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61:四大魔の迷宮内会議

 迷宮内。そこには5人いる四大魔の内3人が集まっていた。


 嘲笑のアバロン、憤怒のカイバスそして苦痛のヘイムだ。ヘイムと共にマルコもこの場にいる。


 他のヴァジュラマ教徒は迷宮の外に出ている。迷宮は人体に有害な呪詛が強く、人が生活するのに適してはいない。ゆえに滞在し続けると耐性のあるヴァジュラマ教徒といえど体調を崩す。今は滅ぼした村を拠点にかえるべく働いているところだ。


 アバロンがヘイムに向かって声をかけた。


「悪いなヘイム。外の奴らを片付けてくれたの、お前だろ。」


「いえ、マルコが片付けてくれましたので、私は見ていただけですよ。」


 迷宮外にて待機していた剣士たちは皆マルコによって戦闘不能にされ、生きたままま迷宮に放り込まれ、迷宮内にて命を落とした。


 迷宮内で命を落とす。それだけで迷宮の贄となり、迷宮を成長させる。


「へっ。そうかよ。それにしてもよく味方につけたな。師範代にして剣王候補だったか。」


「古い約束がありまして。」


「約束だぁ?」


「ええ。」


 柔和な笑みを浮かべたままそれっきり返答する様子を見せないヘイムにアバロンは鼻を鳴らし、言葉を続けた。


「まあいいや。俺も面白い奴を手に入れたからな!」


 アバロンの授かった力は蘇生だ。おそらく新たに力のある死体を手に入れたのだろうとヘイムは推測した。


「迷宮の成長具合はどうですか。」


「像を見りゃわかるだろ。」


 視線の先には石造のヴァジュラマ像が祠の中に鎮座している。


 以前目にしたときは拳大程度だったヴァジュラマ像はひざ丈の大きさにまで成長している。


「像を破壊することで俺達も力が増すってことだったか。」


「ええ。ですが像が破壊されたときに増す力は像がため込んだ力に比例します。」


「だから時期を見定めて破壊するってことだったか。ったく、まどろっこしいな。」


「放って置けば迷宮の自壊時に像も壊れて力が解放されるみたいですが、浄化の神聖術を施されると力が減じてしまうみたいですし、完全に封印する方法もあるそうなので我々の手で破壊した方が堅実かもしれませんね。」


「像を破壊する意義は何も我らの力を増すためだけではない。神の復活に寄与する。」


 黙っていたカイバスが口を挟んだ。


 ヴァジュラマの復活。


 預言者ヨハネの予言であり、大いなる大義だ。


 四大魔だけが知る預言者ヨハネの真の目的でもある。


 そのためには特定地域の迷宮内に出現するヴァジュラマ像を成長させ、破壊すること。ヴァジュラマ像を破壊するとヴァジュラマの力が解放され、世に放たれる。


 放たれた力はヴァジュラマ教徒にも分配され力が強まる。破壊する前に成長させた分だけ分配される力も強まる。


 像の成長は安置されている迷宮の成長と連動する。


 ヴァジュラマ像は全部で4つ。


 すでに1つ破壊されていて残り3つだ。残り3つのうち1つが今彼らの眼前にある像だ。そしてすべての像が破壊されたとき、ヴァジュラマが世に顕現する。


 四大魔以外の教徒には伝えられていない。


 他の教徒に伝えている目的、「アスワン教徒との戦争」は新たな教徒を集めるための手段に過ぎない。


 戦争は人を疲弊させ希望を奪う。人を不幸に陥れる。幸福な世界に信仰の芽は育たない。戦争は信仰の土壌となるのだ。


 アスワン教にこの理屈は成り立たない。


 アスワン教徒の普及していない未踏の地ならともかく、この大陸にすむ人類の9割はアスワン教徒だ。


 戦争が起き、不幸になったならば、恨むべきは信仰しているのに救ってくれないアスワンの神だろう。


 信仰を育む不幸な状況は別の神へと改宗する転機となる。


 今のままでは人手が足りない。人手を増やすための中期目標が戦争なのだ。


 そして戦争とはいってもその手段は迷宮を育て、自壊させ、闇の眷属を世に放つことだ。人と人が殺しあう戦争は圧倒的な人数差でヴァジュラマ教徒に勝ち目はない。


 またアスワン教との対決姿勢は既存の教徒の士気の高揚にもつながる。


 アスワン教に個人的な恨みをもってヴァジュラマ教に改宗した者は少なくないからだ。


 また、単純に共通の敵を設定することで教団内の結束を高める効果がある。


 いずれにせよ真の目的は「ヴァジュラマの復活」であり、「戦争」はいかにもなお題目として掲げているにすぎないのだ。


「ところであれだ。」


 アバロンが聞きづらそうにしながらも意を決して疑問を口にする。


「神様復活させてどうすんの?」


「ははは、何を馬鹿なことを…。本当にまったく…、ねえカイバス。」


 ヘイムが苦笑いし、話をカイバスに振る。


「…。」


 憤怒のカイバスは無口な男。必要な時しかしゃべらない。


 カイバスは今回もまた、沈黙をもって答えとした。


「まあ、俺達の力が復活の過程で強まるならなんでもいいか。」


「私も世が混乱し、アスワン教徒が棲みにくい世界になればそれで。」


「…。」


 往々にして、教義の最終目標は論理的理由を伴わない。


 場合によっては論理的矛盾を信仰心でカバーするのが敬虔な信徒だ。


 しかも神の復活、顕現、降臨などと言われてしまえばどうして疑問を呈することが出来るだろうか。


 そもそも預言者ヨハネには限定的とはいえ予言の力がある。


 悪いようにはならないはずだ。


 そうは思うものの、神の復活という大義の意義を答えられない気まずさはいかんともしがたい。


 気まずい空気が場を支配していた。普段と変わらないはずだが、部外者であるマルコの視線が痛い。


 しばらくの沈黙ののち、それに耐えかねたヘイムが口を開いた。


「えー、それでは、他に話がないようならば私たちには他にも仕事がありますからここらで退散させてもらいます。」


 特に反論もない事を確認し、ヘイムは転移の神杖を取りだし、掲げた。


「生ける屍フランシスコには気を付けてください。剣士の里を目指しているとの話も聞きます。ここはその通過点です。接触しないとも限りません。」


 そんな言葉を残し、ヘイムとマルコはこの場より消えた。



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