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あなたの為の青い薔薇  作者: めざし
現在編
11/21

人間狩り

 主の後ろ姿を見送ると、ジェイはくるりと方向転換してスタスタと歩きだした。


「ククククク・・・・・」

 口から堪え切れない笑いが漏れる。


「ああ・・・やっとこの時が訪れた・・・前回は主の側にいた為に許されませんでしたが・・・」


 ジェイは右手で顔を覆う。

 すると彼の姿が一瞬揺らぎ、老人の姿から赤い髪と目を持つ美丈夫に変化した。


 腰の位置まである髪はすっきり束ねられ、笑った口元には鋭い牙が見える。

 両目は怒りで赤く濁っていた。


「ネネ、ノノいますか?」

「「御前に」」


 ジェイが告げると、黒と白の対照的な髪色をした2人の小柄な少女が目の前に現れた。


「麓の村の掃除をして頂きたいのです」

 ジェイが告げる。


「え?やった~♪」

「久しぶりのお仕事だ」

 2人は両手を上げて喜ぶ。


「本当は私自ら1匹ずつすり潰したいのですが、いかんせん時間が余りありません。ダリア様がすぐにお目覚めになります。ですからあなた達に任せます」


「ん~?姫さんどうしたの?」

「どうしたの?」


 ジェイの言葉にネネとノノは首を傾げた。


「実はまた人間共が魔女狩りを始めましてね。ダリア様がそれに巻き込まれてしまいました」


 その言葉に2人の身体がピクリと動く。


「は?何それ、またなの?」

「懲りないやつら~」


「残念ながら彼等は『魔女』というモノを知らないのです。そこであなた達2人が村に出向き、魔女とはどういうモノなのかを彼等に嫌と言うほど体験させてあげてください」


 ネネとノノは闇の眷族であり、最古の魔女である。


「「了解しました~♪」」


 楽しみだね~。

 2人はきゃいきゃいと盛り上がりながら、早速出掛けようとする。


「ああ、それと」

 ジェイは付け足した。


「首謀者は殺さず私の元に連れてきてくださいね」

 たっぷりとお礼をして差し上げますので。


 ジェイは嬉しそうに微笑む。


 あ、これめっちゃ怒ってるやつやぁ~。

 触らぬ吸血鬼に祟り無し!


 2人はそんなジェイを無視して、


「「頑張るぞ~お~!」」


 拳を空に突き上げると、いそいそと麓の村まで降りていった。


「今回シロはお留守番ですよ」


 物陰から唸り声を上げながら出てきたシロに、ジェイは告げた。


「あなたは前回私達を差し置いて十分暴れたでしょう。今回は私達の番です。それにダリア様が目覚めた時、側にいないと心配します。さあ一緒に部屋へ向かいましょう」


 シロは納得がいっていない様にしばらく唸っていたが、仕方ないと分かったのか素直にジェイの後についていった。



 さあ、魔女狩り改め『人間狩り』の始まりですよ。

 ウジ虫共。

 せいぜい逃げ惑い、自分達の行いを悔いるがいい。






「うわ~凄い雪。よくこんなトコ住んでるね~」

「害虫強い」


 雪深い麓の村に辿り着いた2人は辺りを見回す。

 すると、村の中央付近に人が集まっているのが見えた。


「あ、お~いこんにちは~」

「ちは~」


 2人は両手をブンブン振りながら、その集まりに乱入した。


「な、なんだお前達?!」


 この極寒の中、突然現れた奇抜で露出度の高い服を着た少女達に、集まっていた村人達が驚いた。


「ね~ね~おじさん達、ちょっと質問なんたけど」

「おじさんは失礼だよ。きっと私達より若い」

「え~実年齢じゃ無くて見た目よ、み・た・め」

「そう・・それならおじさん」

「ね~」


 村人そっちのけで話す2人に、皆ポカンと見つめている。

 ちなみに彼女達は優に1000歳を越えている。


「お、お嬢ちゃん達何か用かい?」


 1人の村人が彼女の前に歩いてきた。

 手に銀の杭を握りしめている。

 辺りを見ると、男達は皆武装して手には銀の杭や槍を持っていた。


「あ、そうだった!ねえおじさん達、魔女狩りしてるんだって?」

「してるんだって?」


 瞬間、村人達の表情が強張る。


「どこでそれを聞いたのかな?お嬢ちゃん達」

 奥から1人の老人が出てきた。


「あなたは誰?」

「だあれ?」


 彼女達がその老人に尋ねた。


「わしはこの村の長だ」

「へ~村長さんなんだ~」

「探す手間省けたね~」


 2人はクスクス笑う。


「?」


「ねえ村長さん、『狩る』と言うことは『狩られる』覚悟あるんだよね」

「だよね」


「?」

 村長は、彼女達の話す意味が理解出来ず首を捻った瞬間。


「ぎゃあああ~~~~~!」 

「何だかこれは~~~~~~~!」


 突然背後から響いた叫び声に慌てて振り返った。


 見ると、広場に集まっていた村人全員の身体に黒い棘のような物が巻き付いている。


「なっ何だこれは!」


 村長がはっとして少女達に視線を戻す。


 見ると彼女は、静かに笑っていた。

 村長は慌てて手に持っていた銀の槍で彼女達を突こうとするが、槍は一瞬で粉々になって消えた。


「っ!?」


「純銀など、当の昔に克服したわ」

「まだ効くと思ってるのが不思議~」


 そうこうしている内に、黒い棘はぐんぐん伸びて、村全体を覆っていく。

 棘はまるで生物のようにうねうねと動き、容赦無く家の中にいた女子供を広場に引きずり出す。


 ほんの数分後、広場には村長を除く村人全員が棘で宙吊りにされた。

 恐ろしさの余り、すすり泣く声が聞こえる。


「え~これで全部?少な過ぎ~」

「物足りない~」


 100人に満たない村人の数に、2人はがっかりする。


「こ・・子供達だけでも助けてくれ・・」

 村長が力無げに告げるが、


「え~ムリムリムリ~害虫は1匹いたら100匹いると思いなさいって教わったし!」

「害虫、駆除、絶対」


 2人は両手を広げて嬉しそうに言った。


「皆さ~ん。これから正真正銘の魔女の力を見せるわね~」

「頑張る~」


 村人達は息を飲んだ。

 辺り一面に泣き叫ぶ声が響く。


「恨むなら村長を恨みなさい」


 こうして今日、呆気なく1つの村が消えたのだった。



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