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28:童貞のための恋愛指南

「おいおいおい!手ぇ握られて微笑まれちまったぜ!これもう実質性行為だろ。」


「やったな。お前もついに童貞卒業か。寂しくなるな。」


「へへ。よせよ。俺が童貞を卒業しても俺達の友情は永遠さ。」


 婚活パーティーが開催されてから数日が経った。パーティーは概ね好評で、今なお男女の交流を深めている者達も多くいた。


 部下共は皆朗らかに、童貞もそうでない者も、彼らの明るい未来を信じて語り合っている。


 その顔はだらしなく頬が緩み思慮のかけらも感じられない。


 会話からは浮かれた様子がありありと感じられる。


 何が良くないって諫める者がいないことだ。皆経験則で浮かれた童貞に何を言っても聞き入れられないことを知っている。


 放置するならまだしも、なんなら煽る奴らがいる。


 調子に乗った童貞は通常では考えられない言動をする。


 傍目に見ている分には面白いので、誰も彼もが浮かれポンチキをヨイショする。祭り上げる。肯定して背中を押す。


 他人の不幸は蜜の味。


 地獄の綱渡りをする童貞が、足を踏み外す瞬間を今か今かと笑いをこらえて待っている。


 性格の悪いことだ。


「お頭~助けてください。」


「どうした?」


 などと考えていると、浮かれた童貞がまた一人。俺の下まで来て相談を持ち掛けてきた。


「おい!馬鹿!お頭に聞いてどうすんだ!」


「助言役に一番向いていない人だぞ!」


「ダメだ。浮かれポンチキになってんだ。正常な判断が出来ていない。」


 なにやら遠方で部下共が騒いでいるのが聞こえる。


 失礼な発言をしている奴らを処す前に、眼前の部下が相談内容を口にした。


「好きな子ができたんですけどうまく話せないんです。」


「……、お前いくつだったか。」


「は?27ですけど?それがどうしたんすか。」


 他の部下共が止めるのもうなづける。


 上司になんて程度の低い恋愛相談をするんだ。しかも俺はこいつよりも年下だ。恥ずかしくはないのだろうか。


 だいたいこんな相談が許されるのはせめて10代までだろう。皆個々人で折り合いをつけて慣れていくんじゃないのか。


 しかし今はハン族との婚姻を強く勧めている最中だ。


 変な失敗をされると今後に響く。俺は相談に乗ってやることにした。


「いや、すまん。そうだな。年齢なんて関係ないな。それでどうしたらうまく話せるかだったな。」


「はい。彼女を前にするとあまりの神聖さに緊張してしまって。」


「なるほど。」


 俺は一つ間を置くと、男女のいろはについて教えてやった。


「女なんてのは皆馬鹿だ。」


「いや、何ですか。メルガちゃんは馬鹿じゃないっすよ。」


 こいつの好きなやつはメルガというらしい。


「落ち着け。よく考えろ。まず男は皆馬鹿だろ。」


「はい。救いようがないです。」


 即答である。


 本当にな。27歳で幼児みたいな恋愛相談してくる男がいるくらいだ。


「そうだろう。そうだろう。ということは同じ人間であるところの女も馬鹿に決まっている。」


「な、なるほど。確かに。」


「お前の大好きなメルガちゃんも女だ。つまりそいつも馬鹿だ。緊張する必要はない。」


 証明完了。初歩的な三段論法だ。


「女は本能的に自分より優れた男を求める。だから優れた男を演出しなければならない。モテない男は好きな女を神聖視して余裕がなくなる。余裕のない男が優れているように見えるか?相手を馬鹿だと思って意識下で自分より下においておけば、緊張せずに余裕が持てる。自身を優れているかのように演出する第一歩になるだろう。」


「おぉ。目から鱗っす。」


 俺の完璧なアドバイスに感心しているようだが、この程度のアドバイスでこいつの童貞根性を矯正できるとも思えない。


 ここはひとつ現実を教えてやろう。


「まあよく聞け。哀れで惨めな高齢童貞たるお前にはわからないだろうが、女なんてそんないいものじゃないぞ。」


「哀れで惨めな高齢童貞ってまさか俺のことじゃないですよね。」


 顔を真っ赤にして震えている部下を無視して話を続ける。


「女なんていいものじゃない。どうせお前あれだろ。女の裸に幻想抱いてるタイプだろ。知ってるか?女の乳首は綺麗なピンクじゃない。」


「え、うそ。」


「本当だ。いてもごく僅かだろうな。大体考えてもみろ。本当に綺麗ならなぜ隠す。男の股間を想像しろ。実に醜いだろう。女もそうだ。醜いから隠しているんだよ。」


「な、なるほど。」


 部下は感じ入ったようでしきりにうなずいている。


 女ばかりをこき下ろしてしまい心が痛む。


 本当は男女問わず皆等しく醜悪だというのに。


 だが、恋にうつつを抜かして女を神聖視しているこいつに余裕を持たせるにはこのくらい女を悪し様に言う必要を感じた。


 これでハン族との融和が進むといいが……。のんきな顔したこの部下を見ているとひどく不安になる。


「こんなにいろんなこと知ってるなんて、お頭はさぞ経験豊富なんでしょうね。」


 何やら誤解をしている様子の部下に告げる。


「いや、童貞だが?」


 なぜか空気が凍り付いた。


「え?」


「いやだから童貞だって。童貞。ど・う・て・いっ!」


「連呼しないでくださいよ!今までのは何だったんですか!」


「異教徒共さあ、なぜか大乱交ホールブラザーズが好きみたいで、奴らのアジトに突入すると高確率で大人数の行為パーティに遭遇するんだよ。暗闇の中ならまあ気にならんが、光を当てるとなんか汚え感じになるんだこれが。」


「なんで光当てちゃうんですか。」


「暗闇で戦闘はあぶないだろうが。」


 黙り込む部下に、相談の結論を伝える。


「まあ、自信をもって余裕を醸せ。そうすればなんとかなる。経験はないが理屈は間違っていないはずだ。」


「……、はい。」


 胡乱な視線を向けてくるが何が不満なんだ。


「そういやお頭なんで童貞なんすか。金・権力・名声を兼ね備えているのに。」


「理由はいろいろあるが、強いて言えば機会がなかった。」


「……、そっすか。」


 俺くらい若くて強くてお金持ちの男ともなると欲の皮の突っ張った女共に引っ張りだこだ。卒業する機会なんてたくさんある。


 しかし、後が怖い。ゆえに戦略的撤退をしてきた。


 せっかく守ってきた純潔だ。今更生半可な女で卒業などできない。


 俺の童貞はその知性の現れであり誇りといっていい。少なくても恥ずべきことじゃない。


 お前らの安い童貞とは違うんです。


 だからそんな目で俺を見るんじゃない!


 俺は顔を真っ赤にして憤った。




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