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45:豊穣祭3日目②

タイトル変更しました。

 一方そのころ中庭では


 ヘイム達が新アスワン大聖堂へと侵入した直後。


 アスワン教劣勢の状況にあったが、ヴァジュラマ教徒の数名がヘイムについていったこと。そしてアスワン教会で最高戦力の一人、白騎士と呼ばれる聖騎士が戦闘に加わったことで再度膠着状態に陥っていた。


 白騎士は護衛をしていた枢機卿の避難が完了したため、戦闘に参加できるようになった。


 白騎士はその象徴である白い剣と盾を持ち、たちはだかる闇の眷属や黒剣振るうヴァジュラマ教徒を鎧袖一触で蹴散らし、最も被害を生む元凶たるマルコへと切りかかった。


 頭一つ抜けた戦闘力を誇るマルコ。マルコを自由にすればアスワン教徒の被害が増え続ける。白騎士が食い止めなければならなかった。


 他のアスワン教徒も白騎士の意図を察し、ヴァジュラマ教徒や闇の眷属を抑え込み何とかマルコと白騎士の一体一の構図を成立させた。


「白騎士か。」


「マルコ・ハーゲン!貴様裏切ったのか!」


「雇い主が変わっただけだ。」


 マルコも剣士である。以前はアスワン教の依頼を受け任務を遂行したこともある。白騎士とは共に戦場を駆け、背中を預けたことさえある。ゆえにその実力の高さも知っている。


「お前のような強者と戦う機会を得られたのだ。やはり俺の選択は正しかったようだ。」


「ぬかせ!」


 白騎士は義憤に燃え、振るう剣には強い光と熱が宿る。


「不義の報いを受けよ。」


 恩寵による超常の力を内包した斬撃を殺意と共に白騎士は放った。


『白閃』


 視界を覆うほどに白く輝く力の奔流がマルコに迫る。数多の異端を屠ってきた必殺の一撃だ。


「この程度か残念だ。」


「何っ!?」


 しかしマルコは『白閃』を黒剣で受け流し、白騎士の懐に潜り込んでいた。


「がはっ!?」


 マルコは白騎士のがら空きの胴体を切りつけた。致命傷を負わせたはずだったが、さすが白騎士というべきか、身のこなしによって致命傷には至らなかった。


「さすがに仕留めきれんか。」


 しかし、そこから白騎士の動きは精彩を欠き、マルコの一方的な展開となった。


 盾は吹き飛び、純白の白衣は血に塗れた。満身創痍だ。


 そしてついに白騎士は膝をついた。


「ぐっ、くそっ!」


「お前はよくやったがここまでだ。」


 黒剣が振り下ろされ白騎士に迫る。


 刀身が白騎士の首にかかろうかという時、強烈な擦過音と共に中庭に巨大な白蛇が2体、突撃してきた。


「我、参上ぉおおお!」


「なにっ!?」


 同時にヴィクトリアが飛来してきた。白蛇の頭部にフランシスコと共に乗ってきたのだが、その急制動で二人とも投げ出されたのだ。


 白蛇はそのまま闇の眷属と戦い始めた。


 ヴィクトリアは天性の身のこなしで体勢を立て直し、投げ出された勢いを利用して白騎士とマルコの間に割って入った。


 突然の出来事にマルコといえど一瞬の隙が出来る。その隙に剣気を纏った剣で白騎士に迫る黒剣をはじいた。


「師範代マルコ・ハーゲン!相手にとって不足なし!未来の剣王である我が相手だ!」


「誰かと思えばヴィクトリアか。面白い巡りあわせだ。稽古をつけてやろう。」


「舐めるな!」


 絶好の見せ場にドヤ顔さらして口上を宣ったヴィクトリアだったが、数撃も打ち合わぬうちに追い詰められてしまった。技の冴えも身体能力もどちらもヴィクトリアはマルコに及ばない。


「ぎゃー!わーっ!ちょっとそこの白い人!我を援護して!じゃないとすぐ死ぬ!」


「あ、ああ。すまない。任せろ。」


 感謝の言葉を伝える間もなく、白騎士は体勢を立て直し、少女剣士の援護を行う。


 二人がかりでマルコを相手にしてなおやや劣勢だが、すぐに敗北するというほどの状況でもない。白騎士によるところが大きいが、ヴィクトリアの実力も以前より向上している。聖騎士や聖務執行官に比肩する実力はあり、きちんと戦力になっていた。


「筋は悪くないが、剣気を身に纏えていないな。にもかかわらず剣に纏えるとは奇妙な。」


「人と違うことを才能というんだ!それに、師範代を見てたら剣気の纏い方もわかってきた。」


「ならば試してみるがいい。それが吉と出るか凶と出るかはわからんがな。」


「わかってるよ!白い人!数秒だけ時間を稼いで!そうすれば我が何とかするから!」


 白騎士は自身より若く未熟な少女剣士の指示に従うべきか迷ったが、いずれにせよ今のままではジリ貧だ。ヴィクトリアは未熟だが、不思議と期待したくなる何かがあった。一瞬の迷いの後ヴィクトリアの指示に従うことにした。


「何とかしよう。」


 万全とは程遠い状態でマルコ相手に剣を交わす。それでは白騎士と言えど長くはもたない。


 白騎士は剣の鞘に忍ばせていた丸薬を取りだし、服用する。


 すると頬が紅潮し、瞳孔が開いた。


 疲労感と痛みが消え、気分は高揚し全能感に包まれる。


 一般には禁止されている違法薬物だ。神官は神聖術により解毒は可能なため許可されてはいる。しかし、なぜか解毒してなお薬に依存する人間が一定数現れるため奨励されてはいない。


 しかし、危機的状況においては一時的とはいえ、疲労と痛みを神聖術の使用なく取り払ってくれる心強いドーピングアイテムとなる。聖騎士や聖務執行官は万が一のために携帯している者が多い。


 神聖術も無限に使用できるわけではない。他の方法で代用できるなら代用した方がいい。今のような危機においては特に。


 白騎士は薬をキメたことにより、動きにキレが戻った。


「覚せい剤によるブーストか。長くは持たんぞ。」


「承知の上だ。」


 力を取り戻した白騎士だったが忘れてはいけないのは、全力で戦ってなお白騎士はマルコに敵わなかったということだ。


 最初よりも短い時間で白騎士は追い詰められていく。


 マルコはすでに白騎士の動きを見切っていた。だが、反対に白騎士はいまだマルコの動きに対応しきれていない。


 その差は如実に表れていく。


「くっ!まだか!?」


「お待たせ。」


 追い詰められた白騎士の言葉にヴィクトリアは応えた。


 ヴィクトリアは瞬時にマルコに肉薄し、今までにない速度で鋭い斬撃を放った。


 音もなく走った剣閃は、浅いものの、確かにマルコの利き腕を切り裂いた。


「ぐっ、お前っ、剣気を……。」


 ヴィクトリアは剣気を身に纏うことに成功した。身体能力が今までの比にならぬほどに強化される。


「我だって成長してるんだ。ここからだよ。」


 ヴィクトリアは笑みを浮かべて言った。



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