104:剣王編⑲
少し短いです。
白夜光による発光が止み、視界がクリアになった。
八首のヒュドラは根本が裂け、首は力なく地面に倒れ伏している。
少女剣士は滂沱の汗を流し、肩で荒い息をしている。白夜光を放った影響でひどく消耗しているのがわかる。
「やったか!?」
生き残りの剣士が期待のこもった叫びを上げる。
声を上げた剣士だけでなく誰もがそう思った。しかし…
「がっ、ひゅっ」
気づけば黒い光沢を帯びたものが剣士の胸を貫通していた。
それはヘイムの黒剣だった。黒剣の形状が変わっている。刀身に鱗のような文様が走り、幾重にも枝分かれして伸びていた。
巨大だったヒュドラは黒き粒子となって中空へと溶けていく。
「虎の子のヒュドラがやられるとは思いませんでした。ですが滅ぶ直前、咄嗟の判断でヒュドラの脊椎を黒剣に吸収することができました。」
枝分かれし伸縮自在に蠢く黒き刀身が剣士共を襲う。
そしてそれは俺たちをも襲う。
「あぶねえ!」
消耗して動けずにいた少女剣士をかばう。だがその代償に右肩を貫かれる。
「おっお頭ごめん」
「大したことねえ!すぐ治る!それより現状報告だ!戦えるか?戦えるよなあ!?」
現状少女剣士は俺たちの最大戦力だ。失うわけにはいかないが、同時に戦線離脱されると困る。少女剣士の適切な運用法を考えるための情報がほしい。
肩の負傷も大丈夫といってはみたものの、神聖術による自己治癒の限界もすぐそこだ。右肩の負傷はすぐにふさがったが、すでに頭痛が始まっている。
「白夜光をもう一回打つ自信はないよ。加護は切れたし奥義も限界が近い!でもまだ戦えるよ!」
少女剣士の加護が切れていたため、モネが加護を再度与えた。
だが、その隙にヘイムの代償術が乱発され、殆どの剣士が苦しみに体を硬直させ、急所を黒剣で貫かれた。
「ちっ、懐に入ってしまえばこっちのもんだろ!」
師範代が黒剣を避けると同時、奥義と加護の力をもってヘイムの懐に入り込んだ。
黒剣は長く伸び、剣士達の肉に食い込んでいる。黒剣を手にしているものの、隙だらけに見えた。
「生ける屍さんよぉ!このヴァジュラマ教徒倒しても報酬が出ると思っていいんだよな!」
師範代はヘイムに斬りかかりながらそういった。俺が返答する間もない。
『黒雨氾濫』
「は?がはっ」
誰もが虚を突かれた。
それは紛れもない剣士の動き。ヘイムは言葉とともに瞬時に黒剣を収束させ、見事な体捌きで師範代の体に風穴を空けた。
師範代が血を吹き倒れ込む。
「マルコ師範代の剣技…」
少女剣士が呟いた。
「そうです。マルコは私の剣の師です。私はあまり才能はなかったですが、黒剣の補助があれば加護を受けた師範代にも通用するようです。」
「いつから…。即席にしてはものになりすぎている」
「マルコとは長い仲ですから」
元アスワン教徒にして、剣士の手ほどきをも受けている。珍しい経歴だ。
「気になりますか?」
「気になるな」
「では…」
ヘイムが昔話をしようとする素振りをみせた。
「だが断る!さっきも言ったろうが!ろくなことにならん!元アスワン教徒で師範代と知己だと!?どうせ同情誘うドラマがあるんだろうが!!四肢を潰してやるから語るならその後喋れ!」
「物騒な人ですね!ですがはいそうですかと素直に黙るとでも?こちとら四大魔の一人です!勝手に語らせていただきます!せいぜい耳を塞いで戦ってください!」
「あーあーあー聞こえなーい」
「ガキですか!?あなたは!?」
そして戦いは再開された。
ヘイムは戦いの傍ら、しっかりと、場の全員に聞こえる明瞭な声で昔話を始めた。
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