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41:祭り散策

 聖女に少女剣士とハクモの護衛同行について尋ねてみると、あっさり許可が下りた。


 聖女が祭りでにぎわう街をめぐり、俺達がその護衛を務めるのは豊穣祭の二日目だ。


 豊穣祭初日と最終日の夜が最も人でにぎわう。ゆえにヴァジュラマ教徒が事件を起こすなら初日か最終日の可能性が高いと考えている。


 初日に事件が起きれば、二日目は事件の対応に追われて、聖女も俺も街中を散策しているどころではなくなるし、そもそも豊穣祭中止の可能性もある。


 聖女の護衛任務はなくなる可能性もあるんじゃないかと思っていたが、杞憂だった。


 初日は何の問題もなく経過した。


 教皇と聖女がありがたい言葉と共に神への祈りを捧げ、豊穣祭が始まった。


 普段は部外者立ち入り禁止の新アスワン大聖堂の中庭を解放し、祭りの期間中ずっと豪華な食事を無料でふるまい続ける。


 結果、普段は神官、貴族、裕福な商人等富裕層しか足を踏み入れない場所に貧民共が押し寄せる。常とは違う野卑た熱気に包まれる。


 祭りの期間中は貧民層が教会の豪華な食料によって飢えと荒んだ精神を癒すからか、ロマリアの治安は常と比べて大幅によくなる。


 人は多いが聖女の護衛をするのに支障はない。


 そして豊穣祭二日目、聖女の護衛任務当日になった。


 待ち合わせ場所は新アスワン大聖堂の賑わいからは離れた商店街。それでも人通りは多いが、待ち合わせが出来る程度の隙間はある。


「フランシスコ待たせましたか。」


「いや時間通りだ。」


 聖女モネが専属の聖騎士を引き連れて待ち合わせ場所に到着した。俺達のところまで小走りで駆け寄ってくる。さすがにいつもの真っ白な聖女の装いはしていない。周囲に溶け込む地味な服装だが、元来の見た目の良さから目立ってしまっている。


 とはいえ聖女だと気づかれることはないだろう。聖女の特徴である背中に生える白銀の翼はゆったりとしたローブでうまく隠しているし、聖女の顔をしっかりと見たことがあり、記憶している人間など限られている。


「そちらのお二人には初めましてですね。教会で聖女の地位にありますモネ・ルノワールと申します。よろしくお願いします。」


「護衛を務めます。聖騎士のアイギスです。」


 聖騎士アイギスはそれだけ言うと少し後ろに下がった。会話に混ざるつもりはあまりないらしい。


「ハクモです。」


「あなたがフランシスコの養子ですか。話は伺っていますよ。」


「父がお世話になってます。」


「あら、出来た子ですねフランシスコ。」


「うるせえ。」


 奇妙な気恥ずかしさを覚えてそっぽを向く。


「我はハクモの姉、ヴィクトリア!はじめまして!」


「ハクモさんのお姉さん、ということはあなたもフランシスコの子ですか…。」


「我の父親は違うんだ。ハクモとも血はつながってない。」


「複雑なご家庭ですね…。」


 少女剣士の言葉にモネはわざとらしく口元を手で覆い、大袈裟に憐憫の表情を作る。


「おい不穏な会話すんな。わざとやってるだろ。」


「ふふふ、何のことでしょう?」


 少女剣士に悪気があるかどうかはわからんが、モネは面白がってあえて誤解を生む会話に誘導している節がある。苦言を呈するもモネはどこ吹く風だ。ニコニコと上機嫌に笑っている。


「お嬢様は今日したいこととか決めてるの?」


 俺がなにか言い返してやろうと思案している隙に少女剣士がモネに今日の予定を問いかける。モネの素性がばれないように、俺達はモネのことをお嬢様と呼ぶことになっている。


「特に決めていないですが、ぶらぶらと出店を周りたいですね。お祭りの雰囲気を味わいたいです。」


 モネの言葉に従い俺達は出店の並ぶ街道に向けて歩き出す。


「フランシスコ!見てください!豚の丸焼きです!あれ!あれが食べたいです!」


「お頭お頭!我も我も!」


 元より人通りは多かったが、歩を進めるにつれどんどんと人口密度は増していく。人口密度の上昇と共に街道の出店や催しはより人の目を引き付けるものになっていく。


 モネと少女剣士はあちらこちらに視線をやりながらはしゃいでいる。


「なんで俺に言うんだ。自分で買えばいいだろう!?」


「私、金貨しか持ってないんです。こんなもので払えば御釣りがとんでもないものになってしまいます。必ず返しますから!」


「むう、我は自分で払えるや。」


 モネは一応理由があって俺にねだっていたらしい。まあ、聖騎士アイギスに言えよと思わないでもないが、金を貸すくらい別にいいだろう。というかこのくらいの額なら別に奢ってもいい。ただ二人の言葉に反射的に突っかかってしまっただけだ。


