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67:迷宮内戦闘④


 ヴィクトリアはメヒコゾンビの奥義瞬体から繰り出される神速の突きを最低限の守りのみで反撃に出た。


 相手の間合いに深く踏み込み、白亜の剣を振るう。その剣閃はメヒコゾンビにたやすく躱され宙を斬る。反撃の斬撃がヴィクトリアに伸びる。それを再度最小限の防御で前に出て攻勢をかける。その繰り返しだ。


 全身いたるところに熱を感じる。それは斬撃による切傷だ。


 フランシスコの部下共による必死の援護があり、その場で癒えていく。しかし、それでも間に合わない速度で傷は増える。


 捨て身で攻勢に出てみても状況は好転せず、むしろ悪化の一途をたどっている。状況を変えなければならない。


 ヴィクトリアは鞘を大地に打ち付け、礫をメヒコゾンビの眼球目掛けて飛ばす。礫は物理的に視界を妨げるし、防げば隙が生じる。


 生じた刹那の間隙にヴィクトリアは剣気を下腹部、丹田に集めた。


 メヒコゾンビとの戦闘で奥義を何度も見てきた。


 奥義の前動作でメヒコゾンビは必ず一度剣気を丹田に集めていた。その直後に剣気が爆発し奥義と呼ぶにふさわしい強大な剣気を纏うに至っていた。


 ヴィクトリアは奥義を行使するため、見様見真似で剣気を丹田に送りこみ続ける。しかし、力の脈動を感じるものの、爆発的な力は生じない。それどころか慣れない力の行使で剣気が減衰してしまう。


