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44:豊穣祭3日目

タイトルと内容がズレてきたのでタイトルを変更しました。

旧題は「宣教師、左遷先で布教する」です。

 豊穣祭三日目の昼時。


 豊穣祭期間中最も人口密度の高い場所は新・アスワン大聖堂の中庭だ。


 普段は閉鎖されている中庭だが祭りの期間に限っては一日中開放されている。そして豪華な料理が無料で提供され続けている。


 人々はその料理を求めて押し寄せてくる。


 結果、非常に広い中庭であるにも関わらず人口密度は高くなっている。一歩足を踏み入れれば人込みに流されるのみ。まともに歩くのは困難だ。


 新アスワン大聖堂内にある教皇の執務室はちょうど中庭を見下ろせる位置にある。


 そんな人でごった返した中庭を高みから腐敗王と名高い教皇、マクスウェル1世がワイン片手に見下ろしている。


 正に人がごみのよう。砂糖に群がる蟻のごとし。


 教皇になってよかったと思う瞬間だ。ごった返す大衆を高みから優雅に見下ろす時、自身が特別な存在であるかのように感じられる。


 教皇が上機嫌にワインを口に運んだ時だった。唐突に中庭にまばゆく発光する六芒星の陣が浮かび上がった。そしてすぐに目も眩むほどの光量となった。


 「目がぁ、目がぁ」と教皇が呻いていたのも数秒で、すぐに視界を取り戻した。


 異常の元である中庭を見下ろす、すでにまばゆい光は失われている。


 信じがたいことに、今まで密集していた中庭の人々が忽然と消えていた。一人もいなくなっていた。消失していた。


 幻覚かとしばらく教皇は中庭を凝視していたが、人込みが中庭に戻ってくることはない。


 落ち着く間もなく空白地帯となった空間に黒ずくめの一団が走りこんできた。


 神官とは思えぬ装いに教皇は嫌な予感を覚える。


 黒づくめの集団は中庭の中心部で足を止め、そのうちの一人が口を開いた。


 「我々はヴァジュラマの使徒である。雌伏の時を経て、我々は新たな力を授かった。安寧を良しとする愚鈍の豚どもは覚悟せよ!この世に混乱と戦乱をもたらそう!」


 それは若い男の声だった。教皇には知るよしもないが、苦痛のヘイムと呼ばれる高位のヴァジュラマ教徒だ。その声は大した声量でないにも関わらず、比較的距離のある教皇の耳にも明瞭に聞こえた。


 代償術を使用した結果だ。その声は新アスワン大聖堂だけにとどまらず、ロマリア中に響き渡った。


「本日は手始めにこの新アスワン大聖堂を制圧して見せよう!」


『根源たるヴァジュラマよ!数多の生贄を代価に!我らにその眷属を遣わせたまえ!』


 ヴァジュラマ教徒たちが口々に祈りを捧げると、夥しい数の闇の眷属がヴァジュラマ教徒の周囲に召喚された。


 キマイラ、バフォメット、コカトリスにガーゴイル等々。


 いずれも生贄を要する上級の闇の眷属だ。しかし、召喚を行ったヴァジュラマ教徒に命を落とす様子はない。


 命を落とさないにしてもこれほどの数だ。目に見える消耗があってしかるべきと思うがその様子は見受けられない。


 今までなかったことが立て続けに起こっている。そしてそれはアスワン教にとって明らかに良くない変化だ。


 この時点で教皇は恐慌をきたしていた。


 そして消失した人々の原因がヴァジュラマ教徒である可能性に思い至り、教皇はもはや半狂乱だ。


 恐怖におののきながらも中庭から視線を離せずにいると、やっとというべきか、中庭を囲む大聖堂から神官共が現れた。


 新アスワン大聖堂はアスワン教組織の中枢だ。多くの神官が大聖堂内にいる。その中には聖騎士や聖務執行官が含まれる。また、少数だが雇われた剣士もいる。その者達が異変を察知し中庭に駆け込んできたのだ。


 そしてヴァジュラマ教徒とアスワン教徒の戦闘が始まった。


 戦闘能力の高い聖務執行官と聖騎士。その中でも経験を積んだ精鋭が集まっているのが新アスワン大聖堂だ。当然そこで雇っている剣士の質も高い。


 マルコ・ハーゲンは剣士の中にあっても腕が立つと有名だ。そんな剣士が敵に回ってなお動揺が見受けられない。


 そんな聖騎士・聖務執行官・剣士であってもヘイムの痛みの代償術の前には無力だった。


『苦しめ』


 たった一言の聖句でヘイムの代償術は発動する。それにより前方を駆けていた聖騎士や聖務執行官、剣士が痛みに倒れこんだ。総勢10名。それがヘイムが同時に痛みを付与できる限界人数だ。


 倒れこんだ神官には闇の眷属が群がり命を絶つ。


 唐突な事態にも関わらず、アスワン教の神官と剣士に動揺はなかった。倒れこむ同僚を無視してヴァジュラマ教徒や闇の眷属に切りかかっていった。


 しかし、ヴァジュラマ教徒と闇の眷属はは強力でヘイムの力は厄介だった。次々にアスワン教勢力は倒れていく。どうにか数の暴力で劣勢にこそなっていないが、状況を打開することが出来ない。時間の経過とともに被害が拡大する一方だ。


