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55:新たな任務と出世したい理由

 その後、枢機卿二人から新たな任務を仰せつかって会議は終わった。


 任務内容は尋問により聴取したヴァジュラマ教徒の本拠地候補地の調査及び剣士の里への訪問だ。


 ヴァジュラマ教徒本拠地候補地の調査という名目だが、仮に本拠地やそれに準ずるものならば潰して来いとの命令だ。


 剣士の里への訪問はマルコ・ハーゲンがヴァジュラマ教徒に与していたことについて問い合わせる必要があるためだ。


 まさかオタク、アスワン教に敵対する気じゃないよね?と釘を刺しに行く。他にもヴァジュラマ教徒に転びそうなやつがいないかの調査も含む。


 剣士の里は剣王の統治する隠れ里だ。少女剣士の故郷でもある。


 ヴァジュラマ教徒本拠地候補地と剣士の里は同じ方角にあることもあり、俺に仕事が割り振られたようだ。


 いかにも重要そうな二つの任務を同時に俺に回すなと文句を言ったが、ヴァジュラマ教徒本拠地候補地の情報はかなり情報確度が低いらしい。簡単に調査し、ヴァジュラマ教徒と関わりがない事の確認をする程度になるだろうとのこと。主目的は剣士の里の方にあるとのことだ。


 仮にヴァジュラマ教徒本拠地候補地がヴァジュラマ教徒の拠点になっていたとしても、それを潰してから剣士の里へ行けとのこと。近くにはそれなりに大きな町と教会がある。情報共有も出来るし休息もとれるとのことだ。


 以上のことを部下共と少女剣士、ハクモに伝えた。


 そして今回、会議で言われたことで最も大切なことを告げる。


「これで成果を上げれば枢機卿に推薦してくれるそうだ。」


「「「おお。ついに。」」」


 部下共がどよめく。


「出世だ。やっとだ。」



「なんでお頭出世したいの?なんで皆それをこんなに喜んでるの。」


「仕事をやめるためだよ。」


「ん?」


「正確には今の職務、聖務執行官の仕事をやめるためだ。」


 怪訝な反応を示す少女剣士。さすがに説明を省略しすぎた。詳しく説明する。


「金はある。命を懸けた仕事を続けるのはしんどい。続けたくない。だが、逃げるには教会の暗部を知りすぎている。マフィアなどの犯罪組織にかかわった者達が簡単には足を洗えないのと同じだ。教会は後ろ暗い秘密を知った人間が野に放たれるのが怖いんだ。逃亡すれば教会に命を狙われ続ける。」


 俺は生活のために仕事をしている。


 断じて仕事に生きがいなど見出していないし、信仰心から働いているわけでもない。


 金があるなら仕事を辞めて、自由気ままに暮らしたい。すくなくとも腹に風穴開けられるような仕事とはおさらばしたい。


 なら職務内容を変更するよう上層部に届け出ればいいと思うだろう。


 しかし異動願いを出したところで希望が叶うことはない。聖務執行官の職務を全うできる人間は限られている。常に人手不足の職場だ。人事権を握る枢機卿共が理由もなくそれを許すはずがない。


 ならば退職を希望しようとなるが、その意思を上司に告げると脅される。


「そんな簡単に足を洗えると思ってるの?暗殺しちゃうよ。」と冗談めかして告げられる。しかし言葉の調子とは裏腹に、上司の目が決して冗談ではないと伝えてくる。その本気が殺気とともに伝わってくる。


 もう逃亡するしかないと逃げ出せば、追っ手が放たれ口封じをされる。


 俺自身、マカロフの命令で聖務執行官をやめようとした人間を何人も始末してきた。


 聖務執行官は足を突っ込んだが最後、脱出不可能な底なし沼なのだ。


「枢機卿にまで出世すれば現場仕事から抜け出せる。左うちわでふんぞり返ることができるんだ。」


 枢機卿にまで出世すれば話は変わる。


 枢機卿は巨大な教会組織に7人しかいない最高幹部だ。


 命を危険にさらす仕事など回ってこない。


 むしろそういう仕事を他人に押し付けることが仕事だ。


 こいつらは俺の部下だから、俺が枢機卿になれば今後は後方支援の命の危険の少ない仕事を回すことになる。部下たちにとっても利益だ。むしろ俺ほど極まった治癒の神聖術の使い手がいないことを考えると俺より切実だったことだろう。


「じゃあ、貴族の娘さんと結婚して貴族位を継げばよかったんじゃないの。」


 こいつらには結婚を勧められたことも話している。


 確かに少女剣士の言う通り、貴族の娘と結婚して跡継ぎになれば命の危険のある聖務執行官の仕事を免除される可能性はある。少なくとも今よりは危険な仕事が減るだろう。


 少女剣士の疑問に俺が言葉を詰まらせていると部下共が余計なことを言った。


「お頭、なんだかんだで聖女様に操を立ててるからな。」


「司教位のままじゃ聖女様とは釣り合わないっすからね。」


「お頭が貴族になっても、足を洗えるのはお頭だけで部下の俺らは現場仕事のままってのもあるんじゃないんすか。」


「むう。」


 不機嫌な表情をする少女剣士。私情で仕事をする奴とでも思われたか。


 俺も色恋沙汰にうつつを浮かしている奴が仕事のパートナーだったら不安を感じるだろうし、不愉快にもなるだろう。


 とは言え、あくまで俺の想像だ。そもそも少女剣士の考えることを理解できるとも思えない。


「違うぞ。」


 とりあえず、否定しておく。


 少女剣士が不機嫌になってる理由は知らんが、とにかくそれはお前の勘違いで事実ではないと伝える。


「我、まだ何も言ってないんだけど。」


 少女剣士はこちらにジト目を向けて言葉を続ける。


「何が違うの?」


 俺は可能な限り綺麗な造り笑いを作って言った。


「違うぞ。」


「……。」


 無言で足を蹴られた。


 わかんねえよクソッ!


 もしかしたら少女剣士は反抗期に突入したのかもしれない。


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