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正しいパーティー追放のされ方(追放した側)

作者: たてみん

「正しいパーティー追放のされ方」の続編になります。

https://ncode.syosetu.com/n8607gl/

まだ読まれていない方は、必ず先にこちらをお読みください。

そうじゃないと意味不明ですので。


ジークのその後を描いて連載化することも考えましたが、別の連載を描いてる途中ですので、短編という形で止めさせてもらいました。


そして物凄い名前間違いにツッコミを入れてくださった方、ありがとうございます。

冒険者ギルドの扉が閉まる。

それを呆然と見送るカイトと憤りを隠せないナンシー。


「あれ、マジで?」

「くっそ~。逃げられたわ!」


それを皮切りにギルド内の喧騒が戻って来た。

いや、むしろさっきより騒がしくなっている。

その原因もやはり、先ほどのやり取りのせいだった。


「おい、今のマジだよな」

「ああ。あの・・ジークがフリーになったって事だろ?」

「こうしちゃいられない。ジークさんが遠くに行く前に僕たちのパーティーに勧誘しないと」

「あんなに気丈に振る舞っちゃって、ジーク君かわいい!

ここは傷心のジーク君を癒すために私が一肌脱いじゃうよ♪

あ、むしろ脱がされちゃうかも~」


その場に居た幾つもの名の通ったパーティーが慌ててギルドを飛び出していく。

残ってるのは老舗のパーティーと『スラッシュ&ガード』のことを良く知らない新人達だった。

あとは『スラッシュ&ガード』の面々か。


「よし。じゃあこれで『スラッシュ&ガード』も解散だな」

「うん。そうだね。残念だけど。

ジークさんは本来もっと高みを目指せるはずだからね。

僕たちでこれ以上引き留めちゃ悪いよね」


椅子に座ったまま、グルンはつまらなさそうに、モーガンは寂しそうにそう言った。

彼らは別にジークに悪感情を持っていた訳ではなかった。

ただジークがパーティーを抜けることに反対はしなかっただけで。

そしてジークが居なくなったパーティーに彼らが居る理由もなかった。


「え、まってくれ。なんでそうなるんだ?」


事態がまだ飲み込めていないカイトはただただ呆然と振り回されていた。

彼にとってジークの取った行動も、グルン達の言葉も青天の霹靂だったのだろう。

そしてナンシーは一人で反発していた。


「ちょちょちょっと!わたしは解散する気なんてないわよ!」

「あ、そうなのか。なら二人で再出発頑張るんだな」

「だからどうしてあんた達まで抜けることが確定してるのよ!」


その言葉にグルンが深いため息をついた。


「はああぁ、お前さ。パーティー加入時の契約内容覚えてるか?」

「覚えてる訳ないじゃない。

あんな羊皮紙にぎっしり書かれた文章、誰が覚えるっていうのよ」

「ぎっしりって、たったの5行」

「しかもあいつ、学の無い俺の為にしっかりと1つ1つ読んで確認してくれてたな」


ちなみにその5行というのは

その1。クエスト中、ダンジョン探索中で無ければパーティーからの脱退は自由である。

その2。パーティーメンバーである限り、犯罪行為をしてはいけない。

その3。メンバーへの裏切り行為は厳禁。場合によっては報復を覚悟すること。

その4。メンバーの過去を詮索してはいけない。自分から語るのは自由。

その5。自分と仲間の為に、最善を尽くし努力すること。


どれも当たり前と言っても過言ではない内容ばかりだ。

だけどそれでもジークは一つ一つ念を押すように確認を行っていた。


「あの契約にはどんな意図があったんだろうな」

「うん。どれも冒険者なら暗黙の了解だよね」

「リーダーなら何か知ってるんじゃないのか?」

「ん、ああ。まあ居たんだよ。その暗黙の了解を分かってない奴が。

最初に俺達のパーティーに入ってきた奴だったんだけど、当時は俺達も若くて世間を分かって無かったからな。

揉めに揉めて、周囲の執り成しなんかも全然意味が無くて、最後は決闘することになったんだ」

「決闘って」

「また古風なものを持ち出してきたな」

「それだけ拗れたってことだ」


古き時代には貴族同士で行われていた決闘。

一時期、決闘ブームが起きて貴族の跡継ぎがバタバタ死んでいった為に慌てて時の王が禁止令を出した。

現在では禁止こそされていないものの、話し合いでの解決こそが美徳とされ、決闘は最後の最後の手段となった。

公式記録で貴族同士で決闘が行われたのはこの10年で1度だけだ。

その決闘をアレンジして取り入れたのが冒険者どうしの決闘だ。


「その決闘はどうなったの?」

「馬鹿だな。二人が変わらずパーティーを組んでたってことは勝ったんだろ?」

「まあな」

「決闘なら1対1だよね?どっちがやったの?」

「ジークだ。僕の方が相性が良いし、彼がパーティーに入るのに反対しなかった責任があるからって」


もう5年も前に行われた決闘は今でも語り草だ。

当時冒険者としては2年目の14歳の少年の盾士と、10年近く経験を積んだ30手前の黒魔導士。

周囲はそのあまりの無謀さにジークを引き留めた。

しかし、これ以上はもう時間がないと判断したジークはその黒魔導士ダーマウとの決闘に挑んだ。

時間がないというのはつまり、今夜にもダーマウが自分たちの暗殺に乗り出す可能性が高いということだった。


「盾士と黒魔導士って、おい」

「相性最悪じゃないか」


一切の遠距離攻撃手段を持たず速度もない盾士と遠距離攻撃魔法と状態異常を得意とする黒魔導士。

至近距離ならともかく、開始位置は5メートル離れた位置から。

誰もがジークが無残に殺されてしまう未来を予見していた。

しかし結果は真逆だった。


ダーマウが放つ魔法を次々と弾き、レジストし、まさに鉄壁の見本のように一歩一歩近づいていくジーク。

その表情は一切変わらず、冷たい眼差しのままあと1歩の距離まで来ていた。


『な、なんなんだよ、お前は!』

『3か月も一緒に活動してたのに、そんなことも知らないの?