 手詰まりとなったアスワン教徒たちは情報だけでも入手しようと、戦いながらも大声でヴァジュラマ教徒を問いただす。


「人々が消えたのは貴様らの仕業か。どうやって、どこへ連れ去った。」


 問いただした聖騎士も返答は正直期待していなかった。しかし、意外なことに返答があった。


「ええ、私たちの仕業です。方法は言えません。彼らは今頃迷宮の中ですよ。もしかしたらすでに神の身元へ召されているかもしれませんね。」


 聖騎士の問いにヘイムは答えた。しかし、ヘイムの回答に聖騎士は激高する。


「貴様ら!なんてことを!」


 迷宮と言えば闇の眷属が跋扈する危険地帯。もし本当に迷宮内に連れ去られたのであれば無事ではいられないだろう。連れ去られたのは無辜の民。聖騎士が守るべき対象だ。


「新たな神の使徒が顕現しているかもしれない。素晴らしいことです。」


 聖騎士の様子を意にかいする様子もなく、ヘイムは独り言ちる。


「やはり、力が強まったとはいえ、この数相手では押し切れませんね。あまり使いたくなかったのですが……。」


 ヘイムは仕方ないといった様子でヴァジュラマ教徒達に命じた。


「黒剣の使用を許可します。」


 ヘイムの言葉に呼応してヴァジュラマ教徒は腰に佩いた禍々しい黒い剣を取りだし、祈りを捧げた。


『偉大なるヴァジュラマよ!血を代価に!大いなる力を与えたまえ!』


 祈りにより黒い剣に脈動する赤紫色の線が産まれた。


 その黒い剣から邪悪な気配が感じられ、直感があれは危険なものだとささやく。


 そして実際、黒剣を使用したヴァジュラマ教徒は圧倒的に強化された。


 今まではヘイムやマルコの横やりが入らなければ一対一で互角だった。しかし、ヴァジュラマ教徒一人に対し3人で対応してやっと互角のあり様だ。


「なにっ!?ぐわぁあ!」


 ヘイムと問答していた聖騎士は、黒剣により盾ごと体を切り裂かれた。


 不思議と血はとび散らない。黒剣が血をすすっているのだ。


 拮抗していた情勢は一気にヴァジュラマ教徒優位に傾いた。




「そろそろですね。」


 ヴァジュラマ教徒がアスワン教徒を蹂躙していくのを確認し、ヘイムは計画を次のフェーズに移行することを決断する。


「マルコ。私は部下を連れて教皇の身柄を抑えに行きます。あなたはこの場で敵を引き付けていてください。」


「ああ。了解した。」


 マルコは剣気をその身に纏い、代償術による身体教化の加護を受け、そしてさらに黒剣を手にしている。


 黒剣はヴァジュラマ教徒でなくてもその力を発揮する。他者を殺めることで力を増す、預言者がもたらしたものの一つだ。


 音に聞こえたアスワンの聖騎士や聖務執行官。さらには剣気を纏い神聖術による加護を受けた剣士をもってしても、今のマルコにはかなわない。


 淡々とアスワン教徒を切り殺していくマルコを尻目に、ヘイムは新アスワン大聖堂の中へと侵入を果たした。




「おい!ヴァジュラマ教徒がこの大聖堂に侵入してきたぞ!大丈夫なのか!?おい!聖騎士をこの部屋に今すぐ集めろ!おい!聞いているのか!?」


「はっはい!呼んできます!」


 教皇に怒鳴りつけられた神官は血相を変え、慌てて執務室から出て行った


「くそっ!愚図が!教皇たる私になにかあったらどうするつもりだ。有象無象とは違うのだぞ。」


 執務室の外からバタバタと騒々しい音が響いてきて、教皇の不安を掻き立てる。


 中々護衛がやってこないことにいら立ち始めた時、執務室の扉が開いた。


「遅いぞ!なにをしていたんだ!」


 教皇は使いにやった神官が入ってきたのだと思い、怒声を上げた。しかし入ってきたのはヘイムを含めた黒づくめのヴァジュラマ教徒共だった。


「おや、熱烈な歓迎ですね。遅くなってしまい申し訳ございません。まさかお待たせしていたとは夢にも思わず。」


 薄笑いでそう宣うヘイムに教皇は動転して言葉を発することが出来ない。


「本当にこの男が教皇なのですか?」


「噂に違わぬ醜い姿。間違いない腐敗王マクスウェル1世ですよ。」


 ヘイムの侮辱に、荒い呼吸をすることしか出来ていなかった教皇が我を取り戻し、叫んだ。


「ぶっ無礼な!この私を誰だと思っている!神の代行者にして信仰の象徴!その私を愚弄するなど!グボっぁ!」


 口角泡を飛ばしてキレ散らかす教皇を、ヘイムの部下が殴って黙らせた。


「聞くに堪えませんね。あなたは人質です。大人しくしていてください。」


 聖堂内のすべての神官を倒すことが出来たわけではない。残った神官の行動を教皇を人質にとることで制限することが出来る。


 腐敗王と呼ばれマクスウェル1世だ。当然人望はない。


 しかし、それでも教皇である。本人の言う通りアスワン教の象徴だ。何かあればアスワン教全体の威信にかかわる。


 現にヘイム達ヴァジュラマ教徒を追ってきた神官達は、教皇が人質に取られているのを見て、手を出しあぐねている。


 ヘイムが勝利を確信し、代償術を用いてロマリア中に教皇を確保したことを宣伝しようとしたまさにその時、何者かかが中庭に面した窓を破壊し飛び込んできた。


「クソが!痛ぇええ!」


 フランシスコが飛び込んできた。


「きっ貴様は!?」


「げっ豚教皇!?」


「なんですか?あなたは?」


 三者三様に驚きの声を発した。




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