38:新たな任務と方針
「さてお前達、仕事と並行してやることがある。」
俺は部下共を見回しながら告げる。
「神聖な祭典、信者、そして俺達神官とくればやることは一つだ。」
「布教とか?」
少女剣士が首をかしげながら、推測するが違う。
「違う。もっと大切なことがある。」
俺は場にいる全員を見回し、大仰に言った。
「そうです。金儲けです。」
わかりきったことだが、大切なことだ。
「ヒューそれでこそお頭!罰あたりだぜ。」
「ああ。恐れを知らねえ。」
煽り立てる部下共と納得いってない表情で首をひねる少女剣士。そして何を考えているかわからないハクモ。
反応は様々だ。しかし、総じて否定的なニュアンスを感じる。だが金儲けは大切だ。
金があれば人を雇えるし、必要物資もそろえられる。
教会から給料や報酬をもらっているが、全く足りない。聖務執行官の任務は常に過酷だ。より多くの人を、より質の高い物資を用意出来ればそれだけ任務の成功率も自身の生存率も上がる。
金とは力だ。
神官だからと言って経済活動を忌避していては生き残れないし、寄付という人の善意に縋るだけの人間よりもいくらかは高尚だろうと思う。
自身の糧は自らの力で勝ち取らなければならないのだ。
幸い俺達には蛮族の地から持ち込んだ珍しい品々がある。大半を教会に献上しているがそれでもなお余りある。
こんな機会はめったにない。
祭で財布の紐が緩んだ馬鹿どもに高値で売りつけてやろう。
新たなアスワンの本拠地、新・アスワン大聖堂は最も栄える港湾都市、ロマリアにある。
年に一度行われる豊穣祭は各地で催されているが、その中で最も規模が大きいのが港湾都市ロマリアだ。
教会の本拠地があるのはもちろんだが、そもそもの人口が多い。教会の本拠地がロマリアに移動してくる前からロマリアの豊穣祭は規模が大きかった。
準備段階から多くの人が集まる。
人が集まれば富も集まり経済活動が活発化する。
しかしその一方で、集まった富を奪い取ろうと犯罪者たちも集まる。
「いいかお前ら。ロマリア目指してやってくる行商人どもを狙う。豊穣祭間近のこの時期は野盗にとっても稼ぎ時だ。必ず襲われる商人がいる。そこを助けて恩を売り、蛮族の珍品を見せて吹っ掛ける。」
俺は部下共に金策の具体例を伝える。
「わかった!お頭、どうせあれでしょ。商人がピンチになるまで待てとか言うんでしょ。」
見破った!とばかりに少女剣士が声を上げる。
「馬鹿か。そんな非人道的なことが出来るか。」
「え?」
「大体、商人どもだって馬鹿じゃない。必ず護衛を雇っている。待っていたら、俺達の活躍の場もなく、野党を撃退しちまう。だから、襲われたらさっさと介入して、無理やり恩を着せるんだよ。」
「言ってることは今でも十分非人道的っすよ。それにそんな恩の売り方でいいんすか。頼んでないと言われればそれまでですし、印象が悪くなる場合だって…。」
「問題ない。商人は見栄や世間体を大事にする。相手が誰であれ表面上感謝しないわけにはいかない。たとえ余計なお世話であってもだ。さらに世界に覇を唱えるアスワン教の司教様に助けられて嫌な顔が出来る奴なんていない。」
要は善意の押し売り、感謝のカツアゲだ。
こういう時権威は便利だ。仕事を円滑にしてくれる。
「それにだ、商人というのは珍しい状況を金貨に変えられないかと夢想してしまう生き物だ。司教と珍品の組み合わせは奴らの興味を引くだろうし、財布の紐も緩むはずだ。」
「そう都合よく襲われてる商人を見つけられますか。」
「ハクモの感覚拡張の恩寵で事前に野盗の居場所を突き止めてある。問題ない。本番もハクモが何とかしてくれる。」
「お頭、こういうとこ無駄に抜かりないっすね。」
「抜かりないか?ハクモちゃんに丸投げしてるだけでは?」
「というか年端もいかない子供をナチュラルに労働力扱いしてる辺りさすがお頭。」
何ぬるいこと言ってんだ。子供といえど働かずに生きていけるほど甘い世の中じゃない。
馬鹿な部下共に反論してやりたいが時間の無駄だ。話を先に進める。
「野盗の数が案外少なかった。野盗の数イコール恩を売れる商人の数だ。だから野盗共はしばらくはキャッチアンドリリースだ。捕縛時に拘束をわざと緩くすれば勝手に逃げてくれるだろ。」
「それは人としても教義的にも駄目では?」
「商人とは金のためなら信仰心すら売り払う不埒者共だ。多少の不義を働いても神はお許しくださるだろう。」
「いや、お頭も金のために不義を働こうとしてるんですが。それはいいんすか。」
「さて、仕事にかかるぞ。」
「うわ、あの人都合が悪くなって無視したぞ。」
「お頭そういうとこあるよな。」
うるせえな。俺は今まで教会の利益に貢献してきたからセーフなんだよ。
「そういえば、左遷先からの品を人に見せていいんすか。箝口令が布かれてるんすよね?」
「言うなとは言われたが、関連する品々を見せたり売ったりしてはいけないとは言われていない。」
「うわっ。まあ、お頭ならそう言うと思ってましたが。」
「違う。左遷先由来の品を見せることまで許容されないならマカロフは必ずそう言っている。誤解の余地なく指示を出す。奴はそういう男だ。奴が口にしなかったということは人に売ってもいいということだ。当然仕入先は言うなよ。」
「「「うぃーっす。」」」
当然他にも金策は用意している。普通に屋台を開くだけでも利益が出るだろう。それが祭りというものだ。
出店代が高額だが、神官なら免除される。ボロイ商売だ。教会が腐敗しててよかった。
マカロフからの仕事は、地道な聞き込みを行うことになる。商人相手の金儲けでもそれとなく話を聞いていく。
他にもハクモの聖務執行官見習いの試験などやることが多い。一つずつこなしていかなければならない。
ブックマークもしくは評価を頂けると励みになります。




