83:アイギスとハクモ
「迷宮の討滅任務に参加したい。ついてきてほしい。」
「っ!」
ハクモはアイギスの袖をつかみ、言った。身長差で自然と上目遣いになる。アイギスはハクモの幼女特有の愛らしさに一瞬言葉を失った。
ヴァジュラマ教徒の強化の影響か、迷宮が乱立している。剣士の里周辺にも出現しており、数も頻度も目に見えて増えている。
討伐しないとやがて闇の眷属が地上に溢れてくる。迷宮を聖域化することができると判明したが、現状さしたるメリットもない。女神像の聖遺物も無制限にあるわけでもないので、迷宮は討伐するのがセオリーだ。
アスワン教会は迷宮討伐をあらゆる組織に依頼しており、剣士の里もその一つ。
里内に教会はないが、剣士の里から迷宮の情報を得ることができる。
ハクモの迷宮討伐参加の目的は新たな下僕を得ること、戦力補給だ。
目的などなくとも、ヴァジュラマに纏わる物は尽く滅したいハクモだが、私怨だけで行動するハクモではない。
「構わないが、あの男やヴィクトリアがいれば私は必要ないのでは?」
あの男とはフランシスコのことだ。
「フランシスコはヴォークト師範の屋敷の修理の手伝いをしてる。ヴィクトリアはヴォークトと訓練。手が離せない。」
ハクモが答える。
屋敷がヴィクトリアの超神体の力の余波で半壊してしまった。
フランシスコはヴォークトに訓練の依頼をした依頼主であり、ヴィクトリアの雇用主でもある。その責任は取らざるを得ない。
その責任のとり方が屋敷修理の手伝いだった。具体的には職人たちに加護を与え、定期的に治癒の神聖術をかけるというものだった。成果はあり、予定の倍の速度で屋敷は修繕されている。
「モネ様に一応確認をとってくる。」
ハクモの望みは極力叶えてやりたいアイギスだが、上司であり、敬愛しているモネの許可は必要だ。聖女の護衛として実に常識的で理想的な行動。
「さっきフランシスコをからかってくるって出ていったよ。」
「モネ様!?また私に無断で!?」
残念ながらアイギスの忠義はなかなか報われない。
「暇ですね」
「そうだな」
「民とは何かって話し、しますか?」
「民とは帳面上の数字のことだって結論でただろ」
「そうでしたねー」
フランシスコとモネは暇にあかせて不穏な言葉を穏やかな雰囲気でかわしていた。
職人たちが屋敷の修繕を行っているが、出番がくるまでは邪魔でしかない。ゆえに少し遠方で待機している。
職人が怪我したり、加護が切れたりしない限り仕事はない。フランシスコの部下共も目に付く範囲で各々暇を潰している。
モネは目深にフードを被っており、周囲から聖女とはバレない装いをしている。
「お前は民の定義より信徒の定義について悩んだほうがいいんじゃないか?」
「私の言うことを聞くのが信徒で、聞かないのが異教徒です。」
「結論出てたな。」
「はい」
そうしているとアイギスがハクモとともにやってきた。
「モネ様。世間話の体でなんて話をしているのですか。」
アイギスが苦言を呈する。それに対し、ハクモが疑問を口にする。
「言葉の定義を統一することに意味があるのであって、その結論の良し悪しは目的によって異なると聞いた。」
「それはそうなのだが、結論の外聞が悪すぎる」
ハクモの子供らしい率直さと子供らしからぬ知性による質問。フランシスコの影響が見て取れて、アイギスは頬を引きつらせる。
「それで、アイギス。どうしたのですか。」
何しに来たのかと問うモネ。護衛に無断で外出したことに対してまるで悪びれた様子がない。
「モネ様…、護衛なしで出歩くのはやめてください。せめて私に一言……。」
「だってあなた、フランシスコのとこに遊びに行くと言ったら機嫌を悪くするじゃないですか。」
「それはそうですが」
「それで、要件はそれだけですか?」
ハクモとアイギスは迷宮討伐に赴くことを伝えた。その間、聖女の守護神官であるフランシスコがモネの護衛をすることとなった。というか守護神官の本来の仕事である。
「別にいいが、念の為部下共を何人か連れて行け。」
「わかった」
フランシスコの言葉にハクモがうなずく。
「モネ様を頼んだぞ。傷一つつけてみろ。生皮剥いで、傷に塩を塗り込んでやるからな!」
アイギスがフランシスコに対して凄む。モネの護衛をフランシスコに任せる事に感情的な嫌悪がある様子。
「大声で危険思想を吐くなよ。外聞が悪いぞ。」
「アイギス、発言には気をつけましょうね。」
アイギスの過激な発言をフランシスコとモネが自身を棚に上げてたしなめる。アイギスの先の発言の当てこすりでもある。
「ぐっ、モネ様まで…、納得がいかん。」
釈然としないまま、アイギスはハクモとフランシスコの数名の部下とともにその場を離れた。
だが、直接迷宮に向かう様子ではない。
「どこに向かっているんだ?」
「市場」
アイギスの質問にハクモがその長髪を蠢かせながら答える。
「念の為、もう少し人手がほしい。」
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