76:少女剣士の事情3
突然の聖女の乱入に、皆一様にして動きを止めた。
「モネ?」
「はい!」
訝しむ俺に対し、モネから快活な返事が返ってくる。しかし、そこから言葉が続かない。
おい!それだけかよ。もっとなんか言うことないのかよ。
モネの様子を伺うも、一向に喋りだす様子がない。
誰も言葉を発さず場が静寂に包まれる。
視線は聖女モネに集中している。
普通なら居心地の悪さを感じるだろう状況に、聖女様はまるで気にした様子もなく何故か誇らしげに胸を張っている。
部屋の乱入時にも思ったが、「その結婚待ったー」という不穏な言葉とは裏腹にどこか楽しそうな様子がうかがえる。
埒が明かないと思い、モネの背後に立つ守護騎士のアイギスに視線を移すも視線をそらされてしまう。
そうしていると少女剣士が口を開いた。
「お嬢様。我とお頭の結婚に反対なの?」
「そのとおりです!反対するために私はここに来ました!」
状況が動いたかのように思われたが、また静寂が発生してしまう。さすがのモネも居心地の悪さを感じたのか、背後のアイギスに耳打ちをしている。
「アイギスアイギス!どうしたら修羅場っぽくなりますか?想像していた感じと違います。」
「私としては修羅場にしてほしくないのですが。」
「私はただフランシスコを困らせたいだけなのに。」
「そんな動機でしたか。」
少女剣士はそんな二人の様子を見て再度モネに声をかけた。
「お嬢様、ちょっとこっち来て。」
「はい?」
モネは素直に少女剣士の言葉に従い、近づいた。
そして少女剣士とモネは肩を寄せ合い、何やらコソコソと密談を始めた。
「はい…書類に残らない…重婚可能!?え? 子の遺産は?…親族づきあいなし…。順番は…。え!?混ぜてくれるんですか!?」
しばらくすると、二人は会話を終え、モネが俺に向かって言った。
「フランシスコ!ヴィクトリアさんとの結婚を認めます!」
態度が急変した。モネにはよくあることだが、少女剣士に何を言われたのか気になる。
「何話したんだ?」
「内緒です。」
質問してみるも、何も答えてはくれない。
結婚の当事者たる俺の介在しないところでいろんなことが決まっていく。しかし、俺が結婚に対して抱いていたリスクの多くは解消されているように思う。子の養育費を払うだけだ。
未だ結婚に対して抵抗感はあるが脳が疲労して抵抗できなくなってきた。
それに実際の結婚は随分先のはずだ。なんせ少女剣士との結婚とは子作りのことなのだから。少女剣士が剣王になるまでは無理だ。
実質は婚約ということだろう。
俺は今のところ、肯定も否定もしていない。なあなあで場を流して後日、どうするか考えよう。厄介なことは先回しにするのが大人の流儀だ。
「俺たちは何を見せられてるんだ。」
部下の一人が呟いた。ほんとにな。
「お頭、他人事みたいな顔してますけどお頭は当事者ですからね。しかも割と羨ましがられる立場ですからね。」
「ほんとですよ。何疲れた顔してるんすか。もっと浮かれてくださいよ。」
部下共の言葉に俺は一つため息を吐き、言った。
「モテないお前らにはわからない気苦労があるんだ。」
モテない部下共と喧嘩になった。
正直悪かったと思ってる。
その後、俺の意思の及ばぬところで少女剣士、モネ、アーカードの間で話し合いが行われた。
俺はといえば結論を出すのに躊躇して、ついぞ肯定も否定もしなかった。
話し合いは終わったが、アーカードの身柄をどうするかが問題になった。
この宿に置いておきたくはないし、かといって拘束を解いて自由にしてやるのもなんだか納得がいかない。
感情の問題としてなにかしらの罰を与えたかったのだ。
「縛ったまま市中引き回すのはどう?。そのままご実家に帰してやればいい。」
「えー。首だけにした方が楽だよ。」
「鬼か。」
少女剣士を諌める。さすがの俺も命まで取る必要はないように思う。
「お頭の意見も大概ですよ。」
部下が苦言を呈してくる。
どうするべきかと頭をひねっていると、空気と化していたハクモが妙案をもたらした。
「顔面に負け犬って書いてから解放すれば?」
「「それだ!!」」
俺と少女剣士は思わず歓声を上げた。
かつてハクモが聖務執行官の試験を受けたときに、舐め腐った受験者に対して行った腹いせだ。
剣士は勝ち負けに非常にこだわる。負け犬などと顔に書かれて町中を歩かされるというのは屈辱以外のなにものでもない。
今回のアーカードの非常識な振る舞いに対して実にちょうどよい罰であるように思う。俺たちの腹の虫も収まる。実に愉快だ。
俺たちアスワン教勢力がアーカードに何かをすると、政治的意味合いを見出されることがある。それも配慮し、少女剣士がその父親の顔に負け犬と書き込んだ。洗い落としにくい染料を使用している。
抵抗するアーカードの顔に実に楽しそうに筆を走らせていた。
アーカードを解放してやると上着を覆面代わりに顔を隠し、町中へと消えていった。立派な不審者だが、負け犬と書かれた顔面を晒すよりかはいいのかもしれない。
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