48:豊穣祭3日目⑤
俺は暴れに暴れていた。体中が痛くて気が立っている。
目についた黒い服装の奴らをかたっぱしからぶん殴る。
ヴァジュラマ教徒共は禍々しい黒剣を振り回しており実に厄介だ。しかし、凡百の聖務執行官や聖騎士ならいざ知らず、俺相手には力不足だ。
「ぐあっ!ありえん!ヘイム殿の代償術を食らって動くどころか戦う等…。」
「てめえら何やってんだ!。もっと痛めつけろよ!」
俺はヴァジュラマ教徒を捕縛すべく、ヴァジュラマ教徒をシバきながらアスワン教徒に指示を出す。
「捕らえたならその辺の高そうな壺にでも突っ込んでおけ!」
どうせ教皇の私物だ。構いやしない。
「使える道具がなくなったら腕を折れ!足を砕いて、目玉をくりぬけ!」
捕縛。それが今の俺の目的。
捕縛には縄で縛って捕まえるという意味が含有されている。
残念ながら縛るべき縄は今この手にない。ゆえに俺は眼前のヴァジュラマ教徒共を恐怖で縛る。
暴力による痛みは恐怖を生み、恐怖は人を従順にする。従順になれば情報を引き出しやすくなるし、万が一逃げられても、再度逆らう気が起きにくくなる。再犯防止だ。
結局暴力こそが最強のソリューションなんだよなあ。
何言ってるかわからねえと思うが俺もわからねえ。
今俺の身は代償術のせいで全身を激痛が走っている。そんな状況下で正常な思考など出来るはずもない。
思うことはただ一つ。
「俺だけこんな痛い思いをするなんて不公平だよなぁ!?」
「ひいっ!!」
俺の慟哭にヴァジュラマ教徒は悲鳴を上げた。
「脈絡なく何か叫び出したぞ。」
「ヴァジュラマ教徒より狂暴じゃないか?本当に味方なのか?」
「この人、背信してないよな?聖務執行官は皆こうなのか?」
「一緒にするな!その人が特別なんだ。聖務執行官が皆猟奇的な戦闘狂なわけじゃない!」
味方であるはずのアスワン教徒までもが俺に白い目を向けてくる。しかし、こいつらはこの痛みの代償術を受けていないからそんなことが言えるのだ。
俺以外で代償術を受けた奴らは皆だらしなくそこらに転がり呻いている。
ったく軟弱者共が!信仰が足りんのだ!信仰が!
「人としてどうなんだこれは」
はっ、世迷言を…。
「神は言った罪には罰をと!こいつらはそれだけのことをやっている!俺は信仰に忠実なだけだ!」
「これが狂信か。」
「ヴァジュラマ教徒共よ!恨むならこの痛みの代償術をちっともやめねえ奴と俺に敵対した手前らを恨め!」
「恐ろしい人ですね。」
脊髄反射で会話している間にも俺はまた一人ヴァジュラマ教徒をダウンさせ、身柄を他の神官に渡す。その際助言することも忘れない。
「金玉は残しておけ!尋問の際、情報を吐くか、玉を潰すか選ばせるんだ!」
「ホントに恐ろしい。」
ヴァジュラマ教徒が冷や汗垂らして呟いた。
教皇の執務室にいるヴァジュラマ教徒はほとんど制圧した。残ったのは眼前の主犯っぽい奴と二人、合計三人のみだ。
「さすがにまずいですね。」
主犯らしきヴァジュラマ教徒がつぶやくが、言葉のわりに余裕がある。
「後はお前らだけだ!いい加減この痛みの代償術を解け!ついでに投降しろ!」
「どちらもお断りです。まったく、あなたのような人がいるとは…。予定が大きく狂ってしまいました。」
主犯らしきヴァジュラマ教徒は懐から黒剣を取りだした。そういえばこいつだけは黒剣を使用していなかった。
「これは寿命を削るので使いたくないのですが…。」
『偉大なるヴァジュラマよ!血を代価に!大いなる力を与えたまえ!』
黒剣が赤紫色に脈動し、黒い瘴気が剣を伝い身体へと伝う。禍々しくも同時に神聖さを感じさせる。力の奔流に自身の毛が逆立つのを感じる。
