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64:迷宮内戦闘①


 白蛇を討たれ、呆然とするハクモ。


 その隙をついてメヒコのゾンビはハクモに急接近する。


「させない!我が相手だ!」


 少女剣士は剣がハクモに届く寸前、ハクモの前に割り込みメヒコゾンビより振り下ろされる黒剣を受け止めた。そのまま往なし、メヒコゾンビの体勢を崩す。生じた隙をつき、ハクモを連れて後退した。


「ハクモをお願い!こいつは我が受け持つ!」


 ハクモを部下共に預けながら少女剣士はメヒコゾンビに対して再度構える。


「無理だ!ヴィクトリア!見ただろ!さっきの動き。生前と同じ、いや、それ以上の動きだ!それに奥義まで…。師範代は俺達に適う相手じゃない。」


 ポーロが叫ぶ。少女剣士の身を案じてのことだろう。少女剣士が成長したことを知ってはいても師範代と戦えるほどとは考えていない。


 しかも、黒剣もしくは蘇生術の影響か、メヒコゾンビの動きは生前のそれを超えているという。


 とはいえ、少女剣士は剣王候補であり、師範代でもあるマルコと一時的に互角の戦いを演じている。力量に不足はないはずだ。


 というか人員不足だ。他に対処できる人間がいない。


 敵はメヒコゾンビだけではない。同レベルと思われる敵戦力は最低でも憤怒のカイバスと嘲笑のアバロンの二人がいる。俺一人に対処できる人数は一人だ。


 仮に少女剣士がメヒコゾンビに叶わない実力だったとしても、戦ってもらう必要がある。


「いや、お前はそのままメヒコの相手をしろ!ハクモの護衛の部下共を数人回す。ハクモは残った白蛇とソードマンで闇の眷属を排除しろ。そのままアバロンの対処もだ。俺はカイバスを抑える。」


「そんな!いくらヴィクトリアが強くなったからって…。後方で誰かの助勢をしてもらった方が…」


 クイが何やら言い募っている。こいつら何しにここ来てんだ。邪魔だな。


「他に対応できる戦力がいない!それにそいつなら大丈夫だ。仮にもマルコ相手に互角に戦ったんだ。一方的にやられることはないはずだ。」


 多分ね。


「マルコ師範代と…。」


「というかてめえらがもっと強ければよかったんだ!弱者の分際で文句言ってんじゃねえ!俺の命令には絶対服従!そういう話だったはずだ!お前らはハクモの護衛だ。行け!」


 俺がキレ気味にそう言うと、ポーロとクイは泡をくって、急いでハクモの護衛に回った。従順なのはいいことだ。


 クイとポーロは剣気と加護による二重の強化が出来るため、俺、ハクモ、少女剣士に次ぐ戦力だ。能力は強力ながら、身体能力は低いハクモの護衛にするのが最適だろう。


「嬢ちゃん。俺達が援護する。」


 少女剣士にも部下の援護がある。問題ない。


「ははははは!仮にも剣王候補と言われるメヒコだぞ!その女に相手が務まるのか!?そこの剣士の言う通り、大人しく後方支援にまわったほうがいいんじゃねえの!?しかも俺の相手は幼女ときたもんだ!ははは!人員不足ってのは辛ぇなあ!」


