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あなたの為の青い薔薇  作者: めざし
現在編
3/21

赤い目の魔物

 『ウォーーーーーーン、ウォーーーーーーン』

 『ギャギャギャギャギャギャ』


 突然の音にダリアは飛び起きた。


 辺りはすでに真っ暗で、カーテンの隙間から僅かに月の光が入ってきている。

 夜になり、どうやら吹雪が治まったようだ。


 それにしても・・。 

 聞き耳をたてるが、辺りは静寂に包まれている。


 気のせい?


 ダリアはベッドを降り、カーテンを少し開けて窓の外を眺めた。


「今日は満月って言ってた」

 ふと宿の主人の言葉を思い出した。


 空には大きな月がぽっかり浮かび、夜なのに辺りを明るく照らしている。

 積もった雪が月の光を浴びて、まるで発光しているように幻想的だ。


 しばらくぼーっと月に照らされた村の風景を見ていたダリアだったが、目の端に不自然な何かを捉えた。

 大きくて真っ黒いそれらの固まりが、ものすごいスピードで移動しているのが分かる。


「?」


 ダリアはじっと目を凝らしてそれを追う。


「・・・・狼?」


 真っ黒い何か。

 それは狼の群れのようだった。


 ひときわ大きな黒い狼が先頭を走り、その後を何十匹もの狼の大群がついていく。


「野生の群れ?」

 いや、それにしては大きすぎる。

 それに・・・。

「目が赤い・・?」


 遠目でよく見えないが、彼等が走り去った後には、赤い無数の光の線か見える。


 ダリアは茫然と成り行きを見つめていたが、突然、


 ギャギャギャギャギャギャギャギャギャ


 聞いた事の無い音に空を見上げると、そこには大量の蝙蝠の群れが飛んでいた。


「え・・・どういう事??」


 それらは雲のように月を隠し、村の上空を旋回している。

 そして彼等の飛び去った後にも、無数の赤い光の線が見える。


 ダリアは急いでカーテンを閉め、窓から離れた。


「な・・何?この村??どういう事?」




 赤い目は、理性を失い欲望のままに動く呪われた魔物の証。

 絶対に近付いてならない。



 この国の林や森、海の奥深くには魔物が生息している。

 その中でも特に危険なのは、赤い目をした魔物である。

 それらは容赦無く人間や家畜を襲う。


 この国は『黒の大厄災』以降、赤い目をした魔物は増え続けていた。



 高鳴る鼓動を抑えつつ、ベッドに戻り布団を頭から被る。


 しかしダリアは再び眠る事が出来なかった。






「坊主、良く眠れたか」

 出掛ける準備を済ませ、1階の食堂で朝食を取っていたダリアに宿の主人が声を掛けた。


「・・・はあ」


 あれから全く眠れなかった彼女の目の下には、くっきりとクマが出来ている。

「その顔じゃあ無理だったんだな」


「はい・・何か、外が煩くてなかなか・・」

 見た事をそのまま話す気にはなれず、ダリアは曖昧に話を続けた。


「満月の夜はな、魔物どもが騒ぐんだ。特に害があるわけじゃない。放っておけば次の日にはいなくなっている。まあ、嵐みたいなもんだ」

「はあ・・・・」

「この村に来たのが満月の日なんて災難だったな~」

 そう言いながら、ダリアの背中をバンバンと叩いた。




 ダリアは宿を出る際、代金に併せてお礼にと、特別良く効く塗り薬を主人に渡した。


「世話になった。これは自分が調合した傷薬だ。礼に受け取ってほしい」

 ダリアはそう言うと宿を後にした。



 外に出ると昨日の吹雪が嘘のような青空が広がっていた。

 辺り一面を覆った真っ白い雪と青空のコントラストに、ダリアは眩しそうに目を細める。


 朝の清々しい空気を胸いっぱいに吸い込み、今日は出来る限り北に見えるラキア山脈を目指す。

 少し眠気はあるが、冷たい空気に身も心も締まるのを感じる。


 ダリアは鞄を背負い直し、山脈に続く道へと足を踏み入れた。





『カンカンカンカン』


 しばらく歩いていると、後方、先程まで滞在していた村の櫓からけたたましい鐘の音が響き渡った。


『カンカンカンカン』



 鐘は鳴り止まず激しさを増す。


「何だ?火事でもあったのかな?」


 しかし村を見ても煙一つ上がっていない。

 遠目で、数人の男達が村中を走り回っているのが見えた。


「事件じゃなきゃ良いけど・・・」

 少し気になったが、再び山脈目指して歩みを進めた。



「流石にきつい・・・」


 ダリアは山道から少し逸れた所にある開けた場所で荷物を下ろして休憩していた。

 歩みを進めて2時間余り。

 当たり前だかどこまで言っても山で、お目当ての城にすら辿り着くことが出来ずにいた。



「やっぱりここじゃないのかな?」



 小さい頃、神父に読み聞かせてもらった吸血鬼と青い薔薇の話。

 この国では、小さい子供に読み聞かせる定番の物語である。

 


ーーーーー

「ねえ、どうしてこの吸血鬼は薔薇を独り占めしてるの?」


 教会の談話室。

 童話を読み聞かせていた神父に、1人の孤児の少年が尋ねた。



「悪い吸血鬼だからですよ」

 神父は本を閉じなら少年に答えた。



「だったら皆で悪い吸血鬼を倒そう!そうすれば、薔薇が手に入るよ!」

 少年は声高に言った。


「この吸血鬼はとてもとても強いのですよ。だから王様は、国一番の魔法使いに討伐を依頼したのです」

 神父は優しく子供達に言う。


「じゃあさあ、吸血鬼が見ていない間にこっそり盗めば良いよ!それを売ったら大金持ちになれる!!だって幻の花だろ!」


 えっへん!とドヤ顔をしながら少年が言う。

 周りで聞いていた孤児達も楽しそうに笑った。


「確かに幻の花ですから、手に入れれば王国一のお金持ちになれるかもしれませんね。でも盗みはいけませんよ」

 神父は子供達にきちんと諭すのだが、


「ねえ、聞いてるダリア!お金持ちになれるって!!」

 孤児達は神父の言う事など全く聞いておらず、傍らで同じように聞いていたダリアに向かってキラキラした目で話掛けた。


「金持ちになったら、毎日白パンとお肉の沢山入ったスープが飲めるよ!」

「甘いお菓子が食べられるわ」

「綺麗なリボンを着けられる!」


 孤児達が嬉しそうに思い思いの願望を口にする。



 ダリアはぼーっとその会話を聞いて居たが、


「私、薬師になって絶対その薔薇を手に入れる!」 


 ダリアは無意識に立ち上り宣言した。



「え!本当?!ダリア頑張ってお金持ち目指すんだね!応援するよ!!」

「頑張れ!」


 そしてダリアは、薬師になる事を何故か孤児院の皆に応援されることになる。


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