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25:ヴィクトリアの縁談・続


『フランシスコさん!ヴィクトリアを僕にください。』


『いや、俺に!』


『馬鹿!おれだ。』


 見習い戦士や未婚の戦士共が唐突に俺に告げてきた。


 メルギドにはすでに少女剣士への求婚は拒否する旨伝えてあるはずなんだが…。


 メルギドに視線をやるとメルギドは罰が悪そうに説明した。


『奴らには既にお前の意思は伝えてある。ヴィクトリアとの結婚は認められないと。だが、どうしても諦めきれないらしくてな。こうして直談判する運びとなった。若者にはままあることだ。許せ。』


 今は宴会の最中だ。酒と祭りの高揚が若さを暴走させているのだろう。


 それでもちゃんと制御してくれよ。大戦士様の称号は何のためにあるんだ。若者にはままあることだじゃねえ。


 と憤ってはみたものの、俺も少女剣士を制御できているかと問われれば疑問がある。


 人のことは言えない。


 それにメルギドには少女剣士の訓練に付き合ってもらったり、大男との決闘に横やりを入れたりと少女剣士関係で迷惑をかけている。


 お互い様だった。


 俺は軽くため息をついてからメルギドに問いかけた。


「結婚は認めん。こいつらはどうしたら納得する。」


『意見が対立した場合、ハン族では決闘で決着をつける。敗者は勝者に従う。』


 蛮族らしい野蛮な決め方だがわかりやすくていい。


 どう考えても見習い戦士と未婚戦士がこの俺に戦闘で叶うはずがない。


 いいだろう。やってやろう。


「わかった。ヴィクトリアの求婚をかけてお前らと戦えばいいんだな。」


 見習い戦士と未婚の戦士共は決死の表情でうなづいた。


 こうして少女剣士の同意なしに、少女剣士の結婚を賭けた決闘が行われることとなった。


 わざわざ少女剣士の同意はとらない。少女剣士に求婚相手がいることを伝えて色気づかないとも限らないからだ。


 少女剣士は結婚に後ろ向き。


 その大義名分さえあれば、少女剣士にあとでバレたとしても関係悪化を最小限にできる。


「お前達、まさか本気で俺に敵うと思っていないよな。お前達の強い思いに免じてチャンスをやる。まとめてかかってこい。」


 決闘とやらに時間をかければかけるほど少女剣士にバレる可能性が上がる。


 大人数で乱闘していれば少女剣士が「なにしてんの。我も混ぜて」とからんでくるのは間違いない。その時、誰かが少女剣士の縁談について話してしまう可能性がある。少女剣士が不快に思う可能性はそう高くないと踏んでいるが、バレないに越したことはない。


