Web小説家はなぜ書籍化に依存するのだろうか? ~自らコンテンツを作る時代は来ているのに
「小説家になろう」でのエッセイは初投稿です。
2000年代、『月姫』、『ひぐらしのなく頃』といった作品が同人ゲームから出てきた。これは衝撃だった。更に商業作ともなっていく様は更に驚愕だ。
その上、同人でありながら二次創作まで盛んであり、1ジャンルを築いていった。
本当に恐ろしいことである。
同人という、個人から始まった作品が市場で大きなムーブメントを生んだのだから。
最近だと、同人エロCG集ではあるが『搾精病棟』もヒットしたことで騒ぎとなり、その利権を獲得しようと企業が名乗りを上げたことは話題に新しい。
そんな中、Web小説も負けてはいないが、その切っ掛けは書籍化頼りになっていることが多い。
先の例からも個人でも大きなコンテンツを作り出せるハズなのに。事実、『ソードアート・オンライン』もWeb小説であり、ネットに掲載されたいた当時から好評だったと聞く。むしろ、好評だったからこそ、作家デビューを機に出版社が書籍化をオファーした作品である。
さて、今回は書籍化に頼らない方法、実例を語りながら、なぜ書籍化に依存するのか見ていこう。
■書籍化に頼らないケースの収益性は明かされている
さて、まず語るべき点は収益性であろうか。書籍化に期待することは広く人に知って貰えることもあるだろうが、近年ではこの点での意味は限りなく薄くなっている。
Web小説の多くはすでに何百、何千万のPV数を稼いでおり、Web小説時点でその知名度は知られている。書籍化されたどころで、元々シェアの狭いライトノベルでは広く知ってもらう点は弱い、ネットの方が広く知ってもらう点では圧倒的に強い。ただ、コミカライズ、アニメ化をすれば話は別だが。
話は逸れるが、先に語った同人ゲームの場合であれば、ゲーム好き、ラノベ好きなどを、それ単体で呼び込める。
実際、『月姫』、『ひぐらしのなく頃』の商業展開時にはゲームだけでなく文学方面でも新伝綺というジャンルが作られた。両原作者を初めとする作家が書籍でも活動する切っ掛けとなった。
だから、今の時代、Web小説から書籍化のメリットは収益でしかない。
では、この書籍化に頼らない収益性はどのぐらいなのか。これに関してはかなり現実的な数字が明らかになっている。
「成年向け同人誌」の話題とはなるが、『昔はカッコよかった』でもヒットを飛ばした、なかに氏に関しては記事でも見た人もいるかも知れない。また、『昔はカッコよかった』に関しては同人誌でありながら、ほぼ全編が公開されており、こちらで作者を知った人の方が多いかもしれない。
そういった活動がある種、次世代のビジネスモデルとして興味が引くため記事とされたのだろう。また、その記事だけでなく、ご自身でも金銭の点でまとめられている。
その中で「年収5000万」と大々的に語れているが、記事内にもあるように、いきなりこの金額にここに達成しているわけではない。それでもフリーとなっての滑り出しは順調ではあった。
つまりは個人のコンテンツであっても、数千万の収益は可能なのである。
ただ、これは特殊な例と考え、何も実績も無い人では無理かも知れないと諦めるかもしれないが、それは違う。そもそも、なかに氏も活動開始時には大きな武器となるモノは持っていなかった。
先も語った通り、Web小説で書籍化する際のうたい文句で何百、何千万PV、下手をすれば何億PVといった部分がある。これだけでハロー効果となる。作品を知らなくとも、この数字だけで誰もが作品の質をある程度、信用することになるからだ。これだけでも十分に戦える。
また、何百、何千万PVもある作品を持っている作者なら、そのフォローしてくれる人は結構の数であろう。そして、リアルタイムで追っている人もいるだろう。そんな人達の一部は付加価値があれば金銭を消費することもいとわない。
これはpixivFANBOXの様なクリエイター支援、もしくは投げ銭などを例に出せば分かりやすいだろう。
小説投稿サイトに平気でランキングに乗る人にとっては、自ら出版することは知名度、ファンなどの点からでも成功は難しい話ではないのだ。
確かに年収5000万のような収益性は無理であっても、小説投稿サイトでのみ活動しているWeb小説家はまったく収益を生まない。ただ、今なら『カクヨム』ではロイヤリティを生むが。
それを考えれば、自ら出版することはメリットがある。しない理由など何処にもない。ただ、自分でする事は多くなるため面倒ではあるが。
そして、自ら出版した所で、後々紙での書籍化などにも阻害になる点でも無い。むしろ、ここから発展した作品もある。
次はその点を語っていこう。
■自ら動いても、コミカライズ、アニメ化も夢ではない
『魔女の旅々』(著者: 白石定規)
元々はKindleで出版されたものが、出版社の目に留まり書籍化である。ただ、出版社の目に留まる前には、Kindleの無料キャンペーンの際、作者自ら2ちゃんねるで何でも答えるというスレを立てて、ここから話題になったと聞く。
最近ではテレビアニメ化も決定している作品である。
こちらは特別なことといえば、2ちゃんねるで宣伝したことぐらいだろう。しかし、そのヒットまでは色々と苦労はあったと思うが。
さて、先ほど語った通り自らKindleに出版した作品はテレビアニメ化まで到ったのである。つまりは自ら動くことは何の弊害にもならない。むしろ、書籍化の切っ掛けとなっている。
もう一つ、実例を。
『シャングリラ・フロンティア』(著者:硬梨菜)
こちらは多くの人から書籍化を望む声を飛んで2018年以降『アニメ化してほしいライトノベル・小説は?』でもランキング入りするほどの作品。
