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24:ヴィクトリアの縁談?


『ヴィクトリアを我らが一族の者と結婚させるつもりはないか。』


「……。」


 俺が目を白黒させて黙っているとメルギドが説明を始めた。


 ハン族では強い女は強い子を産むとしてモテるとのこと。そして今回の戦争で少女剣士はその強さを示した。どうやら未婚の戦士や戦士見習いから求婚が殺到しているらしい。


 ハン族で結婚相手を決めるのはメルギドや族長だ。メルギドはハン族の文化にのっとり、もっとも渡来人で決定権を持っていそうな俺に少女剣士の結婚について相談にきたようだ。


 唐突な申し出に俺は即答できず、回答を先延ばしすることとした。


 俺はとりあえず話を聞こうと少女剣士を探していた。探しながら考える。


 まず常識的に考えて、少女剣士の結婚は認められない。なぜなら妊娠されると俺の労働力が減るからだ。


 神の教え、産めよ増やせよに背いていると思われるかもしれないが、布教の任務のためだ仕方ない。


 聖務執行官はこうした信仰の矛盾に苦しむことがある。あちらをたてればこちらが立たずというのは宗教のみならず実生活でも散見される。結局は優先度の高いほうを優先し他は切り捨てるしかない。


 ここまではいい。


 しかし、問題は少女剣士にすでに意中の相手がいた場合だ。男女の仲になっていた場合だ。


 十代の恋愛なんて流行病みたいなもんだ。熱しやすく冷めやすい。一時の熱に身をゆだね、子を生し、家庭を築いて数年後、冷静になってこんなはずじゃなかったと悔いる者達を俺は何人も見てきた。


 人生の先達として止めてやるべきだろう。


 しかし、色恋というものは人から正常な判断能力を奪う。俺がいくら理屈を説いても、恋に身を焦がす者達に届くことはない。それがたとえどんな理知的な人間であってもだ。


 結婚なんて禄なもんじゃないんだから友人なら殴ってでも止めるべきだ。


 そう言っていた俺の友人A。


 当時俺は感銘をうけたものだ。


 しかし翌月にはあろうことか恋の病を発症し、プロポーズってどうしたらいいと思う?と相談してきた。


 友情を試されていると思い、グーで殴ってやったが喧嘩になった。結局奴の結婚を止めることはできなかったわけだが……。あいつは今、幸せにしているだろうか。


 話が逸れたが、勝手に結婚を断ったことが知れたら逆恨みされる恐れがある。少女剣士に話を聞き、今後の対策を立てなければならない。


「お前結婚する気ある?」


 少女剣士を見つけたので単刀直入に聞く。


「え?今のところないけど。」


「そうか。じゃあ好きな奴とかいるか?」


「いないけど…。」


 よし。こいつに意中の相手がいるかもしれないというのは俺の思い過ごしだったようだ。これで心置きなくこいつの縁談をつぶせる。


「なに?お頭我と結婚したいの?」


「は?」


「金、権力、力……。うん。お頭なら結婚してもいいよ。」


 不穏な言葉を発し、とち狂ったことを言い始める少女剣士。


「でも子供は我が剣王になるまで待ってほしい。」


「違う。俺はお前に求婚していない。」


 少女剣士にもわかるようにはっきりと伝える。


「そうなの?」


「ああ。」


「でもさっきの口説き文句みたいだったよ。」


「……。」


 結婚願望および意中の相手はいるのかと異性に尋ねる行為は、なるほど、確かに口説き文句みたいだったかもしれない。


「すまん。」


 俺は素直に謝罪した。


 俺、もっと肉感的でセックスアピール過剰な女が好きなんだ。


「なんか失礼なこと考えてない?」


「いや?」


「むう。」


 しばらくそうして頬を膨らませ不満を表現していたが、やがて気を取り直して聞いてきた。


「で、なんでそんなこと聞いてきたの?」


 本当のことを伝えていいものだろうか。結婚というのはデリケートな問題だ。結婚する気がなかったとしても、結婚されると困るんだよね。みたいな圧を受けたらどうだろう。かなり不快だ。


 ごまかそう。


「ちょっと気になっただけだ。」


「なにそれ。でも結婚はしばらく先にしたい。我本土に残っていたら危うく嫁がされるとこだったし。だからお頭についてきたみたいなとこある。」


 少女剣士はあまり結婚に前向きではないらしい。俺にとっては都合がいい。


 念押ししておこう。


「そうだな。結婚なんてろくなもんじゃない。子を産むのは死ぬほど痛いらしいし、下手すると母体は死ぬ。運よく母子共に健康でもその先は苦労の連続だ。本能のままに動く子供をあやしながら、大した稼ぎもない旦那の食事を作る生活が待っている。しかも子供が立派に育つ保証もなければ旦那が稼ぎ続ける保証もない。想像してみろ。子供はパラサイトシングルで定職にもつかず、仕事がないのは世間のせいとぶー垂れる毎日。旦那はギャンブル狂いの甲斐性なし。しまいには借金こさえて蒸発だ。まったく楽しい人生だぜ。」


「お頭すごい早口……。」


「何変なこと教えてるんですか。嬢ちゃん、お頭が言ってるのはほんの一面であって全てではないというか……。」


 近くにいた部下が苦言を呈してきた。


 一面ではあるのか。


「じゃあお前結婚しろよ。丁度誰かハン族の奴と婚姻を結んでほしいと思っていたんだ。」


 少女剣士と違い、男なら結婚し子を作ろうと妊娠して働けなくなることもない。ハン族と神官の間にできた子には当然アスワン教式洗脳を施して立派な信徒になってもらう。そうして融和していけばやがてこの地はアスワンの教えに満ちるって寸法だ。


「俺、既婚者ですけど。」


「あのなぁ…」


 俺はやれやれとあきれた表情で言ってやる。


「現地妻って知ってるか?」


「最低だよこの神官!」


 さすがに冗談だ。独身の部下は何人もいる。わざわざ既婚者に重婚させる意味もない。


 あとで婚活パーティでも開催するか。


 なにはともあれ少女剣士が結婚に後ろ向きであることは確認した。


 メルギドに堂々とノーを突き付けよう。











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