85:剣士の会合②
半壊したヴォークトの屋敷から少し距離のある平野で二人の剣士は剣を合わせていた。
ヴォークトとヴィクトリアだ。
最初は半壊した屋敷の近くで手合わせをしていたが、何も考えず、互いに奥義を連発し、その余波で屋敷が更に壊れたため、場所を変えさせられた。
剣と剣がぶつかる金属音とともにヴォークトの指導が響く。
「一瞬に没頭できない剣士はゴミだ。」
ヴォークトはヴィクトリアのなぎ払いを躱す。
「没頭を継続できない剣士はカスだ。」
そして躱すと同時にヴィクトリアの腹部に強烈な蹴りを見舞う。
ヴィクトリアはたまらずヴォークトから距離を取る。
「つまりお前はゴミカスだ!」
「言ってることが極端なんだよ!」
少女剣士は怒髪天。キレ散らかしながらヴォークトの指導を受けている。
「感情的になるな。戦いにおいて感情はノイズだ。捨てろ。」
「剣士とはいえ、多感な年頃の少女にすげえことを言う。」
遠目で見学していたフランシスコの部下が呟いた。
「お前、剣士が人間だとでも思っているのか?剣士は兵器だ。殺し以外の機能はいらん。少なくとも剣を握っている間はな!」
「むう。お頭みたいなことを言う…。」
歪の森でトゥレントとスカンクとカメムシを相手にしたときだ。
フランシスコは言った。「情を捨てろ。ただ殺戮するだけの兵器になれ」と。
「技の継承は順調だ。だが、それ以外がゴミだ。精進しろ。」
「口が悪い…。」
ヴィクトリアはヴォークトの鞭のようにしなる高速の剣撃を自在に操れるほどではないが使用できるようになった。
超神体の制御も進んでいる。
しかし、ヴォークトが納得する水準にはないようだった。
反骨心で剣を構え直すヴィクトリアに対して、ヴォークトは剣を鞘に納めた。
「今日は少し早いがここまでだ。会合に出席しなければならない。」
「ちぇっ、わかったよ。」
そこは会合が催される屋敷。窓から日がさしているにも関わらず、とても陰気だった。
「アスワン教の聖女と生ける屍め。過大な要求をしよってからに」
老齢の師範、ガンピードが憤慨する。
すでに聖女モネとフランシスコが出席した剣王との会談は済んだ。
「戦力の無償貸与とはふっかけてきよる」
同じく老齢のダビッドソン師範が応じる。
剣士のなかでも高位にあるマルコがヴァジュラマ教徒に組みしたことに非を鳴らされ過大な要求をされている。
その背後には数による武力と経済的威圧がある。
強さに屈して何が剣士かと憤る者もいるかもしれない。しかし、強さの価値を知るがゆえに、剣士は強さに逆らえない。
「実に忌々しい」
「ヴィクトリアが師範代の認可を受けたという話は聞いたか」
「ああ。ヴォークトの奴め、勝手なことを。女が師範代など前代未聞だぞ」
「ミカルゲめ。小娘などに遅れをとりおって。ヴィクトリアが奥義を使用したという話だが、やはり信じられん。神官の加護を受けていただけではないのか。」
剣王は二人の師範の話題に興味を示す様子もなく、黙って剣を抱いて座っている。
老齢の師範が二人、眉をしかめて不満を口にしていると不意に戸が開かれた。
「相変わらず辛気臭い場所だなここは。」
ガンピードが顔しかめて振り返る。そこにはガンピード以上に渋い表情をしたヴォークトが立っている。
「よくぬけぬけと顔をだせたものだな」
「会合に顔出せっつったのはてめーらだろうが。耄碌したか老いぼれども。」
「はじめから顔を出しておけばよかったのだ。若造が。」
「はっ、馬鹿かよ。」
「貴様!」
「口が過ぎるぞ!」
「そこまでにしろ。」
剣王が煩わしげに三人の師範を睥睨する
「ヴォークト、お前がわざわざ来たのだ。なにか用があるのだろう。何だ?」
「剣王あんたに用があってきた。」
「ほう。俺に?」
剣王は興味を惹かれたのか、身を乗り出す。
「そうだ。だが用があるのは俺じゃない。あんたに用があるやつを連れてきた。入れ。」
ヴォークトの言葉とともに戸が開かれた。
そこにはヴィクトリアが立っていた。
「貴様!女をこの神聖な会合に…」
いきり立つ老齢の師範達。
「女じゃねえ剣士だ。しかも師範代だ。入室は俺が許可した。」
「貴様非常識も大概にしろ!だいたい我々はヴィクトリアの師範代昇格を認めていない!」
「師範代を倒して俺が認めたんだ。要件は満たしてる。あんたらの認可はいらないだろ。」
心底呆れた表情でヴォークトは言う。
ヴィクトリアはそのやりとりを無視して剣を鞘から抜き放ち、剣先を剣王に向けて宣言した。
「我は師範代、ヴィクトリア!剣王の座をかけてウォーガン・ヴィスマルクに決闘を申し込む!」
一瞬の静寂とともに師範が顔を怒りで紅潮させた。口角泡を飛ばして怒鳴る。
「馬鹿も休み休み言え!」
「剣王を愚弄するか!女が剣王などと…」
怒号が飛び交うがさらなる大声がそれを遮った。
「クハハハハ!」
剣王の笑い声だった。
「この俺に挑むかヴィクトリア!」
獰猛な視線がヴィクトリアを射抜く。病魔に侵されているとは思えぬ生の輝きが殺気とともに双眸に宿っている。
しかしそれでもヴィクトリアはこゆるぎもしない。
「面白い!ああ面白い!俺に挑むやつがいるとしたらヴォークトかマルコだと思っていたが、まさかおまえだったか!いいだろう!師範代ヴィクトリア!その挑戦受けて立とう!」
そして剣王の座をかけた戦いの布告が大陸中を駆け巡った。
剣士の里某所。そこはガンピードとダビッドソンが用意したヴァジュラマ教徒の拠点。
生活に必要なものはすべて揃っており、快適に生活する事ができる。
迷宮に滞在することも多いが、ヴァジュラマ教徒といえど疲弊してしまう。今後のことを考えると体調は整えておきたかった。
「マルコ。面白い事になりましたよ。」
どこかにでかけていたヘイムが戻ってきたかと思えば、唐突に黒剣を振っていたマルコに話しかけた。マルコは素振りをやめ、ヘイムに視線をやる。
「あの女剣士、ヴィクトリアでしたか、剣王に挑戦することを宣言したそうです。ガンピード師範からの情報ですから確度は高いです。相当にお怒りでしたよ。」
「そうか。」
「しかし、予想外でした。まさか今代剣王に挑むような馬鹿が、あなた以外にいるとは。計画に変更が必要です。傭兵共と剣士の一部はすでに話がついていたのですが…。剣王への野心あるものが集まる武の祭典がはじまります。人が尋常じゃなく集まってきます!ああ面白くなってきました!」
計画を狂わされたにも関わらず、ヘイムはどこか高揚したような口調だ。
「もちろん、あなたにも働いてもらいますよ。マルコ。」
「ああ、当然だ。」
「約束通り、あなたには剣王になっていただきます。出来ますね?」
「当然だ。俺が、今代最強の剣士だ。」
マルコは平坦な口調ながら、珍しく感情をにじませた。
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