31:まぁた宴だよ。
俺達が今いるこの未開の地には娯楽が非常に少ない。
本土の娯楽といえば演劇、サーカス、本、絵画、コロッセオ、公開処刑等様々あったが、ここには何一つない。
本土であれば人の行き来があるから市場などで目新しいものを目にすることが出来、新鮮味がある。それが娯楽の代わりになることもある。
しかしここにはハン族しかいない。人の行き来などあるはずがないしそもそも市場もない。
最も目新しいのは渡来人たる俺達だが、いい加減飽きてきただろう。
一年を通して温暖な気候で食料に困ることはない。自然災害も起きにくい。
よく言えば安定していて平穏。悪く言えば退屈な日々の繰り返しがハン族の日常だ。
ゆえに事あるごとに宴会を開く。火を熾し酒を呑み騒ぐ。
そして今日もまた、迷宮の破壊と歪の森の浄化を名目に宴が始まりましたとさ。
実にしんどい。ハン族との友好のために可能な限り笑顔でいなければならない。
俺は極まった治癒の神聖術のせいか、酒にほとんど酔わない。ほんの少し気分が高揚するかしないかといった感じだ。
それもあり、宴会をとても退屈に感じる。
宴会が始まってすぐならば相手も素面だ。有意義な時間を過ごせることもある。しかし相手に酒が回ってくると地獄のはじまりだ。
呂律は回っていないし、同じ話は繰り返すし、息は臭い。
人は酒を呑むと馬鹿になるし、馬鹿の相手は疲れる。
「お頭ぁ~!見て見て!あいつらにもらった!」
手を振りながらご機嫌にお馬鹿筆頭、少女剣士が近寄ってきた。
こいつは酒を呑んでいない。しかし、酔っ払いと同列に馬鹿だ。証拠に妙な装備品を身に着け御満悦だ。
少女の示す先は彼女の胸元。そこには白骨化した人の頭蓋骨。複数の頭蓋骨が紐で括られ、胸元で揺れている。
「髑髏!髑髏!」
キャッキャと笑いながら見せつけてくる。
狂気の沙汰だ。
もらった相手は少女剣士に懸想する見習い戦士共のようだ。視線を向けるとビクつき落ち着きなくそわそわし始める。
まだあきらめていないのかあいつら。
少女剣士が万が一結婚したいなどと言い始めたら困る。釘をさす意味で見習い戦士共を睨みつけておいた。
しかし、好きな相手への贈り物として頭蓋骨の首輪は最低の選択だろう。
今回に限っては少女剣士は喜んでいるようだし、いいのかもしれないが。蛮族共の感覚も少女剣士の感覚もよくわからん。
「何してんだ。」
「はい、お揃い!」
俺が黙っていると少女剣士は何を考えたのか、頭蓋骨の首輪を俺にかけてきた。まさか、二つもあるのか。
「教会から取ってきた!」
教会の横にはハン族共の遺体を焼いた骨がうずたかく積みあがっている。そこなら頭蓋骨の一つや二つ簡単に調達できる。わざわざ俺用に少女剣士が作ったのか。
ちなみに築いた骸の山の天辺には信仰の証、十字架が突き刺さっている。
実に趣味が悪いが、何を隠そう俺の指示だ。
ほら、神聖美幼女が『数多の屍の上に信仰の御旗を突き立てろ。』とか言うから……。
念のためにね。
さてこの髑髏の首飾り。首にかけるのを許してしまったが、神官が身に着ける物としてかなりふさわしくない。
「馬鹿か。早く取り外……。」
『ふはははは。なんだフランシスコ。似合っているではないか!』
俺が少女剣士に文句を言おうとしたところ、メルギドに遮られた。メルギドは面白いものを見たと言わんばかりに笑っている。
『これもつけて見ろ。ハハ族の骨面だ。』
そう言いメルギドはどこからかハハ族が頭にかぶっていた獣の頭蓋骨を渡してきた。なんで持ってんだ。これを被れと?
