79:決闘・ミカルゲ
クイとポーロづてに剣王から話し合いの場を設ける旨の連絡を受けた。
話あいは数日先のため、それまでしばらく時間がある。
剣士の里の市場には様々な情報が行き交うため、またも俺たちは市場を散策していた。
「そのメイスどうしたの?」
歩いていると少女剣士が目ざとく聞いてきた。メイスは鞘に収納しているが、棘部分がいくつかはみ出ている。鞘からメイスを取り出すとレミスが声を上げた。
「うわっ!?禍々しいわね!」
レミスが引いている。当然の反応だろう。だが、上司に対する言い草ではない。
俺に舐めた口きくとろくな目に合わないということを思い出させてやる。
「これは聖女様から賜りしありがたいメイスだ。」
「え!?」
レミスは顔を青くし、恐るおそる聖女モネに視線をやる。
モネはレミスの視線に気づきながらもニコリと微笑むだけで何も言わない。
その様子にレミスは更に顔を青くする。この程度のことで気を悪くするモネではないが、モネには妙な嗜虐癖がある。権威に弱いレミスがビビっている様子を楽しんでいる。
「しかも教会に登録もされている。それを批判する者は、聖女様曰く、異端のそしりを免れないそうだ。」
「よくよく見たら神々しさを感じる造形ですね。非常に美麗です。私が間違っていました。」
俺の言葉にレミスは引きつった笑みで俺のメイスを称賛してきた。清々しいまでの掌返しに逆に感心する。
上司の言うことには絶対追従。組織に属する人間はかくあるべきである。
「正義と道徳って銘だ。これなら人を殴っても教義に反しない。正義と道徳は人を傷つけるものだからだ。」
「うわー…」
「私が名付けました。」
「うわー…。」
どうやらモネが俺の新たなメイスの名付け親だったようだ。
少女剣士が引いてる。俺も引いてる。お前が名付けたのか。
レミスは驚きと呆れの表情を一瞬したが、モネに見られていることに気づいてまたも顔色を青くした。
「そっ、そういえばヴィクトリア!」
レミスがモネの視線からのがれるため、少女剣士に別の話題をふった。
「なに?」
「剣王になりたいのよね?」
「うん。」
「具体的にどういう手順を踏むの?」
「剣王に勝てば剣王になれるんだけど、その前に師範代にならないといけない。剣王に挑む権利は師範代か師範にしかないから。」
歩きながら少女剣士が説明する。
「それで誰かが剣王に挑んだ時、他にも志望者がいた場合、まず志望者間で戦って最強を決めて、勝ち残った1人が剣王に挑めるんだ。」
「誰も剣王候補として挑戦してないの?剣王が病に伏しているという話はあっても剣王を決める戦いがあるなんて聞いたことないけど。」
剣王を決める戦いが行われる際は遠征している剣士にも挑戦の権利を与えるため、一定の期間を設け、広く流布される。剣王が病で弱体化してから剣王に挑む者が出てきてもおかしくないし、そうした話があれば耳に入ってもおかしくはない。だが確かにそうした話は聞かない。
「剣王が死んでからの方が楽に剣王になれるんだよ。剣王と戦わずに剣王になれるから。」
「剣王はそんなに強いの?病気なんでしょ?」
「剣王は魔剣を持ってるからね。寿命と引き換えに身体を全盛期と同じ状態に戻せる魔剣だよ。戦闘時なら病気なんて関係ないよ。」
剣王は代々特殊な力を持つ魔剣を受け継いでいる。
強い力を宿しながら、怪しい魅力をも孕む剣。
魔剣を求めて剣王を目指す者もいるほどだ。
「だから、剣王になるのは剣王が死んでからのほうがいいんだよ。剣王が死んだら自動的に剣王を決める戦いが行われることになってる。」
「いずれにしても、師範代にならないといけないのね。師範代にはどうしたらなれるの。」
「師範に認められるか師範代をたおすかだね。」
「ヴィクトリアはメヒコ師範代のゾンビ倒してるからもう師範代になれるってこと?」
「うん。でも師範代のゾンビなんていままで聞いたことないし、師範代を倒したことになるかはわからない。」
師範代メヒコのゾンビが本当に生前並の力を有していたのか。
その報告が本当に正しいのか。
師範代を選定する師範がどう判断するかわからない。
アスワン教の司教たる俺も証言するため、嘘扱いされることはないと思うが、一縷の不安があるということだろう。
「念の為に今のうちに師範代に喧嘩を売りたいところだね。」
少女剣士がそんなことを口にした直後のことだ。
「ヴィクトリア!」
少女剣士の名を呼ぶ男の大声が響いた。
この里に来てから少女剣士の名を大声で聞く機会がやたら多い。
「おまえ毎回大声で名前呼ばれてるな。」
「この里の文化だよ。獣の威嚇みたいだよね。」
俺と少女剣士が会話するのも構わず、眼前の男は言葉を続けた。
「ヴィクトリア!婚約したのか!僕以外の男と!」
哀愁とともに不穏な響きのある言葉を男は発した。
「え?」
「知り合いか?」
困惑している少女剣士に尋ねる。
「うん。元婚約者候補の一人。」
「なるほど。」
男の周りには取り巻きが結構な人数おり、こちらを睨みつけてきている。
男はミカルゲと名乗った。師範代だ。
「無視するな!人前でイチャイチャと!やはり婚約したみたいだな!僕以外の男と!」
ミカルゲは俺と少女剣士が話しているのを見て勝手に怒りのボルテージを上げていっている。
この里の奴らは少女剣士の幼馴染達といい、こいつといい、少し小声で話すだけでイチャイチャ扱いしてきやがる。
「裏切ったな!僕の気持ちを裏切ったな!」
ミカルゲは少女剣士を指差し、告げた。
「ヴィクトリア!私情により決闘を申し込む!」
「受けた!」
即答する少女剣士。
「師範代になるのにちょうどいい相手だよ!」
少女剣士はミカルゲの言葉を受けて、ニヤリと笑んだ。
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