 さてとっとと終わらせよう。俺ならこいつらをまとめてワンパンで蹴散らせる。


「お頭何やってんすか。」


 部下が声をかけてきた。


 ここは宴会場の端、人はあまりいないがだんだんと人が集まってきてしまっている。


「ヴィクトリアの結婚を阻止している。」


「本当に何してんすか……。」


「本人にこのことを知られたくない。手伝え。」


「嬢ちゃんもう臨時教会に戻りましたよ。ハクモちゃんと同衾するそうです。」


「そうか。好都合だ。」


 少女剣士がもうこの場にいないなら作戦変更だ。


 この色ボケ共に二度とこんな面倒な真似しないよう後悔させてやる。


 俺はいつでも戦えるがなにやら未婚の戦士共がもめている。


『いくら相手がフランシスコとはいえ、戦士が大人数で一人を相手にするなど…。』


 なんか面倒なこと言ってらぁ。


 少女剣士がすでにこの場にいないとしても、一人一人相手するのは時間の無駄だ。ごめんこうむりたい。


 そんな思いを乗せてメルギドに視線を向けると俺の思いを汲んでくれたのか、頷き、ごねる未婚戦士を説得し始めた。


『お前の心持は立派だが、餓狼やトゥレントと相対する時も同じことを言うのか。』


『?いや、そんなことは…。』


『フランシスコは餓狼やトゥレントみたいなものだ。普通の人ではない。ゆえに大人数で囲んで叩いても恥ではない。』


『なるほど。確かに。』


 話終えるとメルギドは一仕事終えたとばかりにこちらに視線を送ってきた。


 いや、まあ確かに目的は達成されているが、こいつ俺のことを闇の眷属に例えたか?普通の人ではないと言ったか?未婚の戦士共もなるほどじゃないんだよなあ。


 不満は色々あるが、この憤りは目の前の求婚者達で発散しよう。


 丁度準備ができたようだしな。


『これよりヴィクトリアとの縁談をかけて決闘を行う。敗者は勝者の要求に従うこと。武器の使用は禁止とする。』


 メルギドが場を仕切る。


『フランシスコにとどめを刺した者にヴィクトリアと結婚する権利が与えられるということでいいのか。』


 未婚戦士の質問に俺が答える。


「違う。誰がとどめを刺したとか関係ない。お前達が勝利したなら、お前達自身でヴィクトリアに求婚しろ。結婚相手を選ぶのはヴィクトリアだ。俺は邪魔をしない。」


『なっ、それではお前に勝利したとしても…。』


「そうだな結婚できるとは限らない。だが安心しろ。お前達は俺に勝てない。」


 求婚者共は不快気に眉根を寄せた。


『求婚を完全に拒否されている現状よりはましだ。受け入れろ。フランシスコは確認することはあるか。』


 俺の煽りで色めき立つ求婚者共をメルギドが諫めてくれた。


「俺が勝ったらヴィクトリアのことは潔く諦めろ。あとアスワン教の勉強をしてくれ。」


『いいだろう。』


『よし、いいな。では決闘を始める。戦闘不能になった者から敗北とする。』


『始め!』


 十数人の求婚者共が開始と同時、祖霊術を行使し、雄たけびを上げて殴り掛かってきた。


 実に勇敢なことである。常日頃から鍛えているだけあっていい動きだ。


 だがそれでも俺にはかなわない。


 俺もまた神聖術による各種加護で身体能力をブーストさせた。


 神よ我に力を与えたまえ。





「オラオラオラオラ!」


『クソ!もうやめてくれ!』


『おい!あいつもう白目をむいてるぞ!』


『ぎゃーこっち来たぁああ』


 俺は見習い戦士の一人を武器替わりに振り回していた。


 暴れる俺に軟弱な求婚者共は悲鳴をあげて逃げ回っている。


 ところどころ戦闘不能に陥った哀れな屍共が倒れ伏している。もちろん死んではいない。


「お頭!彼、死んじゃいますよ!」


 部下から注意を受けた。俺が武器替わり使っている奴はいたるところにいたるところを何度もたたきつけられて、虫の息だ。


 だが大丈夫。


「何のために神聖術があると思ってやがる!この程度、死ぬ前に治癒できる! 」


「ひゅー!さすが俺達のお頭だ!」


「圧倒的にバーサーカー!」


「破壊の権化!」


 酔った部下共がはやし立ててくる。普段なら腹を立てているところだが、今俺は機嫌がいい。久々になんの憂いもなく体を動かしているからか、はたまた一仕事終えた爽快感からか。


 部下の期待に応えてやろうという気になった。


「よっしゃお前ら見ておけ!人間二刀流だ!」


 そう言いすぐに新たな獲物を捕まえた。


『いやだぁー。いやだぁー!誰か助けっ…』


「甘えたこと言ってんじゃねえ!古来より女をものにするのは命がけなんだ!戦争なんだよ!自然界だってそうだ!メスをめぐってオス同士で殺し合いをする!命があるだけありがたいと思え!」


 新たに捕らえた見習い戦士を振り回しながら、俺は自身の正当性を主張する。


「だいたいお前らは武器の扱いがなってねえ!これで武器の気持ちが少しはわかるだろうよ!」


 先に振り回していた見習い戦士を、遠巻きに警戒している求婚者共に向けてぶん投げる。


 慌てて避ける奴らに突撃を駆けながら叫んだ。


「おらぁ!日和ってんじゃねえ!かかってこいやぁ!」



 なんやかんやで決闘は俺の勝利で終了した。


 当然だ。


 気づけば宴会場の端っこで行っていたこの決闘に、多くの人が集まり観戦していた。


 力こそ至高とするこの蛮族共に俺達の決闘は需要があったようで盛況だ。


 少女剣士の縁談を潰せてハン族からの人気も高まった。。


 勝者権限で負かした求婚者共にはアスワン教の説法も許可されているから一石二鳥どころか一石三鳥だ。


 万事順調。笑いが止まらない。まったく良い宴会だ。


 上機嫌のままに傍にいたメルギドに以前より考えていた提案を告げる。


「ところでヴィクトリアの結婚は無理だが、お前達の女衆とうちの部下たちの誰かを結婚させるのはどうだ。」


 俺の部下は皆神官でありアスワン教徒だ。ハン族の女との間にできた子供にはアスワン式洗脳を施す。すると敬虔な信徒が出来上がる。これを繰り返せばそのうちこの地はアスワン教徒に満ちることになるだろう。


 打算的で結婚を神聖な儀式ととらえる者からすれば噴飯ものかもしれないが、任務の方が大事だ。


 結婚するのは俺じゃなくて部下共だしな。実質ノーリスクだ。


『構わんが、お前もどうだ。お前なら一族でも選りすぐりをあてがうが…。』


「ははは。すまんな。俺は結構だ。」


 にべもなく断った。


 大した接点のない、しかも蛮族との結婚などごめんだ。


 俺は結婚は好きな人同士がするもんだと思うよ。うん。


 とりあえず部下共に結婚を強要するのはやめようと思った。


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