誰かさんが毎度毎度敵もろとも僕に魔法を当てていたせいで、すっかり耐性とかが付いたよ』


その言葉に周囲の何人かから「あぁ」と声が漏れた。

当時、魔法を使う魔物なんて出ないはずのダンジョンから帰って来たジークがなぜか毎回のように魔法によるものと思われる傷を負っていたのを誰もが知っていた。

まさかその全てがフレンドリーファイアだとは思ってもみなかったが。


『くそっ。だが耐性だけでは決闘には勝てないだろう。所詮お前は盾士なんだからな!』


そう言って渾身の魔力を練り上げるダーマウ。

しかしその魔力が放たれることは無かった。


『さよなら』


ジークからの短い一言。

同時に半歩前に出る左足と、消える左腕。

熟練の冒険者の目をしても捉えきれない速度で繰り出された『シールドバッシュ』。

盾士の持つ数少ない攻撃スキルの一つ。

普通なら敵を吹き飛ばす程度の一撃。

しかしダーマウはその場に留まったままだった。

ただその頭部が消え去っていたが。


「あの1撃は今でも忘れられない」

「ストーンゴーレム程度なら粉砕出来るだろうな」

「私としてはあの目がヤバかったわ。今思い出してもゾクゾクきちゃうもの」


当時を思い出した人たちから感嘆の声が漏れる。

攻撃に疎いモーガンは隣にグルンに聞いてみた。


「グルンだったら、同じことできる?」

「スキル全開で溜めればな。速度重視のスキルじゃ無理だ。

はぁ。やっぱりあの野郎、爪隠してやがったか。

『僕が壁役やるから攻撃は任せるよ』とか言ってたくせに」

「ぼくはまぁそうなんだろうなって思ってたよ。

ジークさんがしんがりをしてくれたのは今回が初めてって訳でもないし。

その度に大けがを負いつつもたった一人で生還してきたんだもの」

「いや、盾士なんだし、それくらい出来て普通じゃ、ないのか?」

「「……」」


カイトのそのあり得ない一言に他のパーティーの特に盾士から殺気の篭った視線が突き刺さる。


「……無理に決まってんだろうが、くそが」

「出来て救援を期待して守りに徹するくらいだ」

「俺、最深層で置き去りにされて、万が一生還出来たら、パーティーメンバーを殴り飛ばすな」

「……あぁ。あいつには悪いことしたな」

「ベル……リーシャン……」


しんみりとした空気が流れる。

長年冒険者をやっていれば、どうしても仲間を見殺しにしなければいけないことがあったのだろう。

カイトにとってジークとは何があっても生きて帰ってきてくれる、そういう存在だったから気が付かなかったのだ。

他の冒険者からしたら涙が出る程、ありがたい存在なのに。

新人冒険者たちも先ほどジークを追って出ていった人たちの気持ちがようやく理解出来てきた。

しかし、それでもなお、分かっていない女が一人。


「あいつの話なんてどうでも良いわ。

それがどうしてパーティー解散なんて話になるのよ。

リーダーはカイトくんでしょ?

カイトくんさえ居れば何の問題もないし、盾士なんてまた募集すればいいのよ」

「……パーティー名」

「はぁ!?」


ナンシーの言葉にボソッとモーガンがつぶやいた。


「『スラッシュ&ガード』ってカイトさんとジークさんの事でしょ?

ならジークさんが抜けたらこの名前もおかしいよね」

「はんっ。それなら『スラッシュ&ファイヤー』で良いじゃない」

「あっそ。ならモーガン、もう行こうぜ」

「うん。さようならカイトさん」


そう言ってグルンとモーガンは、先ほどのジークのように席を立つと受付へと向かった。


「サリーさん。聞こえてた通りだ。

俺とモーガンもパーティーを抜ける。何か問題はあるかい?」

「いえ、ありません。

ではこちらの書類にサインを頂けますか?」

「はいよ」

「はい」

「今日は1日休みにして1杯付き合えよ」

「まだ午前中だよ?でも、うん。ぼくも飲みたい気分だからいいよ」


サインを書き終えたふたりはそのまま冒険者ギルドを出ていった。

その迷いのない行動に、流石にもうカイトもナンシーも引き留めることはなかった。


「もう、なんなのよーーー!!」


ナンシーの叫び声が響いたが、それに取り合う者は誰も居なかった。





主要メンバーが抜けた時点で、そのパーティーは崩壊します。

特に今回求心力を持っていたのはリーダーのカイトではなく追放されたジーク。


カイトとナンシーがその後どうなったか。

すくなくともその場にいた冒険者たちでふたりと手を組みたいと思う人は居ません。

なのでカイトは別の街に逃げることになるでしょう。

ナンシーは早々にカイトに見切りをつけて別の有望なパーティーに寄生しに行きそうですが、俗にいう『パーティークラッシャー』なのでどうなることか。




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― 新着の感想 ―
[一言] 中編くらいでまとめて読みたいなぁ ジーク目線にPT目線、あとは各々のその後や周りの反応とかが欲しいところ 普通に考えてPT崩壊しないわけがないってのを考えてたけど、きちんと読めてすっきりし…
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