46:豊穣祭3日目③
タイトル変更しました。
聖堂内教皇の執務室に今俺はいる。
ハクモの白蛇に乗ってきたは良いが、その急制動に耐えられず、ぶん投げられてこんなところにダイナミックエントリーしてしまった。
そして直後に視界に入った醜い豚教皇。一瞬驚いたものの、すぐに状況を理解した。
教皇が人質に取られていると。
背後には聖騎士や聖務執行官が人質に取られた無能教皇のせいで動くに動けずにいる。
アスワン教にとってゆゆしき事態だ。
「教皇の命が惜しければ動かないでください。」
ヴァジュラマ教徒の一人が脅迫してくる。こいつが親玉だろうか。
「おい!貴様!私を助けろ!おい!聞いているのか!」
教皇の命乞いが聞こえる。
俺とて神官だ。憎い相手と言えど、誠心誠意助けを請われれば助けてやりたいと思わなくもない。是非とも前向きに検討したい。
しかし、状況はひっ迫している。
俺は悲痛な思いで叫んだ。
「教皇様は御身に構わず神敵を討てとおっしゃっている!教皇様の献身を無駄にするなぁ!」
「貴様ふざけるなよ!おい何を笑っている!」
しまった。内心が表に出ていたらしい。上がってしまった口角を下げて真顔を作る。
「邪悪なヴァジュラマ教徒共よ!覚悟しろ!」
それっぽい言葉を叫びながら、教皇を拘束するヴァジュラマ教徒にメイス「戒め」で殴り掛かる。俺に呼応して他の聖騎士や聖務執行官共も動き出す。
「まさか教皇を無視するとは。さすがの人望ですね。では仕方ありません。『苦しめ』」
ヴァジュラマ教徒の一人が言葉を発した瞬間激痛が走った。手足をもがれ、内臓をかき回されるような痛みだ。
他の奴らも同じなのか、聖騎士や聖務執行官が倒れこんでいる。
「ふふ。痛みで身動きが取れないでしょう。」
「舐ぁめぇるぅなああああああ!」
痛みに一瞬よろけたものの、悲しいことに慣れている。
「痛ぇええええなああクソがぁああああ!」
痛みに絶叫しながらメイス「戒め」を振りかぶる。そして教皇を人質にとる邪悪な異教徒共に向かって走り寄る。
「ぎゃああ!痛がりながら迫ってくるぅうう!なんですかこいつは!なんですかこいつは!」
「はっ!もしやフランシスコ・ピサロでは?」
「生ける屍の!?しかし左遷されたはずでは…。」
ヴァジュラマ教徒共がなんか言ってるが、痛みで集中できず聞き取れない。
余計なことは考えず、仕事を遂行しなければならない。
「くらええええ!教皇のかたきぃいいい!」
「死んどらんわ!やめろ!その軌道は私に当たる!お前!私は大事な人質だろう!しっかり守らんか!」
「やめなさい!アスワン教の教皇ともあろう者が異教徒に縋りつくとは。ええい、しがみ付くな!」
自身の身が危なくなれば異教徒にも縋る。実に人間らしいがアスワンの教義的には完全にアウトだ。
教皇に許される行為ではない。
丁度いい。教皇もヴァジュラマ教徒も、まとめて神に代わっておしおきだ。聖務執行官の本懐といえる。
「ぎゃっ!」
教皇の悲鳴が上がる。
俺の打撃が当たったわけではない。しがみ付かれていたヴァジュラマ教徒が突き飛ばしたのだ。ヴァジュラマ教徒はそのまま回避行動をとり、俺の渾身の一撃は空を切った。
畜生。
悪運の強い教皇だ。
ヴァジュラマ教徒も教皇を盾にしてくれればいいものを。
そうすれば教皇ごとヴァジュラマ教徒を殴ることが出来た。
もしくはその場で教皇を殺してくれてもよかった。俺の打撃の速度ならそのわずかな隙でヴァジュラマ教徒を殺れた。
あの瞬間、ヴァジュラマ教徒の身の安全だけを考えるなら、教皇を突き飛ばすことが唯一の正解だっただろう。
「くっ、教皇は可能なら殺してしまいたかったのですが…。まさかこうも躊躇しないとは。」
「ぶつぶつうるせえ!死ねっ!」
「くっ、なんと狂暴な!」
俺は痛みに悶えながらメイスを振るい続ける。どうにかしてこの痛みの術を解かなければならない。
同時に教皇が再度人質に取られないよう、他のヴァジュラマ教徒をけん制する必要もある。
「てめえら!早く立ち直って教皇を連れていけ!」
そこらに転がるだらしねえ聖務執行官や聖騎士を怒鳴りつける。痛みで口調が荒くなる。
怒鳴りつけた奴らではなく、後から入ってきた聖騎士が教皇を確保し、連れだしていった。
「フランシスコ貴様!こんな目に合わせおって!許さんからな!覚えておれ!」
教皇が逆恨みを吐いている。
何言ってんだ。今お前が生きてんのは俺のおかげだろ。俺こそ救世主だろ。
「このフランシスコ・ピサロが教皇様を救いだした!教皇様は錯乱しておられるが御身にもはや危険はない。憂いは絶った!アスワン教徒よ!今こそ神敵を討ち滅ぼす時だ!」
連行されていく教皇を横目で見送りながら、一応誤解されないよう、自身の手柄を主張しておく。
本当は教皇には死んでほしかったが、ここには人目がありすぎる。教皇救出の手柄を上げただけ良しとしよう。
後は、こいつらを拘束して情報を吐かせれば任務完了だ。
未だに痛みは体を蝕んでいる。
しかし、足手まとい教皇という心労が場から消えただけ良しとしよう。
俺は無理やり笑みを浮かべ、この場に集結したアスワン教徒に号令をかける。
「異教徒共を拘束しろ!殺すな!情報を引き出す必要がある!」
「おや?ずいぶんと優しいのですね。」
ヴァジュラマ教徒が俺の言葉に意外そうに軽口をたたく。
優しいのは当然だ。
俺達は大陸に覇を唱えるアスワン教。命を奪うなどと、そんな不道徳なことはしない。
俺は息継ぎをして指示の続きを口にした。
「生きてさえいれば構わない。手足を捥いで行動不能にしろ!大丈夫俺達には治癒の神聖術がある。やりすぎるくらいでちょうどいい!」
余裕の表情で軽口をたたいていたヴァジュラマ教徒は表情をこわばらせた。
「恐ろしい人です。あなた、ヴァジュラマ教徒の素質がありますよ。今からでもいかがですか。」
人前でめったなことを言うんじゃねえ。下手をすれば異端の嫌疑をかけられてしまう。疑惑の種に過ぎないが、俺には疑われるだけの土壌がある。
俺は身の潔白を証明するため、ヴァジュラマ教徒に向かってメイス「戒め」を叩きつけた。
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