80:ミカルゲ・決闘2
ミカルゲは一応師範代。凡才の至る頂点とも呼ばれている。
褒めているのかいないのか、微妙なところだが。紛れもない実力者。
剣王候補とまではいかないものの、奥義を習得し、剣士の里の中でも上位の実力を持っている。
多くの剣士からは慕われ、人望がある。
勝ち、負けという結果主義の里において、努力の経過を認めてくれる数少ない人間だ。
弱者の傷の舐め合いと見る向きもある。
しかし、剣士の里といえど、才能のない者のほうが多い。
そもそも才能というものは相対的なものだ。世間では強者であっても剣士の里にあっては劣等ということは枚挙にいとまがない。
ミカルゲも力を持ちながら、周囲との才能の差に苦しんだ者の一人だ。故に他人に優しくできるが、同時に性格が歪んだ。
「愛戦士から哀戦士に今、転生しました!あなたのせいで!」
ミカルゲが叫ぶ。
「なんだあいつ?メンヘラか?」
「弱い心と尊大な自尊心が産んだ悲しい獣だよ。」
俺の吐露した言葉に少女剣士が答えた。
少女剣士との決闘が承諾され、今は審判及び証人となる公正な第三者を立てているところ。
決闘は本来、戦闘の勝ち負けによって何かしらの要求を通すものだ。
しかし、勝ったら少女剣士と結婚したいというわけでもなく、ミカルゲはただ少女剣士を力でねじ伏せたいだけのようだ。
「ただの憂さ晴らしです。女性に手を上げるのは僕の信念に反するが、あなたは剣王を目指していると聞いた。ならば、あなたは女性である前に剣士だ。手合わせ願いたい。」
とのことだった。
少女剣士も勝利して、師範代の承認を確実にできればそれでいい。
審判役となる人間が決まり、少女剣士とミカルゲは向き合い、剣を構えた。
「ミカルゲ師範代!頑張ってください!
「ヴィクトリアに現実を見せてやれ!」
「女が剣王なんて夢見てんじゃねえ!」
野次が飛ぶ。
ミカルゲも少女剣士もなにしろ目立つ人物のため野次馬もよってくる。
ミカルゲの人望故か、少女剣士に対するあたりが強い。奥義を使用出来ない女という侮りもある。
「うわっ!ヴィクトリアの婚約者あいつだろ。あの神官。目つき悪っ!」
「おい見ろよ。腰のメイス。棘が出てないか?」
「ほんとに神官かよ。」
野次馬のヤジが何故か俺にまで飛び火してきている。
何事にも揺らがない穏やかな心がほしいが、俺もまだ未熟。野次馬相手でも腹が立つ。
「おい。」
「ん?どうしたの。」
剣を構えた少女剣士が視線を向けて来る。
「この野次馬共を黙らせてこい。」
少女剣士は一拍の後、答えた。
「我に任せろ!」
そして決闘は始まった。
少女剣士の白亜の剣が美しい剣閃を描く。それをミカルゲは紙一重で躱し反撃する。
少女剣士が攻勢に出ているが、戦況は拮抗している。
さらに数撃打ち合い、互いに距離を取った。
「迷いのない素晴らしい剣筋だ。ただ真っ直ぐなだけではない。先を予想させない技術をも持ち合わせている。」
ミカルゲは少女剣士をたたえた。だが、口ぶりに余裕がある。
「ミカルゲこそやるね。師範代なだけあるよ!」
少女剣士もミカルゲに言葉を返すが、上から目線の不遜な言葉だ。案の定、ミカルゲに味方する野次馬を刺激した。
「師範代に向かってなんて口の聞き方だ!」
「生意気いってんじゃねえ!」
野次馬の声など耳に入らない様子で少女剣士は静かに構えている。
堂に入った構えだ。
奥義を習得して以降、少女剣士はゾッとするほどの覇気を、纏うことがある。
対面しているミカルゲはまさにその覇気を受け、冷や汗を流している。わずかに気圧されているようだ。それを振り払わんとミカルゲは気炎を吐く。
「勇ましいことだ!だが、女性に奥義は使えないだろう?!力の差を見せよう。剛体!」
奥義、剛体による超常の力を纏った振り下ろしが少女剣士を襲う。
一般的な剣士であれば為す術もない致命の一撃だが、少女剣士は怯むことなく迎え撃つ。
「我に不可能はないよ!剛体!」
少女剣士は超神体で感覚を掴んだのか、自力で奥義を習得していた。
剛体による斬撃を少女剣士もまた、剛体で防ぐ。剣と剣がぶつかり、火花を散らす。鍔迫り合いが起きる。
「馬鹿な!女が奥義を…。」
「嘘だろ…。」
野次馬の驚愕の声がそここであがり、ざわめきが起きている。
少女剣士の奥義を疑う声も上がるが、二人の力の拮抗が少女剣士の力を証明している。
だが、力では敵わず、少女剣士が徐々に力負けしはじめた。
野次馬は再度勢いをとりもどす。
「やはり女の奥義は紛い物だ!」
「インチキしやがって!」
男と女が同じ技を振るえば、純粋な腕力で女は男にかなわない。
少女剣士もそれはわかっているはずだが、何故か、距離を取ることもせず、不利な力比べを続けている。
「ぐっ…!」
優勢なはずのミカルゲから苦悶の声が漏れた。
鍔迫り合いが少女剣士の不利な体勢から互角にまで巻き返されている。少女剣士が力を増したというより、時間の経過でミカルゲの力が減衰しはじめたようだった。
奥義は消耗の激しい技だ。長時間維持することは難しい。
少女剣士の剛体は男よりも力に劣るが、持続時間は長いようだった。
「もうバテた?我はまだまだイケるよ!」
ミカルゲは形勢不利を悟ると、剣を弾き少女剣士から距離を取った。
「くっ、これならどうだ!瞬体!」
剛体、瞬体、両方の奥義を習得している人間は師範代の中でも少数だ。ミカルゲの優秀さがわかる。
しかし、少女剣士もまた瞬体を修めている。
「我はこっちのほうが得意なんだ!瞬体!」
少女剣士の瞬体は際立って速く、持続時間も長い。
「なんだこの速さは!?」
少女剣士の動きは目に見えてミカルゲを大きく超えた俊敏さを見せた。
明らかにミカルゲは少女剣士の動きについていけていない。
そしてやがてミカルゲの喉元に少女剣士の剣先が突きつけられた。
「……、参った。」
ミカルゲが降伏した。それを受けて、しんっと野次馬が静まり返った。
少女剣士は強者の威容をもって厳かに剣を鞘へと納めた。
静まり返った野次馬共の視線を背に受けて少女剣士はニカっと笑った。
「お頭!あいつら黙らせてやったよ!」
「よくやった。」
俺は手放しで少女剣士を称えた。文句のない快勝だ。
「フフンっ、我の勝ちだ!」
高らかに少女剣士の声が場に響く。
「我が名はヴィクトリア!女の身にて、剣王となる者だ!」
ヴィクトリアは明らかに師範代たるミカルゲを圧倒していた。
もはや誰も少女剣士の言葉を否定することは出来なかった。
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