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50:地獄の門


 少女剣士が目を覚ましてから2日が経った。俺は捕らえたヴァジュラマ教徒から情報を引き出すべく、奴らが捕らえられている地下牢に向かっていた。


 少女剣士もついてくると言って聞かず、一緒について来ている。


 ヴァジュラマ教徒は多少距離があっても主犯と共に転移で消えた。しかし、どういう仕組みか、すでに捕らえていたヴァジュラマ教徒共が転移することはなかった。そのため、捕らえたヴァジュラマ教徒は地下牢に捕えている。


「事件当日から結構日数が経ってるでしょ?まだ尋問してないの?」


 少女剣士が地下牢への道すがら問うてくる。


「簡単な聞き取りは済んでいる。」


 中庭にいた人々を転移させた方法、ヴァジュラマ教徒が最後に逃亡した方法、構成員、幹部の能力、その目的等は既に割れている。


 しかし、念のため、より確実かつ強制力のある方法で情報を聞き出したい。それなりにリスクのある方法だ。そしてそれを行うために俺はいま地下牢に向かっている。


「だがヴァジュラマ教徒の体調が整ってからでないと本格的な尋問が出来ない。」


「なんで?」


「殺しかねないからだ。」


「尋問で死ぬの?」


「知らんのか。アスワン教徒に問い詰められると死ぬんだ。」


「へぇー。」


 尋問では自白剤を使う。これは死亡率の高い劇薬だ。しかし、効果はてきめんで対象の思考能力を奪い、情報を引き出しやすくする。


 ただでさえ死にやすい薬だ。事件後の体力を消耗し、傷だらけの状態で服用したら情報の一つも吐かずに死ぬ恐れがある。


 治癒の神聖術を使えば良くね?と思うかもしれないがすでに実験済みだ。


 何故か、神聖術で治癒した後で服薬させた者達と自然治癒したものに服薬させた者達とでは致死率が明らかに違ったのだ。神聖術による治癒後に自白剤を服用した奴らの致死率は8割。自然治癒後に服薬させた奴らの致死率は4割だ。原因不明だが、明らかな有意差がある以上、自然治癒させた方がいいという結論に至ったわけだ。


 この自白剤は致死率の高さと非人道的な効用から教会の機密の一つとされている。


 本来は少女剣士をその現場に連れていくことはできないはずだが、枢機卿が許可を出してきた。今回活躍した少女剣士に対する報酬の一つとのことだ。薬を服用する場面を見せず、また自白剤のことを伝えなければ問題ないそうだ。


 そして少女剣士が執拗に同行したがる理由だが……。


「ねえ、お頭!拷問は任せてね!我はいつでも準備万端だから。」


「ああ。」


「やっぱり、戦場に身を置くものとして、人体の仕組みは理解しておかないといけないよね。」


 稀に自白剤を利用してもなお情報を吐かない者がいる。そういう場合は原始的暴力によって真実の扉をたたくしかない。


 拷問は非人道的だと禁止されているが、俺達には治癒の神聖術がある。どんな傷を負わせようと、治癒できる範囲なら拷問の証拠は残らない。ゆえに問題ない。


 仮に拷問を受けた異教徒本人が主張したとしても、耳を貸すものなどいないのだから。


 少女剣士はマルコ・ハーゲンとの戦闘で何かを掴んだらしい。実際手合わせをしてみたが、戦闘技術だけで言えば俺を超えているだろう。


 とはいえ、実際の殺し合いでは戦闘技術のみが優劣を決めるわけではない。まだ俺の方が強いに違いない。間違いない。


 さて、剣士として一段上の能力を手にした少女剣士は人体の仕組みを理解することが戦闘能力の向上につながると感じたらしい。


 筋肉の動き、関節の可動域、血管の位置などに対する知見は確かに戦闘に活きるだろう。


 少女剣士が強くなることは雇用している俺にとっても利益だ。仮に尋問相手が、素直に情報を吐いてくれたとしても、人体の仕組みを少女剣士に教える教材になってもらおうと思う。


 アスワン教会への反逆は神への反逆。


 それくらいの罰は仕方ないだろう。






 地下へと続く螺旋階段を下りていく。待ち構えるのは地獄の門とも呼ばれる重厚な門扉。その先が監獄となっており、捕らえたヴァジュラマ教徒共が拘束されている。


 いよいよ門扉の前に到着した。


 門扉には門番と共にこの場に似つかわしくない人間が待っていた。


「こんにちはヴィクトリアさん。フランシスコ。」


「どうしてお嬢様がいるの?あとアイギスさんも!」


「それは私が尋問の専門家であり、人体の仕組みにも精通しているからですね。」


「え?聖女様が?」


「ええ。フランシスコに呼ばれました。」


 聖女モネがいつも通りの純白の衣装で待っていた。少女剣士は豊穣祭の散策以来モネのことをお嬢様と呼んでいる。


 そしてモネの背後にはアイギスが剣を携えて控えている。少女剣士に黙礼をした後俺を睨めつけてくる。怖ぇよ……。


 場違いはなはだしいが、何を隠そう、呼び出したのは俺だ。


 聖女と監獄の見た目はミスマッチだが、聖女はここに通い詰めている常連だ。


 ちなみに聖女モネ並びに枢機卿二人はヴァジュラマ教徒の襲撃を予見していた。ゆえに事件当日は影武者を置いて、自身は安全地帯に避難していた。


 その行動には顔をしかめる者もいるとは思う。しかし上に立つ者として当然の行動だ。教皇のように人質に取られては目も当てられない。


 この三人は教皇と違って替えが利かないからな。


「あ!我を治癒してくれたと聞きました。ありがとうございます。」


「いえ、いいのですよ。フランシスコに貸しを作れましたし、私個人としてもヴィクトリアさんに死んでほしくはありません。私の数少ない友人ですから。」


「お嬢様……。好きぃー!」


 モネの言葉に対して、素直に感激して見せた少女剣士。今はモネに抱き着き、胸元に頭をこすりつけている。


 俺にはモネの白々しい善い人アピールに見えたのだが、少女剣士が思いのほか喜んでいて驚いていた。祭りの散策時にはそんなに仲良い様子はなかったように思うのだが。


 モネはというと、抱き着く少女剣士に嫌がる様子もなく、抱きしめ返し、その頭を撫でている。


 モネも案外本気で少女剣士を気に入っているのかもしれない。


「ふふ。名残惜しいですがいつまでもこうしているわけにはいきません。中に入りましょう。」


「うん!」


 既にヴァジュラマ教徒共には聖女の手により自白剤が投与されている。そういう手はずだ。


 意識を朦朧とさせたラリったおっさんが待っていることだろう。


 そう考えると気が重いがこれも仕事だ。


 俺達は地獄の門を開き、中へと入っていった。


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