主犯なだけあり、明らかに他のヴァジュラマ教徒とは隔絶した力を感じる。追い詰められてなお余裕のある態度にも納得がいく。状況を打開する自信が奴にはあったのだ。
「では行きます。」
ヴァジュラマの言葉にこちらも構えをとった。
しかし、奴らは立ち向かってくることはなく、窓に殺到し、飛び降りた。
「あ。」
「逃げた…のか?」
「逃げんな!ふざけんな!手前らそれでもヴァジュラマ教徒か!?」
「はははは!残念ですが今回は逃げます!また今度遊びましょう!」
「っざけんな!」
奴らが窓から飛び出したと同時に全身を蝕んでいた痛みが消え、体が楽になる。
室内を見渡せば、物が散乱し、アスワン教徒もヴァジュラマ教徒も床に転がっている。
ヴァジュラマ教徒は口にするのがはばかられるような状態にされ、身動き取れなくされている。
こいつらだけでも十分情報は引き出せるかもしれない。しかし、主犯が最も多くの情報を持っているものだ。
俺は急ぎ、窓から飛び出し、ヴァジュラマ教徒を追った。
去り際に念のため、重要事項を告げておく。
「調度品壊したのはヴァジュラマ教徒だからな!そこんとこ間違えんなよ!」
教皇の執務室にある物は大体高級品だ。弁償させられてはかなわない。
教皇の執務室の現状を豚教皇が目にして咽びなく姿を想像し、一人ほくそ笑んだ。
「ヘイム殿大変です。生ける屍が追いかけてきます。しかも私の見間違いでなければ笑っています。」
「狂ってますね。神の名前を叫びながら自爆特攻するタイプでしょうか。」
窓から飛び降り、地面に着地した。逃げるヴァジュラマ教徒を視界に捉えた。何か言ってるが聞き取ることが出来ない。
ヴァジュラマ教徒の逃げる先は中庭の中心部。人と闇の眷属がごっちゃになって争っているところだ。
今では白蛇2匹の活躍により大幅に数を減らしているが、今なお争いは終わらない。
ヴァジュラマ教徒の主犯を追いかけながら視線をめぐらす。
部下共がいねえ。
ここには俺と少女剣士だけ先に白蛇に乗ってきた。白蛇の急制動に他の奴らは耐えられないからだ。
数名は安全圏でハクモの護衛をしているが、それ以外は急ぎあとを追う手はずになっていた。
味方は多ければ多いほどいい。数は力だ。部下がいれば眼前の主犯を挟み撃ちにできた可能性があった。
「おい!そいつが主犯だ!誰か捕らえるのを手伝え!」
一応助勢を大声で求めてみるが、皆それぞれの戦いに手いっぱいだ。助けは得られない。
「クソが!」
「ははは!残念ですね!このまま逃げ切らせてもらいますよ!」
ヴァジュラマ教徒の主犯はそういうと懐から豪奢な杖を取りだした。
こいつ黒剣以外にもこんな大層な装備を身に着けていたのか。
「マルコ!潮時です。撤退しますよ。」
主犯が叫ぶ。
その視線の先を追うと、黒剣を振りかぶった男がいた。剣の間合いには立つのもやっとといった風情の少女剣士がいる。
マジで首が飛ぶ5秒前だ。
俺はとっさの判断で運気上昇の加護を自身にかけ、メイス戒めを黒剣振りかぶる男に向けてぶん投げた。
この距離で狙い通りメイスを投げられるほどのコントロールを俺は持ち合わせていない。もしかしたら暴投して少女剣士に当ててしまう可能性がある。
しかし、放っておいてもどうせ死ぬ。
なら、わずかでも良い方向に進む行動を起こすべきだろう。
「神よ我に力を与えたまえ。」
『運気上昇』
「死ぃいいいねぇえええええええ!」
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