アバロンの嘲笑。


「おい。馬鹿にされてんぞ。」


「絶対に負けないと高をくくってる奴の鼻をあかしてやるのが楽しいんだ。」


 少女剣士はそう言うと、剣気を纏ってメヒコゾンビ目掛けて斬りかかる。メヒコゾンビが剣を受け止めた刹那、鞘を手に取り、脇腹目掛けて殴りつけた。


 ゾンビは痛みを感じないが、力を受ければ体勢は崩れるし、肉体も傷む。


 メヒコゾンビは少女剣士の追撃を受ける寸でのところで回避し、反撃に出るが少女剣士に躱されてしまう。何度かの攻防のすえ、互いに距離を取りにらみ合う。


「あぁ?」


 少女剣士とメヒコゾンビの互角の戦闘、その様子にアバロンが不機嫌な声を漏らす。機嫌の悪さを象徴するように眉間に深くしわが刻まれている。


「異教徒は皆死刑。絶対殺す。」


 ハクモの声に視線を移す。


 ハクモは部下共や剣士に守られながら、迫りくる蘇生された闇の眷属、闇の眷属ゾンビに浄化の神聖術を使用していた。


 ハクモの扱う神聖術は異教徒殲滅に特化している。調伏の恩寵にばかり目がいきがちだが、ハクモの浄化の神聖術は異様に強力だ。アスワン教内でも屈指だろう。


 浄化を受けた闇の眷属ゾンビは動きが鈍くなり、やがて止まった。


 浄化の神聖術はアバロンの蘇生能力を相殺するようだ。蘇生能力がなくなればそれはただの死体だ。さらに浄化を続ければ消滅する。肉体が残っていなければ蘇生されることもない。


 アバロンの操る闇の眷属ゾンビは多いが、ハクモにはそれに対抗する手段がある。


 さらにハクモは部下共の支援を受けており、剣士の護衛もいる。白蛇もまだ一体残っている。アバロンはメヒコゾンビの操作にも力を割かれていることを考えると、状況はハクモに有利と言っていいだろう。


 あとはどちらの力が最後まで持つかの体力勝負だ。


「おいおいおい!女子供相手に互角とは!こんな奴が四大魔なんて、人手不足は辛ぇなぁあ!?」


 当初想定していた以上に互角の展開だ。煽り返さずにはいられない。


「てめえ…。」


 親の仇のような目で睨みつけられるが、ふとなにか気づいたかのように表情を変えた。いぶかしむようにアバロンは口を開く。


「お前、なんか嫌な感じすんなぁ。なあカイバス、感じねえか。なんつーのか、瘴気っつーか、呪詛っつーか。穢れっつーのか。とにかく嫌な感じだ。」


 要約すると生理的に無理と言われている気がする。


 だが、アバロンの様子を見るに、俺に煽られたことが悔しくて、程度の低い悪口を言っている様子ではない。


 敬虔なアスワンの神官たる俺に対し、瘴気だの呪詛だの穢れだの実に罰当たりだ。しかし、闇の性質を持つヴァジュラマ教徒共からすれば、俺の聖性は穢れのように感じるのかもしれない。ばい菌が薬を嫌がるように、邪悪なヴァジュラマ教徒は神聖な俺を嫌がるのだろう。


 しかし、それは俺の身にヴァジュラマ教徒が嫌がるほど強力な聖性が宿っているということだが、生憎俺はそこまで神に愛されていない。


「言われてみればそうだな。忌むべきアスワンの力を奴から感じる。」


 話を振られたカイバスもアバロンに同意した。


 二人の四大魔が口をそろえるのだから、やつらが俺から何かを感じているのは間違いない。


 そして俺はそれに心当たりがある。モネより受け取り、今なお懐に忍ばせている聖遺物、女神像。


 懐の女神像に秘められた神聖な力はヴァジュラマ教徒にも感じ取れるのかもしれない。


 それだけの力がこの女神像にはある。


「ヨハネ様が危惧していたのはお前のことか?」


「お前、迷宮の封印方法を知っているな。」


 カイバス、アバロンの順で俺を問いただしてくる。しかし、奴らは奴らの保有している情報を当然俺が持っている前提で質問してきている。ゆえに質問に一貫性がないように感じる。論理の飛躍を感じる。


 だが、察せることもある。


 迷宮の封印。アバロンの一言だ。違和感がある。迷宮など迷宮核を壊せば破壊される。それが封印のようなものだ。知ってるも何もない。だが、その違和感が俺に天啓を与えた。


 ふと遠き地での記憶が脳裏を過る。蛮族の地、生贄の祭壇、そしてヴァジュラマ像。迷宮の聖域化とヴァジュラマ像の封印方法を知り、懐の女神像をここに持ち込むことになった所以。


 アバロンとカイバスの不穏な誰何には答えず、質問を返す。


「まさかここにヴァジュラマ像があるのか…?」


 奴らの雰囲気が一変した。


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