84:レミスの災難
レミスは休暇を満喫していた。剣士の里についてからというもの、特に仕事がない。
だが、レミスには船乗りで手にした金があり、ここには目新しい異文化の市場がある。
道行く人は荒くれ者ばかりだが、金の力で護衛を雇えるし、そもそも神官にちょっかいをかける者は少ない。レミスは見た目だけなら模範的な神官にみえるのだ。
金で雇った筋骨隆々の男どもを従え、風を肩で切って市場を歩く。
レミスの雇った護衛は剣士の里でも指折りの傭兵達だ。
ごった返した通りの人々も護衛にビビって道を開ける。
なんとも気持ちがいい。最高にハイな気分だった。
「おい串焼き買ってこいよ。」
「へい。姉さん。」
レミスは護衛の一人に顎で指示を出す。
神官としての振る舞いを意識しなくていい所が良い。
護衛を引き受けている傭兵は金さえ払えば細かいことには頓着しない。
「姉さん買ってきやしたぜ。」
パシった護衛が串焼きを手に戻ってきた。
「馬鹿!この串焼き、タレじゃない!私は塩焼きが食べたいの!」
「すみません。すぐ買い直してきます。」
「レモンも忘れないでよ。」
「へい!」
屈強な男がレミスのような小娘相手に申し訳無さそうにペコペコと頭を下げている。それがたまらなく気持ちいい。
金で人を殴るかのようなこの感覚。最高だ。
神官になってよかった 。恩寵があって良かった。ありがとう神様。ありがとう世界。
レミスは神様に感謝した。
しかし日頃の行いの賜物だろう。
レミスの穏やかな休暇は終わりを迎える。
不意にパシった護衛が立ち止まった。なにかにぶつかったようだった。
「痛っ…」
「あ?どこ見て歩いて…って、うわっ、なんだこのガキ」
パシった護衛は子供にぶつかったようだ。ぶつかった子供は尻もちをついている。
見覚えのある白い長髪に褐色の肌。
長い白髪を蠢かせる褐色の幼女はどこに行っても奇異の目で見られる。
まさかと思ったがよりにもよってハクモだった。逆らってはいけない奴らの寵愛を一身に受けた幼女だ。
尻もちをつかせ、あまつさえ、自らが雇った護衛が子供相手に大人気ない態度を取ろうとしている。
「馬鹿!その子は…」
レミスがトラブルが発生する前に止めようと口を開いた。
しかし…。
「おうおうおう!ぶつかっといてごめんなさいもなしか!ああん?」
「ああ、転んじまって可哀想になあ!?おぉ?」
フランシスコの部下共がハクモの前に進み出てすごむ。絡まれてしまった。
部下共は久しぶりにフランシスコから開放されて浮かれているのか普段よりも高圧的で野蛮な印象を受ける。アイギスが背後にいるのも彼らを調子に乗らせている一因かもしれない。
「ああ!?ガキの方からぶつかってきたんだ。おいガキ、ごめんなさいもできねえのか。」
レミスの護衛がフランシスコの部下の言動により、引っ込みがつかなくなっている。普段なら子供相手に謝罪を迫ったりはしない。
「…」
ハクモは目を丸くして固まっている。言葉を発する事ができない様子だ。
レミスの護衛はハクモの様子に罪悪感を刺激され、たじろぐ。
「おいおい!子供怖がらせて恥ずかしくねえのか?おい!」
「だんまりか?なんとか言ったらどうだ?お?」
「こっちにゃ聖騎士がついてんだぞ!」
「なんとか言ってやってくださいよアイギス姉さん」
「誰が姉さんだ。」
アイギスは嫌そうな表情を浮かべながら前に出る。
ハクモのもとへ歩み寄り、抱き上げた。鋭い目つきで睨みつけながら言う。
「うちのハクモになにか?」
アイギスの瞳に筋骨隆々の大男すらたじろぐ。
「かっ、かわいいお嬢さんですね。」
「し、失礼しやした。」
「ガキとか言ってすんません。」
レミスの護衛達は日和った。
逆らってはいけない相手には全力でごまをするのが傭兵で、逆らってはいけない相手を見抜くのが一流の傭兵だ。レミスの護衛たちは一流だった。
レミスの護衛達の謝罪には応じず、アイギスはこっそり逃げ出そうとしていたレミスに声をかける。
「レミス。奇遇ですね。」
レミスはビクッと震え、悲壮な表情でハクモとアイギスに顔を向ける。
「あはは。はい…」
「まさかそちらの方々は?」
「はい。護衛です。」
「そうか」
アイギスの冷たく威圧感のある視線がレミスに注がれる。性根が小市民なレミスには実に堪える。その視線から逃れたい一心で頭を下げる。
「すみませんでした。責任取ります。どうしたらいいでしょうか?」
「どうする、ハクモ」
アイギスはハクモに話をふった。
「じゃあ迷宮攻略を手伝ってほしい。そちらの傭兵さん達に」
レミスは安堵した。自分は参加しなくていいのだと。しかしすぐにそれは勘違いと知る。
「それと、もちろんレミスもね」
可愛らしい幼女の命令に残念ながらレミスは逆らえない。
「はい…」
レミスはそう答えるしかなかった。
「これでいいですか?ハクモ。」
「うん。うまくいった。」
「ハクモちゃんもお頭に毒されちまって…。」
アイギス、ハクモそして部下共の小声でのやりとりにレミスとその護衛は気づくことはなく、準備を整え、迷宮へと向かった。
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