 結果的に生じたメヒコゾンビの隙をうまく活かせず、むしろ疲労するだけに終わった。


 とはいえ、やはり何もしなければジリ貧だ。


 依然としてメヒコゾンビの力は圧倒的で息切れを起こす様子もない。今なお追い詰められ続けている。


 だが、ヴィクトリアの精神に乱れはない。弱まる力とは相対的にヴィクトリアの感覚は研ぎ澄まされていく。


 剣気が弱まったせいか、別の力を感じる。


 それはヴィクトリアを守護する神聖な力だ。


 身体全体を覆うフランシスコの加護。剣にはハクモの破魔の属性が付与されているし、負傷部には部下たちの治癒の神聖術もまとわりついている。


 これを剣気のように操作することが出来れば、必要な個所を適宜必要に応じて強化することが出来る。そうすれば、ヴィクトリアはさらに強くなれる。


 加護を扱うにはどうすればいいのか。ヴィクトリアは知っている。


 思い浮かべたのはフランシスコの姿。


「神よ我に力を与えたまえ。」


 神が願いを聞き届けたのかどうかは不明だが、その祈りがトリガーとなった。


「我、天才!」


 加護の神聖な力を剣気と同様に実態を伴って感じることが出来る。操ることが出来る。


 ヴィクトリアは即座に力を行使した。今までは身体能力のすべてを向上させていた身体能力向上系の加護、その加護に偏りを与えた。


 そうすることで、弱い部分を作る代わりに要所でより大きな力が発揮できるようになった。


 その結果は劇的だった。


 唐突に踏み込みが深くなり、剣撃の速度が上がったヴィクトリアに対し、メヒコゾンビは完全に虚を突かれることとなった。


 そこに動きの唐突な加速が合わされば、致命的な一撃を加えるに足る隙が生じる。


 防御が間に合わず、がら空きとなったメヒコゾンビの右胸心臓部に白亜の剣が突き刺さった。


「ヴぉおおおおおおお!」


 メヒコゾンビが断末魔に相応しいうなり声をあげる。


「我の勝ちだ!」


 白亜の剣にはハクモの強力な破魔属性が付与されている。


 蘇生されたゾンビであっても耐えることはできない。致命の一撃。


 そのはずだった。


「真奥・超越体」


 響く嗄れ声と共に、今までにないほど大きな剣気がメヒコゾンビからあふれ出す。


 少女剣士の剣は確かに心臓部を貫き、剣の纏った破魔の属性は蘇生術を著しく弱めた。


 しかし、消滅させるには至らなかった。それでは動きを止めることはできないようだった。


 膨れ上がったメヒコゾンビの剣気が偽魂の残滓と共に煌々と立ち昇る。


 真奥・超越体は瞬体と剛体を同時に発現した状態だ。消耗があまりにすさまじく超短期決戦でしか使えない。しかし、今がまさにその使い時だった。


 死に瀕した時、人は最も大きな力を振るうことが出来る。それは偽物の魂で動くメヒコも同様だった。


 生前、死後合わせても、今のメヒコが最も強いだろう。


「はーっはっはっは!それでこそ師範代!剣王候補メヒコ!我が超えるべき相手に相応しい!」


 強者の迫力がチリチリとヴィクトリアの肌を焼く。


 死への恐怖、焦燥感、危機感。それでもなお覆いきれないほどの歓喜、昂ぶりがある。


 自身を超える強者を前にして昂る本能は、生物の生存本能としては欠陥もいいとこだ。


 しかし、戦いを生業にする剣士が受け継いできた剣士の性でもある。


 そしてヴィクトリアは笑い声をあげながら、さらなる死線へと身を投じた。








 忌々しいカイバスの青い炎に肩を焼かれながら、それでも俺はアバロンとカイバス相手に時間稼ぎをすることに成功していた。


 俺はいじらしく健気に自らの職責を全うしている。


 奴らの意識が他所にいかないよう、かまってちゃんムーブをかまし、気を引き続けている。


 だというのに身を苛む苦痛は晴れることはなく、むしろ増すばかり。


「神様!どうなってんすか!?あなたの敬虔な信徒が苦しんでるんすけど!救ってはくださらないんですか!?神様あ!職務怠慢ですかあ!?」


 痛みに思わず不満が口をついて出る。


 だが、不満を口にしながらも、俺はちゃんとメイスを振るって異教徒のクソ共を滅する聖務に精を出している。神官の鑑だ。


「おい、なんだこいつ。ついに神と対話を始めたんだが」


 アバロンが俺の攻撃をかわしながら、驚いている。


「それが事実なら歴史的偉業だろうが、おそらくは痛みに気をヤってるだけだ。それにしても己が信奉する神相手に不満を口にするとは…。アスワン教徒の倫理観はどうなっている。」


 俺がアバロンにメイスを振り下ろした隙にカイバスが燃える黒剣で、俺の胴体をなで斬りにしようと迫る。


 寸でのところでそれを躱し、そのまま死角から襲い来るアバロンのゾンビをメイスで撃ち落とす。


「ちっ、ありえねえだろ!?焼かれながら俺らの攻撃をしのぎ続けるとか…。」


「アバロン。落ち着け。ダメージがないわけじゃない。奴も確実に消耗している。見ろ、肩で息をし始めている。汗もすごい。奴の限界はすぐそこだ。」


 表情に出さぬよう気を付けていたが、カイバスの言う通り、限界が近づいている。


 燃え続ける青い炎は治癒の神聖術を扱う力を消費し続け、俺はやがて自己治癒すらままならなくなるだろう。


 少女剣士達を信じ、場が好転するまでの時間稼ぎを継続するべきか。


 どこかの戦場で勝利を収めたならば、余剰戦力が産まれ、支援を期待することが出来る。


 あるいは他の打開策を探るべきか。


 どちらにしても運ゲー感がぬぐえない。


 炎に身を焦がす現状、時間的にも精神的にも余裕はない。


「はっはっはっはっは!馬鹿が!この俺が限界だあ!?それはテメエの願望だろうが!軟弱なヴァジュラマ教徒と一緒にしないでいただけますかぁあ!?」


「お前さっきまで神に恨み言吐いてたじゃねえか。」


 無理やり口角を上げて気炎を吐く。アバロンとカイバスには虚勢を張り続ける必要がある。劣勢にある今、精神だけでも優位に立っていたい。相手に警戒させ続けなければならない。


「ん?」


 殺し合いを続ける中、俺はついに気づいた。


 奴らの動きが妙だ。思えば俺の肩を青炎が焼いたあの時から違和感は生じていた。


 理由を考え、答えを得た。


「お前ら、この炎を避けているな?」


 俺の肩を焼き、燃え続ける青い炎


「おい。これはお前の意思とは関係なく燃え広がるのか?」


 カイバスは俺の問いに答える様子はない。しかし、わずかに眉間のしわを深めた。


「黙っているってことはアタリか?」


 奴らはなお沈黙を続けた。だが、構わず続ける。


「つまりさあ…。」


 俺はメイス「戒め」の先端に青い炎を灯す。


「これで殴ればお前らにも燃え移るってことだよなあ。」


 普通、焼かれながら戦うことが出来る人間などいない。


 いたとしても短時間のはずだ。すぐに火が全身に回り炭になるはずだ。俺のように焼かれながら戦い続ける人間を奴らは想定していなかっただろう。


 炎に焼かれ続ける地獄の苦痛。それに耐え続けたあの時間は無駄じゃなかった!


 俺は煌々と燃えるメイスを構え、引きつった表情を浮かべる二人の四大魔に喜び勇んで襲い掛かった。

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