26:ハクモの戦後
今は戦争終結翌日の晩、人々は勝利と酒に酔いしれている。
そんな中、ハクモはハン族の集落内に設置されている臨時教会にいた。
ハクモはハハ族との戦争の功労者の一人だ。なんせ最もハハ族を殺した人間だ。ハハ族最後の生き残りとはいえ、宴では称えられた。しかし、その後ハン族で声をかけてくる人間はいなかった。遠巻きにされた。
蠢く白髪を持つ幼女。そんな異様な見た目であり、敵部族の生き残り。強い力を持ち一族を裏切り滅ぼした張本人といえる。敵部族を滅ぼしてくれたとはいえ、味方を裏切るような人間であり、しかも力がある。下手に刺激しないでおこうと考えるのはそうおかしな思考ではない。
フランシスコの部下や少女剣士が常に話しかけていたから特に退屈はしなかったが、ハン族からの視線はあまり気分のいいものではなかった。
夜が深まるにつれ、子供は寝る時間だと臨時教会に返された。教会が本来のホームだが距離が遠すぎる。
フランシスコの部下が時間交替で万が一に備えて警備をしてくれている。
仮眠室の寝床に入るも、ハクモにはまだすべきことがある。
フランシスコの会話の盗聴だ。
宴会場からはそこそこ距離があり、わずかなざわめきしか本来なら聞こえない。しかしハクモの感覚拡張の恩寵はそれを可能にする。
ハクモの長い白髪がうようよ蠢き空中に展開する。雑多な話声の中からフランシスコの言葉を拾いあげるのは困難だったが、不可能ではなかった。
何故フランシスコの会話を盗聴するかといえば怖いからだ。
既にハハ族は滅ぼした。
ならばハクモの、自身の利用価値がなくなってしまったのではないか。自身の扱いはどうなるのか。それが心配だった。
確かにハクモは白蛇を調伏し、力を得た。感覚拡張という便利な恩寵も備えている。
しかしそのハクモの能力が、ハハ族亡き今無用の長物と化した可能性がある。むしろ却って危険とみなされる可能性すらある。フランシスコに敵対された場合ハクモが生きていくのは非常に困難だ。
フランシスコの部下が現在ハクモの身を案じて臨時教会の警備をしているのはフランシスコの指示だ。ゆえに、自身は仲間として保護対象として見られているとは思う。
しかし、ハクモは今まで母親以外に味方がいなかった。父も部族の者も皆ハクモが生贄として死ぬことを望んでいた。他者を信用できないのは仕方のないことだった。
仮にフランシスコがハクモに害をなそうと企んでいるとして、それをハクモが知ったとして、出来ることほとんどないだろう。今より大きな不安に苛まれるだけだ。それはハクモもなんとなくわかっている。
ハクモはフランシスコがハクモに対する害意のある発言がないことを確認して安心したいのだ。
そのような理由で気張って盗聴していたが、大した話はしていなかった。
そしてヴィクトリアの縁談についての話が始まった。
フランシスコの結婚に対する考えにはなるほどと理解できるところがあった。
フランシスコが結婚の禄でもなさを語った時、ハクモは亡き母のことを思い出していた。
母は死ぬ思いでハクモを生んだにも関わらず、それを生贄に捧げることを強要され、それを拒否すれば夫と喧嘩になり暴力すら振るわれていた。最終的には部族中からごみなどを投げつけられ、凄惨な死を迎えた。
結婚してしまったばっかりに…。
いつも極端で、どこかうさん臭いことばかり言う人間。それがフランシスコのイメージだった。しかし結婚観に関していえばハクモには思い当たることが多かった。
ハハ族では結婚するしないを決める権利はハクモにはなかった。族長にそれを決める権限があった。ハン族でも同じようだし、フランシスコの会話を盗聴した限り、ヴィクトリアの結婚についての裁量はフランシスコが握っているように思われる。
ハクモはフランシスコの指示に従うという約束をしている。将来フランシスコに誰かの妻になるよう命じられた場合従わなければならない。
それはとても恐ろしいことのように思われた。
『結婚怖い』
結果的にフランシスコからハクモに対する悪意ある発言はなかった。しかし、結婚に対する恐怖が芽生え、未来に対する別の不安に苛まれることになった。
「ハクモー!一緒に寝よう!わっ!髪の毛が広がってる!」
ハクモはフランシスコの盗聴を続けていたが、ヴィクトリアの乱入で諦めた。
不安からヴィクトリアにしがみ付く。
「わっ!ど、どうしたの?うへっへへ。」
ハクモにしがみ付かれ、だらしなく表情を綻ばせるヴィクトリア。
そのまま二人は寝たのだが……。
『婚期がぁ~。婚期がせまってくるぅ。結婚はやだぁ。』
その晩、ハクモは結婚の悪夢にうなされた。
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