最近になってようやく、書籍化…ではなく、コミカライズ化された。そもそも、何の背景もないのにニコニコ大百科を始めWikiなどサイトが作られているほどの人気作である。
これほど人気を得ているのに、書籍化されれば実益が約束されているはずだ。なのに、今までしてこなかった。
それに書籍化のオファーが無かったとはまず考えられない。事実、コミカライズ化はされているのだから。意図的に断っていたのだ。ただ、その理由は分からない。しかし、作者には考えがあったのは間違いない。
ともあれ、このケースは書籍化に到らなくても、コミカライズ化は可能な例。しかし、逆に考えれば作者が書籍化を拒むという、行動を取っていてもコミカライズは可能という例でもある。
ただ、この作品の場合はファンによって支えられている。そうでなければ、単なるWeb小説がアニメ化を希望するランキングに載ってくるはずはない。また、Wikiなどで情報がまとめられることもない。
ファンが意図的に宣伝しているのである。
もし、そんな作品が自身のブランドで書籍化されたらどうなるだろうか。コミカライズ化もされている。いやでも、売れるだろう。しかも、ファン達はアニメ化すら望んでいるような作品だ。
自ら出版となれば、出版社にマージンを取られることはない。
実際、なかに氏のケースに当てはめれば、その収益はいかほどになるか推測できるのではないだろうか。
当然、これは私の個人的な思いであるから、『シャングリラ・フロンティア』の作者の考えではない。ただ、収益のある書籍化を拒み続け、コミカライズした今では新たな動きはあるのは間違いないだろうが。
事実、マンガ連載と同時に書き下ろし小説が掲載されているのだから。
■なぜ、書籍化に依存するのか
書籍化に依存しなくとも、人気を得られるし、収益に到っても書籍化以上得られるかもしれない。そして、コミカライズ、アニメ化の可能性も塞がれる訳でもない。
前例もあり、これほどにデメリットはないのに誰もしないのか。
当然、実行している人もいる。ただ、目に見えたヒットしてないせいもあってか、自ら出版する人は少ない印象である。
それでも、小説投稿サイトに平気でランキングに乗る人には知名度に見合ったファンがいる。成功の可能性は高い。そもそも、失敗のリスクもほぼない。
今は電子書籍を作るのにも専門の知識はいらない。ツールを使えば一発である。なんなら、BOOTHで販売するなら、PDFでもいい。それら販売するプラットホームの手続きも難しくはない。
AmazonのKindleであっても、手続き方法は少々手間と感じるかも知れないが、色んなサイトで手順は紹介されているので調べれば簡単である。
これは余談とはなるが、少々難易度は高くなるがプリント・オン・デマンド出版で紙の出版、ISBNコードを付ける事も可能である。これらも昔から比べて敷居は低く、費用も押さえることができる。
つまりは本当の意味で本として出版することは個人レベルであっても無理なくできるのである。
そもそも、冒頭で語った通り、『月姫』のヒットで今のTYPE-MOONがあるのだ。ちなみに『オーバーロード』の作者、丸山くがね氏は『月姫』のファンディスクにシナリオを担当されている。
私がこう書いていることは夢物語ではない。実例を挙げているだけなのだ。
確かに出版社に書籍化して貰えば、手間という煩わしさはない。しかし、権利をほぼ渡して出版を代行してらっているだけである。
では、なぜWeb小説家は書籍化に依存するのか?
理由は簡単である。その方法、そのメリットしか分かっていないからだ。そして、書籍化のデメリットを分かっていないからである。
書籍化向きの作品作りは多くで語られていることだろうが、それを売る方法はほとんど語られていない。書籍化した作家もここは語らない。
そもそも、本を売ることは作家の仕事ではないとされてきた。その方法はある種、出版社の秘伝であった。
だから、自ら本を売る方法は誰も知らなかった。しかし、こう語ってきた通り近年はその一部は広く披露はされている。それでも一般的な知識ではない。
しかし、目に付くのはWeb小説からの書籍化の実例ばかりである。その中では自ら書籍にするのではなく、書籍化に依存するのは仕方が無い。
ただ、実例でも挙げたように自ら出版、コンテンツとして売り出している者は少なくない。今後はどうなるかは分からない。
しかし、プロの作家、マンガ家にしても、ここらの収益性を分かってない人が多い。
アニメ化というヒットを飛ばしても、悲惨な貧乏生活を送る人が多いことは私が語るまでもないことだろう。本人がネタにしているからだ。かろうじて昔のアニメでの権利で何とか生活できた人もいる。
彼らは自らの作品で稼ぐ方法を知らないから、連載が終わればほぼ収益を失う。だから、生活ができない。
それを経験して、自らのコンテンツを作ろうとしている者もいれば、連載にこだわる者もいる。
そういう意味ではWeb小説からの書籍化した作家の末路はいうまでもない。よほど、技量がなければ生き残れない。さらには今は本が売れない。
そして、書籍化に権利をほぼ渡して出版を代行してもらっているだけだから、自らの作品でお金を生み出す機会もまた手放している。
ただ、出版社から書籍化する事はダメというわけでは無い。書籍化されれば、コミカライズ、アニメ化の可能性は自ら動くよりも高い。
しかし、書籍化される可能性を如何に高めるかは別問題だ。
また、今の時代生き残りは難しい。その収益性も低い。それでも多くの部数を売れる作品を作るなり、作家関連で他の仕事を得られれば作家として食べていく事はできるだろう。
ともあれ、大事なのはそういった状況を把握して、損のしない選択を取ることである。これはどんな仕事でも同じ事である。