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49:ヴァジュラマ襲撃事件 終結

 俺が全力で投げたメイスは丁度男が振るった黒剣に当たり、少女剣士の首をはねるかと思われたその軌道を変えた。


「なにっ!?」


 さて、急場をしのぐことには成功したが、いまだ少女剣士の危機は続いている。少女剣士はもはや動ける状態にないし、俺はまだ距離がある。


 俺は続けて、手にあるもう一方のメイスを男に向かって投げつけた。


 幸運なことに、他のアスワン教徒の神官が少女剣士とその相手をしていた男の間に割って入り、俺の投げたメイスと合わさり、敵を少女剣士から遠ざけることに成功した。


 しかし俺の追っていたヴァジュラマ教徒の主犯が少女剣士と争っていた男と合流してしまった。


 時を同じくして俺の部下共が大挙して大聖堂中庭に入ってきた。


 状況の変化が目まぐるしい。


 主犯と思われるヴァジュラマ教徒は視線をめぐらせ、改めて状況を確認したうえで口を開いた。


「さすがに劣勢です。撤退しますよ。いいですねマルコ。」


「ああ。仕方あるまい。」


「させるか!」


 俺はそう言い、駆け寄るも遅かった。


 主犯は豪奢な杖を振りかざした。


 杖からまばゆい光が発せられ辺りを白く塗りつぶした。


 数秒後、光が収まった時にはもうヴァジュラマ教徒はそこにはいなかった。


 あっけない事件の結末に一瞬呆けるも、すぐに立ち直り、状況を把握する。


 真っ先に少女剣士の下へと駆け寄る。


「おい!生きてるか!?」


「…お頭?」


 今にも死にそうな土気色の顔色をしている。立っているのが信じられないような状態だ。それだけでなく返事を返すことも出来るというのだからこいつの生命力には脱帽だ。


 だが会話をするだけでも体力を消耗する。これ以上は黙って大人しくしていてもらおう。


「うるせえ!しゃべるな死ぬぞ!」


「お頭が話しかけてきたんじゃん。」


 我ながら理不尽なことを言ってしまった。だが俺も人間だ。筋の通らないことを言うこともある。


 俺は急ぎ、治癒の神聖術を少女剣士にかけるが、少女剣士の消耗が想定以上にひどい。


 俺はついさっき到着したばかりの部下共に指示をだす。


「お前ら!こいつが死にかけてる。応急措置はしたが、予断を許さない状況だ。治癒の神聖術をかけながら聖女のもとへ運べ!あいつならどうにかしてくれるだろ。」


「ういっす。嬢ちゃん行きますよ。」


 部下共が少女剣士を連れて、走り去っていく。


 大聖堂の大きな門をくぐっていく。


 以前は荘厳なたたずまいだったが、今やあちこちにヒビが入り、随所が崩れている。


 見るも無残だ。


 門だけでなく大聖堂全体に生々しい破壊の跡がある。


 物理的にも大きな傷跡だがそれ以上にアスワン教の名声や威信に傷を残した。






「はっ!夢か。我が負けてお頭に助けられる夢!」


「夢じゃねえ。現実だ。」


 あれから3日が経過した。本来なら1週間継続するはずの豊穣祭は中止となり、アスワン教の神官はヴァジュラマ教徒襲撃事件の真相究明、失った威信の回復に向けて奔走している。


 少女剣士はあれから本日まで寝っぱなしだった。生死を彷徨う場面も何度かあったが、その都度聖女モネにお越しいただいて治癒の神聖術をかけてもらえば回復した。


「そっか現実か…。」


 少女剣士はしばし窓の外を見て黄昏ていたが、不意に質問してきた。


「我が戦った師範代、マルコ・ハーゲンはどうなったの?」


「他のヴァジュラマ教徒共と逃げた。現在指名手配中だ。」


「そっか。まだ決着はついていないからね。よかったよかった。」


「おい、さっき負けたとか言ってたろ。それと敵が逃げてよかったとか他の神官の前で言うなよ。」


「死ぬときが剣士の負ける時だ!我はまだ生きてる!つまりまだ負けてない!」


 負け惜しみを言う少女剣士。病み上がりだが、元気そうで何よりだ。


「そういえば白い人はどうなったの。」


 少女剣士が珍しく躊躇しながら質問してきた。


「白騎士のことか。」


「多分そう。白い剣と盾をつけてた。」


「あいつは殉教した。」


「そっか。」


 多くの神官が今回のヴァジュラマ教徒襲撃事件で殉教した。その多くが最高戦力である聖務執行官や聖騎士であり、さらにその中でも特に腕利きであった白騎士の死は衝撃をもってアスワン教徒に広がった。


 聖騎士や聖務執行官が殉教することは珍しくない。


 異教徒や背信者などの異端と戦うということは常に死と隣り合わせということだ。


 多くの敵を殺してきたし、多くの味方が死ぬのを見てきた。俺はもはや何も感じなくなったが、少女剣士には思うところがあるのかもしれない。


 以前少女剣士は、人はいずれ死ぬものだと悟ったようなことを言っていた。しかし、いざ体験してみると想像と違ったということもある。


 今後、戦いに支障がでると困る。どうしたもんか。


「白い人が使ってた剣、我もらえないかな。最後に背中を預けあったよしみで。」


 白騎士の死を悼んでいるのかと心配していたが、奴の遺品が欲しいとか言い出した。


 センチメンタルになり、形見としてほしいのか。それともただ業物が欲しいだけなのか…。


 こいつの剣、マルコとの戦闘でダメになっちまったからな。


「聞くだけ聞いてみるか。」


 いずれにせよ、白騎士の所持していた剣には武器として高い価値がある。手に入るなら手に入れたい。


 俺達は今回それなりの手柄を上げた。上層部に交渉すればあるいは…。


「お願いお頭。」


 少女剣士はそう言うと、体調がまだ万全ではないのか、布団をかぶり寝てしまった。


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