52:尋問の結果
捕らえたすべてのヴァジュラマ教徒の尋問が終了した。
まず奴らの目的だが、大きな目的は世界の混乱、戦争だ。
ヴァジュラマ教徒の崇拝する根源神ヴァジュラマは争いごとを好むとされている。今までは争いそのものを目的にして短絡的に騒動を起こしていただけだった。しかし、争いの起こりやすい状況・環境づくりにもその視野を広げているようだ。
混乱と戦争という大目的を達成するための手段として奴らは迷宮の育成と布教を行っている。
迷宮は闇の眷属の召喚に付随して放たれる呪詛の濃度が一定値を超えると発生する異界だ。
迷宮内の生命が死ぬことで力を蓄え、迷宮そのものを拡張したり、闇の眷属を産み出す機能を持つ。また、力を一定以上蓄えると自壊し、闇の眷属と呪詛を外界に放出する。
自壊の際には闇の眷属を召喚した時以上に効率的に広範囲に大地を汚染し、人が住めない領域を作り出す。新大陸の歪の森よりも大変な状況になるだろう。
闇の眷属が野に放たれること。そして大地が汚染されることは混乱を招くだろう。
どちらも近隣住民の生命を脅かす。
そしてヴァジュラマ教徒を増やす要因にもなる。
呪詛に対する耐性をヴァジュラマ教徒は持つ。まったく影響を受けないわけではないが、呪詛により汚染された大地でも生きていくことが可能だ。
さらに闇の眷属はヴァジュラマの眷属。ヴァジュラマ教徒を襲うことはめったにない。
迷宮が自壊した地域に住む人間にとって、アスワンの教えを守り続けるより、ヴァジュラマ教徒に改宗した方が生存率があがるのだ。そんな状況下で信仰を守り続けられる者がどれだけいるだろうか。
ヴァジュラマ教徒が増えればそれだけ争いを好む者が増える。
そもそも人は思想の違う者同士で相争う性質を持つ。
迷宮の育成はヴァジュラマ教徒を増やし、アスワン教徒を減らすことにつながる。ヴァジュラマ教が隆盛し、アスワン教が弱体化すれば必ず激しい宗教戦争が始まる。
戦争が起きればどんな結果にせよ必ずアスワン教はさらに弱体化する。
ヴァジュラマ教徒以外にもアスワン教に迫害されてきた宗派は数多くある。抑圧してきたアスワン教の力が弱まれば再び勢力を拡大しようと活動を始めるだろう。
無数の宗教・哲学が混じり合い、新たな思想が生まれ、多様化が進む。
思想・価値観の多様化は不和の種となり争いを生む。そしていずれは戦争となるだろう。
大聖堂中庭に集った大衆を迷宮に転移させたのは迷宮の贄とするため。
大聖堂を襲撃したのはアスワン教の威信を傷つけ、ヴァジュラマ教の力を世間に知らしめるため。それはヴァジュラマ教へ改宗する心理的ハードルを下げることにつながる。
これが豊穣祭の襲撃事件の目的だったそうだ。
話を聞く限り、奴らの目的はすべて果たされている。成功している。
そして実際にその計画を成功に導いた方法だが、それらはすべて、奴らの指導者ヨハネがもたらした。
偶然の産物だった迷宮を人工的に創生する「迷宮創生の秘術」
膨大な下準備が必要な強制転移を、膨大な生贄を必要とするものの、即座に発動できる「転移の神杖」
使用者の命を代償に神の力を借用する「黒剣」
捧げられた贄による力を貯蓄し、供給する「代償の蔵」
いずれも突然ヨハネがヴァジュラマ教徒にもたらしたものだ。
さすがに転移の神杖は数が少なく、四大魔である五人しか所有していない。力も足りず、代償の蔵より力を供給し、はじめて発動可能となる。
代償の蔵に捧げた供物は数か月にわたり、森林の獣、荒野の盗賊、安価な奴隷をコツコツコソコソ捧げてきた。
そんなんわざわざ転移の神杖を利用するために代償の蔵に捧げずに、迷宮に直接捧げればいいと思った。だがどうやら預言者ヨハネは聖女モネ同様に限定的な予知も出来るようで、豊穣祭時に大聖堂中庭に集った人間を迷宮に転移した方がエネルギー効率が良いと予知したのだそうだ。
預言者ヨハネすごいな。
襲撃事件で猛威を振るった黒剣は転移の神杖と違い、すべてのヴァジュラマ教徒に支給されているらしい。大きな脅威だ。
奴らを根絶やしにするために拠点を聞いたが、奴らの発する村や地域の名が俺達が所持する地図に載っていない名だった。
事前聞き取りでも同じことを聞いているため、他の神官がすでに情報を精査し場所を特定しようとしているが、未だ特定には至っていない。
大聖堂中庭に集った人々を転移させた迷宮は拠点とはまた違うところにあるらしい。
奴らの目的からすれば迷宮はいたるところに散在させた方が望ましいのだろう。
今後の活動予定についてもきいてみたが、こいつらは知らされていないようだった。
回答はまちまちだったものの、要約するとこんな感じだろうか。
肝心の情報は事前に聞き取りを行った際と変わりなかった。
それにしてもこれを確認するのにエライ時間がかかってしまった。
奴らがやけに回りくどい演技がかった言い回しをするからだ。
これをヴァジュラマ構文と名付けよう。
ヴァジュラマ構文解読の第一人者は少女剣士。まさかこいつの妙な気性が役に立つ日が来ようとは…。
「捕らえたヴァジュラマ教徒をの共通の傾向としては皆幼稚な英雄願望を抱えているというところですね。」
そうモネは分析した。
特徴に該当する少女剣士に思わず視線を向けるが、当の本人はケラケラ笑いながら「いい年してダサっ」と笑っている。客観性というものを身に着けてほしいものだ。
「今の自分は本当の自分ではない。本当の自分はもっと特別で他人から尊敬を集めるような人間なんだ。という変身願望のようなものも持ち合わせています。」
幼少期に誰もが抱く妄想だ。
しかし普通は成長する過程でそんなことは幻想で、自身は特別でも何でもない。数いる凡人の一人だと気付くものだが、こいつらは違うらしい。
「出身もスラムや貧困な村よりも、ある程度裕福な家庭の次男や三男が多いですね。長男のスペアとして扱われることが多いので、承認欲求が暴走してしまっているのかもしれません。」
家業のある者はその家の長男が継ぐのがこの世の習いだ。しかし、長男に万が一があった時のために次男や三男をスペアとして家に縛る。
長男が死なない限り、死ぬまで長男の補佐しかさせてもらえない。
上昇志向のある若者にとってはつらい境遇かもしれない。
ヴァジュラマ教徒に唆されてしまうこともあり得るのかもしれない。
「私の分析はこんなところです。では次です。始めましょうか。」
だが、特に同情するつもりもない。
こいつはアスワン教に背き、あまつさえ襲撃をかけたのだ。
罰を受けなければならない。
「ヴィクトリアさんに人体の神秘をご覧に入れましょう。」
拷問まがいの人体の仕組み講座が聖女モネにより行われ、少女剣士はしきりにうなずき質問していた。
全ての捕らえたヴァジュラマ教徒に同様のことを行った。時には少女剣士自らメスを握り、皮を裂き、構造を確認した。
それは日が落ちるまで続けられた。
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