我が言うのもなんだけど、語彙が貧困だね。」
そして剣に手をかけ、腰を引く。
構えとともに少女剣士の顔から表情が抜け落ちる。
少女剣士のスイッチが切り替わったことがわかる。それに伴い観客までもがその迫力にあてられて、息を飲み神経を張り詰める。
スネイルの剣が少女剣士に迫る刹那、神速の居合で迎え撃つ。
少女剣士の剣には高濃度の剣気が纏いついている。たやすく、相手の剣を折る、武器破壊の一撃だ。
頭に血が上っているとはいえ、スネイルは剣王候補に数えられる男。
少女剣士の狙いを瞬時に見抜き、自らも剣気を剣にまとわせ、剣が破壊されるのを防いだ。
「ちっ、流石にこの程度では殺れぬか…。奥義、瞬体」
スネイルは奥義を発動させた。それに呼応して少女剣士も奥義を発動する。
「奥義、流体」
「は?なんだそれは」
初めて聞く奥義にスネイルが訝しむ。
ヴォークトが編み出し、未だその存在を知るものも使用できるものも一握り。
誕生して間もない新世代の奥義だ。
超越体は燃費が悪い。だが、瞬体と剛体を交互に切り替えていては隙が生じる。
流体はこの2つのデメリットを解消する技だ。
瞬体と剛体を流動的に適切な部位とタイミングで比率を切り替える繊細な力のコントロール。
まさに奥義の真髄といっていい。
加護を操ったことといい、少女剣士には大きな力を繊細に操作し、的確に運用する才能があるようだった。
少女剣士はヴォークトの指導を受けてから目を見張る成長をみせている。
技の継承もさることながら、精神面でも成長が顕著だ。戦いと日常の精神的切り替えと集中。
普段は感情的な少女剣士だが、剣を握れば感情を廃し理性のみによって行動することができる。
その感情のコントロールは繊細な制御を必要とする流体を戦闘中に行うことに大きく貢献した。
流体による動きは自然と緩急を生み、スネイルに慣れを許さない。すぐにスネイルを追い詰めた。
追い詰められたスネイルは超越体を使用する。
「超越体!調子にのるなよ!オリジナルがあるのはお前だけではない!」
その言葉とともにスネイルの剣を握る腕が筋肉で膨張した。
「秘技・岩砕滅多刺し!」
目で追うのも困難な突きの連撃が超越体で強化された肉体から放たれる。
さしもの少女剣士も被弾を免れない。
「はははは!どうだ青二才が!避けられまい!これが連綿と紡がれ、練り上げた熟練の御業だ!思いつきの付け焼き刃で私に敵うと思うな!」
笑い声を上げながらも刺突を止めることはない。スネイルは油断はしていなかった。
「その技、知ってるよ。」
少女剣士は言った。
「虚仮威しを…!」
スネイルの言葉は残念ながら裏切られた。
「秘技・岩砕滅多刺し!」
「なに!?馬鹿な!?」
紛れもなくスネイルの使用した技だ。もしかすればスネイル自身よりも強力かもしれなかった。
視界が揺らいだ。自身が苦しみの果てに習得した技をいともたやすく真似された。悪い夢を見ているようだ。だが、悪夢は続く。
「兄上が使ってた。それに上位互換技もある。」
「な…」
「秘技・流水岩砕滅多斬り」
関節を外し、鞭のようにしならせながらスネイルよりなお速い高速の連なる斬撃がスネイルを襲う。
「ぬおーーーー!」
スネイルは絶叫しながら斬撃を防ぐが、すぐに追いつかなくなり、直撃を受けた。
「ぐがああああ!」
膝をつくスネイルを感情ない視線で少女剣士は睥睨する。
「上位互換技は嘘。ただ関節を外しての高速連続斬りだよ。それでもスネイル師範代の秘技より有効だと思うけど。」
戦闘に置いて精神攻撃は基本だ。
少女剣士は故意にスネイルを煽っている。
これで戦意を喪失すればよし、そうでなくても平静を奪う事ができるかもしれない。
痛みにうめきながら、何も言わないスネイル。その様子に降伏の意思なしと見て、即座に少女剣士は追撃をかける。
「なぁめるぅなあああ!」
スネイルは自身を大声で叱咤する。蹲った体制から唐突に立ち上がり、その勢いで剣をかちあげる。
窮地の一撃は成功し、少女剣士の剣がその手を離れる。
奇襲のカウンターが決まったことに思わず口角を上げるスネイル。
だが、少女剣士は手を離れた剣を一顧だにせず、貫手で襲いかかった。
不意を突かれ、対応が遅れるスネイルの脇腹を剣気を纏った少女剣士の腕が貫く。
「がはっ」
身体をくの字に曲げ、血を吐くスネイル。
少女剣士はその状態のスネイルを、容赦なく地面に叩きつけ、関節を捻じりながら地面に押さえつけた。
「負けを認めて。さもなければお前を殺す。」
「……参った。」
唸るようにスネイルは言葉を吐き出した。
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