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62:この中にアスワン教徒じゃない奴いるぅ?

 俺は懐にメイスと女神像を収め、馬車を降りた。目的地に到着したからだ。


 村は既に無人と化したと聞いていた。


 村人は迷宮に生贄として捧げられてしまったのだと。


 しかし、里には黒いマントで身を覆っている一団がいる。


 馬車の立てる音にぞろぞろと集まってきてしまっていた。


 さすがにヴァジュラマ教徒の本拠地ではない。しかし、拠点化の最中のようだ。


 奴らは迷宮を発見するとその周辺に居住区を作る。迷宮は呪詛が強く生活には適さないからだ。迷宮周辺に作られたヴァジュラマ教徒の集落を拠点という。


 本拠地ではなくとも潰した方がいいのは間違いない。


 アスワン教にとっては幸運だろう。俺個人にとっては面倒が増えた形だ。


「蘇生術を使う奴と師範代と張り合っていたヴァジュラマ教徒がいません。」


 クイが村の黒マント集団を確認し、俺に告げた。


 それは朗報。戦力はまとまっている方が厄介だ。


 蘇生術と師範代メヒコと戦闘していた奴、その二人が今回の主犯格であり最大の脅威だ。どちらか、もしかしたら二人ともが敵の幹部、四大魔かもしれない。


 手早く暴力で制圧しようと俺はメイスに手をかけた。


 黒いマントの一団も物騒な雰囲気を醸し出してきている。マントの隙間から黒剣らしき光沢が覗いている。


「戦う前に本当にアスワン教徒じゃないか確認した方がいいのでは?」


 血気に逸る俺を押しとどめるように部下が進言してきた。


 俺達はアスワン教の神官だ。アスワン教徒に対する暴力は厳禁だ。眼前の黒マントの集団がいかにあやしくても。ほぼほぼヴァジュラマ教徒で間違いなくとも。確かに確認は必要かもしれない。俺は黒マント共に向き直り、全体に響く大声で黒ずくめの集団に問いかける。


「こん中にアスワン教徒のやついるぅ?」


 黒マント集団を見回しながら言葉を続ける。


「邪悪と混沌の象徴たる黒を纏っておいて、アスワン教徒名乗る奴いるぅ?いねえよなぁ!?」


「それで確認のつもりなのか。」


 クイが小さな声で呟いた。聞こえているからな。


 黒マントの集団は特に返答をすることもなく黒剣を構えた。黒剣の能力を解放する聖句を唱え、ヴァジュラマ教徒共は切りかかってきた。


「剣もって襲い掛かってきてるからこれもう処していいよな?これもうヴァジュラマ教徒だろうがアスワン教徒だろうが、正当防衛だよなぁ?」


 俺が聖務を執行するための最終確認を部下にしているとクイが警戒を呼び掛けた。


「油断しないでください!こいつら意外と強…」


 俺はクイが言い切る前に奴らを三人まとめてメイスで黒剣ごと殴り飛ばした。


 ヴァジュラマ教徒共は仮にも迷宮内で剣士数十人を敗走させている。しかし、それは幹部らしき奴と蘇生された数多の闇の眷属がいたからだ。


 幹部や闇の眷属のいないこいつらなら俺たちの敵ではない。


「敵対行動及び黒剣の使用を確認した!よってこいつらをヴァジュラマ教徒と断定!戦闘を許可する!」


 戦闘の許可を出したはいいものの、いかんせん敵の数が多い。


「ハクモ!やれ!」


「ヴァジュラマ教徒は皆殺し。白蛇!」


 多対一に圧倒的に強いハクモの二匹の白蛇を巨大化させ、突撃させる。それだけで大部分は戦闘不能に陥る。


「むぅ一番槍取られた。まあいいや。ぶっ殺す!」


「おいヴィクトリア!待て!俺でも一人じゃ太刀打ちできない!お前じゃ無理だ!連携し…」


 ポーロが単体ヴァジュラマ教徒に襲い掛かる少女剣士に慌てて敵の戦力を伝える。お前に適う相手ではないと。


「ふん!我の敵じゃないよ。」


 だが、ポーロの杞憂だった。少女剣士は危なげなく黒剣振るうヴァジュラマ教徒を倒して見せた。唖然とするポーロを尻目に少女剣士は次の獲物に切りかかる。


 白騎士より受け継いだ白亜の剣が美しい剣閃を描き、ヴァジュラマ教徒の黒剣を弾き飛ばす。


「ふん。」


 そのまま少女剣士はヴァジュラマ教徒の集団の中に突撃し、姿を消した。


 その場に残されたポーロは驚きに状況も忘れて放心していた。




 戦闘開始してからどれだけの時間が経過しただろうか。血と体液と怒号が飛び交っている。この村は既に戦場だ。


 ハクモの白蛇によってヴァジュラ教徒の数は大幅に減り、まばらになってきている。


 奴らは死期を悟ると迷宮に逃げ込む傾向がある。そこで命を落とすと迷宮を成長させるし、逃げ延びても幹部らしき奴らに支援を求めるかもしれない。


 ヴァジュラマの幹部らしき奴らにはできれば不意打ちをかましたい。その方がこちらに有利に働く。


 つまり今この村にいるヴァジュラマ教徒は一人残らずこの場で倒しきるのが望ましい。


「ここで敵戦力を可能な限り削る。逃がすなよ!おい!動けなくさせれば止め刺さなくてもいい!足だ!機動力を削げ!間違っても迷宮に逃がすな!」


 身を低くして、敵のすねをメイス「戒め」でカチ割りながら、指示を飛ばす。


「ぐっ!?なんと凶悪な!?貴様それでもアスワン教の神官か!?」


「愛と平和の創造神に仕えている自覚がないのか!?」


 ヴァジュラマ教徒が泣き言を言う。


 戦場で何甘ったれたこと言ってやがる。


 俺は俺の行為の正当性を声高に主張した。


「破壊なくして創造はあり得ないし、愛と平和は敵を駆逐した先にある!俺こそアスワン教徒の鑑だ!理解したなら平伏して死ね!」


「こいつめちゃくちゃだ!?どんなおぞましい邪神を信仰すればこんなことになるんだ!?」


 絶叫するヴァジュラマ教徒。敵の罵倒は最高の賛辞だ。これは俺の有能さを表している。


 しかし、それを理解しない馬鹿も当然いる。


「おい。俺ら助けを求める相手を間違えたか。」


「いや、逆に考えろ。この人が敵対してなくてよかったと…。でも背中には気を付けような。平気で見捨てられそうだし、何なら積極的に囮にされそうだ。」


「それな。」


 クイとポーロが何やら密談を始めた。


「おい何サボってんだ!お前ら二人は敵の足止めするか、ハクモの肉壁だ!好きな方選べ!」


「「すみません!敵の足止めします!!」」


 俺の罵声で二人の動きが多少は改善した。


 さて、もう少しでこの村のヴァジュラマ教徒を制圧できるだろう。


 俺は気合を入れなおし、視界に捉えたヴァジュラマ教徒に殴り掛かった。


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