69:迷宮内戦闘⑥
「おっと動くなよ。動いたらこの女神像がボンだ。迷宮丸ごと神聖な力の暴走で吹き飛ぶ。」
俺の突然の大声と突拍子もない行動にアバロンとカイバスは体を一瞬硬直させた。
不敵に笑う俺。怪訝な表情をするアバロンとカイバス。
「っ!?いや、ハッタリだ。お前達も死ぬ。」
カイバスの言う通り、ただのハッタリだ。この女神像に暴走する機構は備わっていない…はずだ。少なくとも俺は知らない。
だが、女神像の放つ神聖な力。
警戒させるには十分のはずだ。判断能力を一瞬でも奪うことが出来ればそれでいい。
現に今アバロンとカイバスは冷や汗を流しながら、女神像とそれを人質よろしく構える俺から視線をそらせずにいる。
「ヴァジュラマ像を封印できないよりかはマシだ!それに俺にはこの治癒力がある。生き残る可能性がある。」
「くっ」
「馬鹿め!今だ!ヴィクトリア!やれ!」
「仲間を待っていたのか!」
奴らの背後に視線を向けて大声で呼びかけた。
俺の声に反応して、アバロンとカイバスは二人同時に振り向いた。
「なにっ!?」
「いない?!」
「嘘だからな!」
さすがにヴィクトリアにその余力はない。助勢に駆け付けようとしてくれているが、部下に止められ治癒されている。
「馬鹿な!メヒコがあんなガキにやられただと…。」
マヌケに背後を晒すアバロンとカイバス。だが、残念ながら二人同時に攻撃することは出来ない。
メヒコ敗北のショックを受けているアバロンではなく、より距離の近いカイバスの頭を思い切り殴る。肩の青炎も燃えうつらせようとしたが、それは躱されてしまった。
「ぐあ!貴様、卑怯な真似を!それに女神像をそんな粗雑に扱うな!暴走したらどうする!」
「卑怯じゃねえ戦術だ!それと女神像に爆発する機構なんてあるわけねえだろ!罰当たりが!」
女神像は頑丈だ。内包している神聖な力も、かったるい儀式を行わないと放出されない。
「女神像で殴るほうが罰当たりだろうが!」
「女神直々の裁きだ!ありがたがって死ね!」
血まみれの女神像。
血が双眸から滴り、女神が血涙を流しているようにも見える。
決して救ってくれない神への当てつけなどではない。
神は異教徒の血に飢えている。
さぞお喜びだろう。
俺がカイバスに追撃をかけるもその隙にアバロンが攻撃してくる。
「ちっ、まさかメヒコがあんなガキにやられると思わなかったぜ。クソが。」
「くっ不意を突かれたが、いいかげん貴様の奇策も尽きただろっ……がっ。」
アバロンとカイバスに体勢を整えられてしまったが、少女剣士が今度こそ助勢に現れ、カイバスの首を背後から斬り飛ばした。
カイバスの首からは血が噴水のように吹き上がり、やがて胴体は前方へと倒れこんだ。
てこずらされたカイバスだったが、死ぬ際はあっさりだ。
「カイバス!てめえ!クソが!」
「ははははは!よくやった!」
「四大魔が一人!我が討ち取ったぞ!うきゃーーー!我、最強!」
カイバスの死と共に肩の青炎も消え、灼熱地獄より開放された。どうやら発動者の死と共に消える類の術のようだ。
少女剣士は敵の首級を二人も倒し、興奮している。
そのままアバロンも倒してしまいたかったが、そこまでうまくはいかない。
アバロンはカイバスに掌を向け、唱えた。
『蘇れ』
アバロンの力によりカイバスの首なし死体が起き上がり、アバロンへの追撃を妨害されてしまう。
しかし、戦況は一気に逆転した。
こちらには俺、少女剣士に部下共までいる。対するは、四大魔とはいえアバロン一人。
カイバスがゾンビとして蘇っているが、それでもこちらに有利な状況は変わらない。
欲が出てしまう。
「お前ら、アバロンは可能なら生け捕りにしたい。ヴァジュラマ教徒の幹部だ。下っ端にはない情報を持っているはずだ。」
「はっ!舐めやがって…。後悔するぞ!」
そこからの戦闘は一方的だった。カイバスゾンビは青炎を使用してこなかったし、少女剣士の動きも見違えている。そして部下共の支援もある。
そう時間を要さずにアバロンを捕獲することに成功した。
「ぐああああっ、クソっ、クソがぁ!俺の腕がぁっ、足がぁああ…!」
両腕は切り落とされ、両足はあらぬ方向へとへし折られている。
遠くではハクモ指揮のもとで他の闇の眷属やヴァジュラマ教徒が戦闘しているが、奴らもこちらに戦力を回せる状態にない。
終わりが見えてきた。そう考えた時だった。
「はぁはっはっはっは!ざまあみやがれ!アスワンのクソ共が!」
アバロンが急に笑い声をあげた。
「なんだ?」
唐突なアバロンの嘲笑をいぶかしむ。
その直後邪悪な気配が奥より溢れて、その一部がアバロンの中に吸い込まれていった。
俺はアバロンの嘲笑の理由に思い至る。
「ヴァジュラマ像を破壊したのか!」
おそらく蘇生した闇の眷属を俺たちの目を盗んでヴァジュラマ像の下へ送っていたのだ。敗北時、即座に破壊出来るように。
ヴァジュラマ像を破壊すると蓄えられた力が解放され、ヴァジュラマ教徒の扱う力が強化される。アバロンの力も増したと考えた方がいいだろう。
「かはははは!目的は果たした!もう手遅れだ!これでお前も終わりだ!」
勝ち誇った顔をするアバロン。しかし、今さら力を増したところで戦況は覆らない。
奴の四肢は既につぶした。
今すぐこいつを殺せる状況下に俺はある。
とはいえ、嫌な予感がする。情報収集は諦めよう。
メイスを振りかぶりアバロンを亡き者にしようと行動を起こしたが奴の方が上手だった。
『力の根源たるヴァジュラマよ!我が肉体、我が魂を代価に冥府の支配者を顕現させたまえ。』
詠唱の直後、アバロンから漆黒の靄が生じ、その全身を覆いつくした。そして抵抗し難い強力な力の奔流により、俺や少女剣士を含めた人間はすべて吹き飛ばされてしまった。
吹き飛ばされた俺達とは反対に、ヴァジュラマの勢力の者達はアバロンの元へとすいこまれていく。
メヒコやカイバスの死体はもちろん、黒剣やハクモ達が相手していた死体たちも皆吸引され、そしてアバロンの元へたどり着くと黒い靄に姿を変えて取り込まれていった。
力の奔流も収まり、黒い靄も晴れた。
しかし、アバロンがいた場所にはわずかに黒い靄が滞留している。そこにアバロンの姿はもはやなかった。黒い靄の中には王冠を頂き、黒杖を掲げる巨大な骸骨がいた。
「お頭。何あの骸骨?我、ちょっと洒落にならない圧力をあれから感じるんだけど…。」
剣を構えて滂沱の汗を流す少女剣士は、緊張で頬が引きつっている。
少女剣士の感覚は正しい。神話にも登場する伝説の怪物だ。
「お前も名前くらい聞いたことあるだろ。」
俺は冷や汗を流しながらその名を口にする。
「闇の眷属にして死者の王。リッチーだ。」
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今年中に完結させることを目標に頑張りたいと思います。




