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23:戦争終結翌日

 敵部族を滅ぼした翌日朝。


 目が覚めた。


 寝起きは最悪。


 神聖美幼女のせいだ。


 前回のように恩寵を授かった感じはない。


 褒美とやらは本当に先送りとなったようだ。くそったれ。


 今度はハン族の教化の使命が下された。


 教会からの使命とも一致するからそれは構わない。


 しかしあいつまぁた期限切らなかったよ。


 仕事出来るの?


 無能なんじゃないの?


 神様。遣わすならもっと報連相のできる使徒にしてください。


 仕事を振るなら納期はしっかり教えてくれよ。


 勝手に期限なしと解釈してのんびりやるからな!


 実際のところ、本当にハン族教化の期限を決められていたら相当困っていた。


 布教なんてのは時間がかかる。長い目で見てもらう必要がある。


 それがわかっていて期限を切らなかったのかもしれないが、そうならそうと言ってほしい。指示があいまいだと部下は不安になる。


 後になって、実は期限は明日ですとか言われそうで怖いんだ。


 あの傲慢で威圧的な神聖美幼女のことだ。「ちゃんと期限伝えたぞ!」と堂々と事実を改竄してくる可能性すらある。


 どうかそれだけは勘弁してください。


 俺はそう神に祈りを捧げた。





 教会の本堂に行くと既に数人の部下と少女剣士は起き出しており、各々勝手に過ごしていた。そして俺を見つけるや否や走り寄ってきた少女剣士から驚きの報告を受けた。


「え?お前があの大男、殺ったの?」


「うん!すごいでしょ!我の手にかかればこんなもんよっ!」


「お前ハクモの親の仇じゃん……。」


「……。」


 少女剣士が俺の言葉に黙り込む。


「お頭、デリカシー」


 窘めてくる部下。


 確かに大金星を挙げた功労者に対する発言としては不適切だったかもしれない。


 ハクモは父親に愛着は無いようであったし問題ないだろうが。一応フォローしておこう。


「あー。まあ大丈夫だ。父親なんてのは娘からしたらゴキブリみたいなもんだ。死んで清々することはあっても恨むことはないだろう。」


「ほんと?」


「お前父親が殺されたらどう思う?」


「横取りされたって思う。」


 どうやら少女剣士は実父をその手にかけたいようだ。


 予想通りの回答ではないが誤差の範囲内だ。


「まあ、普通は自らの手で殺したいとは思っていない。だが、死んでもかまわないくらいには思っている。きっとハクモも気にしないはずだ。多分。」


「そうだよね!父親なんてそんなもんだよね!我知ってた!」


 推測に推測を重ねた偏見だらけの慰めだが、少女剣士は納得した様子。悩みが晴れたとばかりにニコパと笑顔だ。


 汗水たらして労働し、育てた娘の父親に対する思いがこれである。こいつの父親が特別毒親の可能性もあるが、世の父親が不憫でならない。


「なんにせよ、あの大男を殺ったのは大金星だ。よくやった。」


「うんっ!」





 その日の晩に戦勝祝いに宴会が行われた。


 中心には大きな櫓が組まれ勢いよく炎が燃え周囲を照らしている。


 火の回りで踊る者もいれば、さらにその周りでヤジを飛ばす者、腰を下ろして酒を呑む者等様々だが皆一様に表情が明るい。


 最も大きな戦功をあげた少女剣士はハン族の者達からえらくちやほやされ上機嫌だ。


 小さな男の子が顔を赤くして少女剣士に話しかけた。


『あの!姐さん!』


『ん?』


『とても強いって聞いて!それで大きくなったら結婚してください。』


 ハン族の者達は子供のほのかな恋心に温かいまなざしを向けている。


『ごめん。無理!』


 なんの気遣いもなく、無慈悲に断る少女剣士。


 幼い少年は顔を凍り付かせている。


「痛い!お頭!なんで殴るの!」


「馬鹿か!もう少し気を使え!関係が悪くなると困るだろうが。」


 納得いかない表情をしている。


 少女剣士に振られた少年は苦笑いを浮かべた母親にどこかに連れていかれた。


「というかお前子供好きじゃなかったのか?」


「我は女の子が好きなの!男の子はなんか不潔で汚いじゃん。」


 まあ、それはわかる。


 だが俺に言わせれば人間なんて老若男女問わず汚い。


 信じられるか?あいつら腹にうんこ詰まってるんだぜ。


「お前同性愛者なの?」


 俺は問うた。


 少女剣士が同性愛者だと少し困ったことになる。


 他人の性癖なんざ個人的にはまるで興味ないが、宗教上あまり同性愛は推奨できない。


 産めよ増やせよと神は言った。


 直接同性愛を禁じてはいないが、間接的に禁じていると主張する者は多い。


 同性愛を容認すると子が産まれない。神の御意思に反しているということらしい。


 現在は落ち着いているが、以前は異端者扱いされ処刑された者もいたほどだ。


 聖務執行官のお仲間が同性愛者というのはいささか風聞が悪い。


「ん?我幼女が性的に好きなわけじゃないよ。なんていうか……、愛玩動物的な?」


「お、おう。そうか。」


 こいつのドライなところは理解しているつもりだが、唐突にくると驚く。


 まあ、同性愛者でないならよかった。周囲にバレやしないかと変な気を張らずに済む。


「まあ、でも幼女にエッチな悪戯をしてくれと頼まれれば我も吝かではないよ。」


 どうやら真性ではないが素質はおありのようだ。


「ロリコンは犯罪で病気だぞ。やめろ。」


「むう。お頭に言われたくないよ!」


 以前ロリコン疑惑で少女剣士に言われたことをそのまま返しただけなのだが、少女剣士は不服なようで頬を膨らませる。


 などと馬鹿なやり取りをしていると、メルギドから呼ばれた。


 ぶー垂れる少女剣士を置いてメルギドの下へ向かうとメルギドは微妙な表情をしていた。


「なんだ。」


 俺はメルギドに問いかけた。


 すると数瞬の間をおき、言いづらそうに口を開いた。


『ヴィクトリアを我らが一族の者と結婚させるつもりはないか。』


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