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63:迷宮突入。そして接敵

 村にいるヴァジュラマ教徒を制圧した。しかしさすがに数人は逃がしてしまった。


 相手の方が人数の多い状況下で一人も逃がさないというのはさすがに無理があった。


 取り逃がしたヴァジュラマ教徒共のせいで、もしかすれば迷宮内にいるであろう幹部共に俺たちのことが知られてしまうかもしれない。


 しかしそれは仕方ないと諦めよう。


 こちらの損害は極めて軽微だ。それだけで十分な結果といえよう。


 損害の少なさはひとえに治癒の神聖術のおかげだ。負傷したとしても即座に癒すことの出来るこの能力は継戦能力を圧倒的に高める。


 神の与えたもうた治癒の神聖術によるこの継戦能力の高さこそ、アスワン教徒が異教徒を滅ぼし、地上に覇を唱えることになった所以だろう。


 そして現在、部下共が捕らえたヴァジュラマ教徒を尋問している。


 その間、剣士達戦闘員は手持無沙汰だ。暇にあかせてくだらない話に花を咲かせている。


「ヴィクトリアすごいなお前!あのヴァジュラマ教徒達とやりあうなんて!」


 クイとポーロが戦闘後の高揚のまま、口々に少女剣士を褒め称えている。顔を上気させ、口角泡を飛ばしている。


「お前いつの間に剣気を纏えるようになったんだ!?しかも剣にも纏ってたよな!?」


「それにその剣!どこで手に入れたんだ!?業物だろそれ。」


「……うん。まあ。」


 少女剣士はというと、得意げにイキり散らかすのかと思いきや、微妙な表情を浮かべている。


 まあ、嫌いな奴に褒められても微妙だよな。


「それだけ強ければ結婚相手も選び放題だろ!」


「俺なんてどうだ?これでも同年代なら強いほうなんだ。」


 剣士の里の女は強ければ強いほどモテる。より強い子を産むと思われるからだ。


 原始的で野蛮な感性だ。


 既視感があると思ったら完全にハン族と同じだ。クイとポーロはハン族の戦士見習い共と同様、少女剣士の強さに魅力を感じて直接的なアプローチを始めたのだろう。


「おい、俺の方が強いだろ!」


「最近は勝てるようになってきただろ!すぐに追い抜くさ。」


 男もまた強い方がモテる。剣士の里では強い男ほど地位が高く、生活も安定する可能性が高いからだ。


 やはり強さこそ正義という価値観があり、自身の子にも強さを求める傾向がある。


 強い男、強い女との子は強くなる確率が高い。


「我は結婚するために強くなったんじゃない。」


「はあ?」


「お前もしかして本当にまだ剣王とか言ってんのか?」


 どうしても強さの面では男に女は劣る。剣王を本気で目指す女は年と共に減り、より強い相手を伴侶とするために鍛錬に励む。


 クイとポーロの言動は剣士の里ならば正常なものだ。


 少女剣士の年齢で剣王などと言ってる夢見がちな女は本当に稀なのだ。


「ふんっ。」


 少女剣士はクイとポーロの言動に激高するかと思いきや睨みつけ、それ以降無視を決め込んだ。




 部下によるヴァジュラマ教徒の尋問が終了した。


 ヴァジュラマ構文話者が多く、難儀していたようだが、少数のまともな奴から聴取することができた。


 まずこいつらの目的だが、迷宮自壊のために迷宮を育てている。しかし、迷宮に居続けることはできないから、周辺の村人を追い出し、そこを居住区にしようとしていた。


 おおよそ俺達の想定していた通りの目的だった。


 敵の戦力だが、蘇生術の使い手とメヒコと互角に戦っていたヴァジュラマ教徒は二人共が四大魔であることが判明した。以前襲撃してきた苦痛のヘイムの厄介さを考えると、かなりの脅威だ。普通に敗北もあり得る。撤退も考慮に入れるべきだ。


 四大魔二人の能力も聞き取りの結果、判明している。下っ端のヴァジュラマ教徒にどこまで詳細な能力が明かされているかは疑問だが、事前情報なしよりかは遥かにいい。


 二人は迷宮に残っているが、他に迷宮内に残っているヴァジュラマ教徒はいないとのことだ。先ほどの戦闘で逃げ延びた者達が合流していない限り、迷宮内の敵は二人のみだ。闇の眷属は剣士共にほとんど滅されてしまい、残存していないと思われる。


 ヴァジュラマ教徒の部下もほとんで連れていない状態で四大魔のみと戦える機会など早々ないだろう。迷宮を封印するだけでなく、これは敵の有力な幹部を減らす好機かもしれない。


