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40:豊穣祭に向けて


「お頭。やはりヴァジュラマ教徒に関するような情報は少ないっす。以前暴れた事件の話は偶に聞きますが、すべて既知のものっすね。」


「流通している商品に例年との差異はほとんど見受けられません。作物が少し増えている程度でしょうか。」


「そうか。」


 豊穣祭を目前にしている。人はますます増え、さらに活気づいている。


 しかし、肝心のヴァジュラマ教徒についての情報は集まっていない。


 野盗に襲われている商人を助けて恩を売る作戦はそれなりの成果をあげた。新大陸の品は高額で買い取ってもらうことが出来た。特にフン茶の評判が良かった。猿のうんこから作る例の茶だ。今度蛮族の地から例の猿と果物を取り寄せてロマノス大陸でも作成できないか試してみよう。


 金儲けという点のみで言えば成功と言えるだろう。


 しかし、任務達成に肝心の情報が不発だった。


 ヴァジュラマ教徒の情報を持ってはいるが、既知の情報ばかり。


 屋台での商売も金銭的利益を上げているが、情報面ではやはりイマイチだ。


「こんなんで大丈夫なんすか。ヴァジュラマ教徒が事件を起こすのを止められるんすか。」


「勘違いすんな。俺らの仕事はヴァジュラマ教徒が急に活発になったことと、迷宮出現数の増加の原因を調べることであって、奴らが暴れるのを止めることじゃない。」


「そういやそうでしたね。」


「ああ。むしろ暴れてもらった方が、下手人を特定できる分都合がいいまである。」


「我、お頭のそういうところ嫌いじゃないよ。」


「でもほんとに豊穣祭で行動を起こすんですかねぇ。」


 部下の発言に俺は手元の資料を見せる。部下共が集めた情報ではなく、俺が独自に調査したものだ。


「奴隷商共から購入した奴隷の販売履歴だ。需要の少ない子供や老人の販売数が増えている。」


「それが?」


「時期が丁度奴らが活発に活動するようになった時期と一致する。ついでに今も奴隷の販売数は増え続けている。奴らの代償術には供物を必要とするものが多い。闇の眷属の召喚なんかは典型だな。」


 代償術に使わずとも、奴隷を迷宮に放り込んで命を落とせば、迷宮を成長させることが出来る。


「奴隷がヴァジュラマ教徒の供物にされている可能性があるってことですかね。でも豊穣祭で奴らが行動する根拠にはならないんじゃないすか。」


「そうだな。だが、起こさないとも言えない。」


 他にも、農家では作物への食害が減り、商人を襲う狼等の害獣が減ったことが調査結果からわかっている。


 人間ほど質の良い供物ではないが、動物も十分供物足りうる。人をさらえば事件になるし、奴隷を購入するにも金がかかる。そうなれば供物を増やすために動物を狩るというのもおかしなことではない。


 部下共にはあくまで世間に出回る噂の調査のみを命じている。噂というのは起きた出来事しか噂にならない。食害が減った。襲われることが減ったということは人々の意識には昇らない。ゆえに部下共がこの情報を仕入れられなかったのは仕方ないことだ。


 推測でしかないが、これもヴァジュラマ教徒の仕業じゃないかと考えられる。


 ヴァジュラマ教徒は何らかの目的をもって力を蓄えている。そう推測できるだけの情報はある。楽観はできない。


 それに、ただでさえ騒乱を好むヴァジュラマ教徒。人が集まり、気が高揚する祭りは絶好の機会だ。やはり豊穣祭中に事を起こす可能性は高いだろう。


「いざことが起こった時に油断して、ヴァジュラマ教徒を取り逃がしたとなれば任務の達成が困難になる。気を引き締めろ。」


「ウィーっす」


「さて豊穣祭中についてだが―――」


 俺は部下共に豊穣祭期間中の行動の指示を出す。豊穣祭は1週間行われる。気の休まらない1週間になりそうだ。


 そして俺が指示を出し終わったとき、ふと部下が疑問を口にした。


「ところでお頭は豊穣祭の期間中どうするんですか。」


「……。」


「お頭?」


「……、聖女の御守だ。」


「うわっ!お頭だけデートですか!皆が働いている中デートですか!」


 邪推されると思ったからあえて言わなかったんだ。


 モネから正式に依頼があったのだ。豊穣祭、お忍びで出歩きたいから護衛するようにと。


 聖女であるモネには聖騎士一人と聖務執行官一人を守護神官として専属で任命する権利がある。


 左遷前、俺は守護神官に任命されていた。てっきり左遷によって任を解かれたものだと思っていたが、そんなことはないらしい。


 豊穣祭中の護衛については再三考え直すようモネを諫めたが聞き入れられることはなかった。


 そうなると、俺は従うしかない。


 人は皆平等と神は説いたらしいが、神を信望する教会はなぜか厳格な階層組織。階級の高い者の言うことは絶対。拒否権はない。


「デートじゃねえ。護衛だ。仕事だ。」


「え?お頭って聖女様と仲いいの?お頭が?」


 俺が有名人と知り合いなのがよほど意外なのか、少女剣士は唖然としている。


「別に普通だ。」


「いや、それが意外と仲良いんだよ嬢ちゃん。付き合いも長いらしいしな。」


「くそっ!なんでお頭ばっかり!俺も聖女様とデートしてぇ。」


 騒がしくなってきた。話の方向性もよろしくない。非常に鬱陶しい。


「とにかく、俺には聖女の護衛がある。新アスワン大聖堂からそんなに離れることはないし、すでにお前らへの指示だしも済んでいる。仮に聖女の護衛中にヴァジュラマ教徒が事を起こしたとしても、聖女は俺を事件への対応に充てる命令をするとのことだ。万が一のために聖騎士もついてくる。任務への影響は極小だ。心配するな。」


「そういうことを言ってんじゃないんすよ。というかそれならなおさら羨ましい!なんで聖騎士がいるのにお頭まで呼ばれるの!?」


「俺達も女の子と祭りを過ごしたいの!」


「うらやまじいよぉ」


 話を終えようとした発言だったが、俺の意に反して妙に部下共をヒートアップさせてしまった。しかし、部下共が紛糾している理由は実にくだらない。付き合いきれん。


「むう。我も一緒に行く!」


「なんでだよ。」


 唐突な少女剣士の申し出に素で疑問を口にした。


 なんでだよ。ついてくる意味ないだろ。


「我も祭り楽しみたい!」


 ああ。なるほど。得心がいった。


 こいつもまだ若い盛りだ。戦いに現を抜かすだけの戦闘狂だと思っていたが、一般的な娯楽に強い関心を示すのも無理はない。


 少女剣士には特段重要な仕事はないし、今までの経験上、護衛の仕事の邪魔になることもないだろう。別にいいか。


「聖女におまえを同行させていいか確認をとる。駄目なら諦めろよ。」


「ホント!?やったー。あとハクモも連れていきたい!」


「おい。仕事だからな。遊びじゃないからな。」



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