メルギドは笑っているが悪意は感じられない。こいつらの美意識は蛮族のそれだ。頭蓋骨を本気でかっこいいアクセサリーと思っている可能性がある。
ハン族の戦士共の視線もある。大戦士と呼ばれ、尊敬を集めているメルギドの言葉を無下には出来ない。
部下共が遠巻きにニヤニヤとこちらを見ている。腹立たしい。
しかし、まあ獣の頭蓋骨を被ることくらいどうってこない。
俺はゆっくりと厳かに、まるで王冠をいただくように獣の頭蓋骨を被った。
「「「おーまじかっ!」」」
『『『おーまじかっ!』』』
部下共とハン族の男どもから同様の言葉が聞こえるが、その意味するところは違った。
部下共は俺がハハ族の骨面を被ったことへの驚きと、面白いものを見たというからかいの言葉だ。
しかしハン族どもはというと真逆だった。
『マジか。あれやっていいの?敵部族のだろ。』
『フランシスコがやってんだからいいんだろ。』
『俺、実はあれ前からかっこいいと思ってたんだよ。』
『俺も俺も。』
『ちょっと俺、骨面とってくるわ。』
そういい、ハハ族の骨面を取りに戻り、戻ってきた時には皆頭部に骨面を装備していた。
首に人間の頭蓋骨を垂らしてる奴もいる。
どうやらお気に召したらしい。
「うーん。お頭!我思うんだけど、その骨面、神官服とは合わないよ。服脱ごう!」
やかましい。
敵部族の骨面を被り高揚したハン族の男共は、やがて火を囲み踊りはじめた。
絵面だけなら完全に闇の儀式。黒ミサやサバトと言われるものだ。本土なら間違いなく異端として裁かれる。
恐ろしいことに、俺は今メルギドと長老の手によりそこに参加させられようとしている。
『フランシスコ。お前も参加してくれ。奴らに強き者と踊る栄誉を与えてやってくれ。』
『ワシからも頼む。皆喜ぶだろう。』
ぐぬぬ。
メルギドや長老から勧められ、仕方なく神官服を脱ぎ上裸になる。やはり、骨面に神官服は似合わないらしい。
そりゃそうだ。
頭部にはハハ族の骨面。肩には毛皮のマント。胸には髑髏の首飾り。
どこからどう見ても立派な蛮族。神官の唯一の面影は下半身に着用した神官用の服のみだ。
「うわああ!お頭すごい!すごい似合う!強そう!」
『フランシスコ。まさか……。背信者?』
「違う。やめろ。」
黄色い声を上げはしゃぐ少女剣士。反対に不穏なことを言うハクモ。
この装いはあくまで蛮族共と交流を深め、なお一層教えを浸透しやすくするためだ。
蛮族の装いで踊るのは屈辱的だがこれも任務のうち。俺の蛮族装束を馬鹿にしていた部下共は、いつの間にか蛮族装束で蛮族共に紛れて踊っている。俺だけやらないというわけにはいかない。
俺は踊り狂う蛮族の輪へと足を踏み出した。
火が燃え上がり、煙がもくもくと闇夜を照らす月に向かって伸びていく。
今夜は満月だ。雲一つなく、明るい。夜とはいえ遠くからでもこの煙を目にすることが出来るだろう。
俺は一通り踊り、休憩のため火の囲いを抜けた。
騒ぎの中心からそれた集落の端に向かう。
視界の端で丈の長い草が揺れた。
珍しいことじゃない。周囲が森の集落だ。動物くらいいる。
なんとなしに視線を向けているとそいつは姿を現した。
なんとそいつは神官服を身にまとっていた。
部下ではない。
そいつは俺に視線を合わせると目を見開き叫んだ。
「いっ、異端者だ!」
ブックマークもしくは評価を頂けると励みになります。