 不利な情報としては師範代メヒコを含む剣士のほとんどがすでに死亡しているらしいということだ。迷宮内での支援は期待できそうにない。


 クイとポーロそして少女剣士はその情報を聞き、随分と気落ちしていた。


 クイとポーロの目的である救助はこの時点で達成不可能となった。しかし、敵討ちをすると息巻いている。


 そして俺達に同行すると申し出てきた。こいつら二人だけでは敵を討つ能力がない事は自覚しているようだ。


 いないよりかはいた方がマシだから同行は許可した。しかし指揮権は俺にあり、従うよう厳命した。勝手な行動をされて足手まといになられては困る。


 いずれにせよ、俺は迷宮内に入り、四大魔と戦うことを決めた。勝率は十分に高い。


 そして休息をとったのち、俺たちは自身に破魔の神聖術をかけ、迷宮探索へと挑んだ。


 迷宮まではクイとポーロがしっかりと記憶していたし、ヴァジュラマ教徒からも道のりを聞きだしている。スムーズに迷宮にたどり着いた。


 迷宮内は静かなものだった。情報通り、闇の眷属の一体もいない。


 道は枝分かれしているが、クイとポーロがある程度把握していた。時折道を間違えるものの、迷うことは少なかった。


 進むと開けた空間に出た。不思議とどの迷宮でも最奥、迷宮核の手前には広い空間ができる。ここも迷宮核近くの最奥なのだろう。広間の奥には先の見通せない通路が見える。


 しかしそこに奴らはいた。通路の手前にヴァジュラマ教徒が陣取っている。


 四大魔と、村から逃げ延びたのか、黒マントのヴァジュラマ教徒が10人ほど。そして空間を埋め尽くすほどの闇の眷属。


「ようこそアスワン教徒のクソ共!俺は四大魔の一人、嘲笑のアバロンだ。」


 両手を広げて高らかに叫んでいる。見るからに機嫌がよさそうだ。


「歓迎する。迷宮の贄が増えてうれしいぜ俺は!」


「てめえっ…。」


 ポーロがアバロンの口上に言葉を漏らす。死した剣士の仲間のことを想起したのだろう。


「あ?ああ、お前あれか。逃げた剣士か。」


 その声をアバロンは聞きつけたようで反応を示した。


「よかったな。ほら、お前のお仲間だ。」


 アバロンの言葉と共に、黒マントの者の半数以上がマントを取り外した。


「見た目は少し変わっちまったが、最後に再会できてよかったな!」


 黒マントの下には一つの胴体に頭部が複数、そして腕が頭部の倍の数を持つ人型がいた。


 剣士の死体を分解し、つなぎ合わせた改造ゾンビとでも表現すべき様相だ。


 それを見たクイとポーロは表情を青ざめさせ、そして怒りに身を震わせた。


 俺はモネに付き合わされて、死体を冒涜することに慣れてしまっているから思うことはない。しかし、通常の人の感覚からしたら、許しがたくおぞましいことに違いない。


「おまっ!ざけっ……なんでっ!」


 クイは怒りで何やら怒鳴っているが、感情が空回りし、言葉になっていない。ポーロは顔を真っ赤にさせてすごい形相でアバロンを睨んでいる。


「そう怒んなよ。こいつだけは弄ってねえから。」


 そう言うアバロンの視線の先には血の気のない顔色で立つ師範代メヒコの姿があった。腕には黒剣が憑りつき、ハクモのソードマンのように合体している。


「こいつは強かった!勇敢だった!剣王候補というだけあった!こいつの死に様を教えてやろう!なかなかに凄絶だったぜ!聞きたいか?聞きたいよなぁ!」


 アバロンは上機嫌に笑っている。何やら長話が始まりそうだ。


 俺たちにこいつらのおしゃべりに付き合ってやる筋合いはない。都合の良いことに敵さんは皆お行儀よく、アバロンが話終えるのを待っている。戦闘準備が出来ていない。


「やれハクモ。」


「うん。白蛇」


 虚を突くのは戦術の基本である。


 アバロンが話し続ける中、巨大化した白蛇が二体、前方に位置する数多の闇の眷属に襲い掛かる。


 闇の眷属の蘇生を防ぐため、丸呑みにしている。


「ちっ、お行儀がわりぃなぁ。人が楽しくおしゃべりしてるとこだろが。」


 アバロンの不機嫌な言葉と同時にメヒコのゾンビが動いた。メヒコのゾンビは片一方の白蛇へと突撃し、白蛇の巨体に隠れ、視界から外れた。


「奥義・剛体」


 かろうじて聞き取ることが出来たが、ひどい嗄れ声だった。うめき声に近い。


 だが、その言葉の意味するところははっきりと分かった。


 そして直後、蘇生された闇の眷属を屠っていた白蛇の胴体に巨大な穴が開いた。


 メヒコのゾンビが黒剣により白蛇に大穴を開けたのだ。


「うそっ」


 愕然としたハクモの声が、白蛇の断末魔にかき消される。


 白蛇は最後に身をくねらせ、数多の闇の眷属を道連れに、そのまま消滅した。


「あーあ。邪魔されて何話してたか忘れちまったじゃねーか。」


 アバロンは白蛇の消滅にさしたる反応も示さず頭部を掻き毟り、不満を口にする。しかし、言葉とは裏腹に口調は実に上機嫌だ。


「つまりあれだ。優しい俺様はお前らをメヒコの剣で死なせてやるってことだ。」


 そして四大魔、嘲笑のアバロンは宣告した。


「お前らの未来は死だ。」


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― 新着の感想 ―
[一言] なんかもう言葉が通じても関係なく暴力振るってるなぁ…宗教こわい
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