 少女剣士は何も考えずモネの言動の真似をしただけのようだった。


 俺は黙って人数分の豚の丸焼きの切り身を購入しそれぞれに配った。


「フランシスコは口では文句を言いながらなんだかんで言うことを聞いてくれます。」


「お頭チョロいからね!」


「おい。いらんこと言うならその豚返せ!」


「ダメだよ!この肉はもう我のものだ!ほら!もう食べました!返せませーん!だから拳を固めてにじり寄ってこないで!」






「フランシスコ!白桃の蜂蜜漬けがあります!なんという僥倖!神の福音!これは運命です!フランシスコあれ欲しい!欲しい!欲しい!」


「お頭お頭!力自慢大会だって!我出たい我も参加したい!女の身でありながら思い上がった屈強な男共を純粋な力でねじ伏せたい!だから加護!加護頂戴!」


 モネは食欲旺盛だし、少女剣士はイベントごとに食いつく傾向があった。


 そしてハクモと聖騎士は黙って少し後ろからついてくる。


 ハクモは目立つ白い長髪を帽子に隠している。


 はじめは人込みのなか、俺達からはぐれないよう必死だったが聖騎士アイギスがそれを見かねて手を差し出した。今では二人仲良く手をつないで歩いている。


 ハクモは物をねだってはこないため、俺たちそれぞれが購入したものをハクモに分け与えていた。ハクモはどうにも女性陣の庇護欲を刺激するようだった。剣士はもとより聖女モネも、さらには聖騎士アイギスまでもがハクモにかまおうとする様子が見られた。彼女たちから食料を渡され続け、口いっぱいに食料を頬張ったハクモの姿を何度も見た。


「フランシスコ。食べすぎました。苦しいです。」


「食べすぎなんだよ。休むか?」


「うーん。でもまだ食べたいものが…。」


「お前なあ…。」


 満腹中枢がいかれたように食べていたモネがついに根を上げた。さもありなん。しかし、それでもまだ食に未練がある様子。


 こんなのが聖女か、と俺が呆れていると少女剣士がぽつりとつぶやいた。


「お頭とお嬢様本当に仲良かったんだね。」


「どういう意味だ。」


 特別仲の良い行動をしたとも思えない。何か他意があるのかと聞き返す。


「そのままの意味だよ。なんでお頭とお嬢様って仲良いの。どうやって知り合ったの。」


「フランシスコが私を襲ったのが初めてでしたね。」


「お頭…。」


「いかがわしい言い方すんな。そいつの乗る馬車を襲ったんだ。強盗だよ。」


「結局犯罪だよ。お頭ガチの犯罪者だったよ。」


「犯罪者じゃねえ。聖女の駒…聖務執行官として働くことを条件に見逃されたからな。前科はない。司法取引という奴だ。」


「フランシスコ変な物言いはやめてください。私までヴィクトリアさんに変な目でみられてるじゃないですか。」


 少女剣士からジト目を向けられてモネが俺を責めてくるが無視をする。


「当時は飢饉で食料がなかった。当時10歳かそこらの孤児でスラム育ちの俺には他に選択肢がなかった。」


「えっ!お頭スラムの孤児だったの?むぅ。まあ、確かに同情の余地はあるかもだけど。」


「そうだ。俺は悪くない。社会が悪かったんだ。」


「うえー。同情する気が失せたよ。」


「ふふふ。いずれにせよ仕事で会う機会が多かったんですよ。フランシスコは私の守護神官でもありますし、だから仲が良いのです。」


「ふーん。そうなんだー。」


 少女剣士は口をもごもごさせて、何かを言おうとしていたようだが、言葉にできなかったのか、結局何も言わなかった。


 そして祭りの様子を見て回っていると少女剣士が立ち止まり、驚いた様子を見せた。


「どうした。」


 声をかけると、少女剣士は逡巡の後答えた。


「師範代がいる。」


「師範代?」


「うん。師範代。マルコ・ハーゲン。剣王候補って言われてる剣士の一人だよ。」





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