原典を考えたら漏らしそうになった
俺はタイムスケジュール管理を誤った。
それが、俺の思いだった。
まぁ、この世界がこういう世界であるということを知ったのがついさっきだったから、仕方がないといえば仕方がないのだが。
しかし「仕方ないね。死のう」と考えるほど諦めはよくない。
原典の俺は八尺様に魅入られながら生き残ることができた。
そのタイムスケジュールは……
俺は必死で思い出そうとした。
原典では……昼寝から起きた直後に俺は八尺様に気づいた。
……その時は八尺様のことを知らなかったので、「ただの大きな女」と認識し、じいちゃんとばあちゃんにそのことを話す。
そう、原典ではじいちゃんとばあちゃんに八尺様のことが伝わるのは、その日の昼のうちだった。
俺は昼間にはこいつに気づかなかったし、じいちゃんの家で夕食までご馳走になって……今はもう夜の10時すぎだ。
スケジュール管理ガバガバである。
原典では今ごろの時間は2階の一室に隔離されていたはずだ。
昼間から隔離されていたわけではなく、「もうすぐ日が暮れる」という時間帯から部屋に入れられていたのだ。
つまり八尺様は本来「夜の怪異」と推測することができる。
先ほどの遭遇で俺が逃げられたのは運がよかっただけに過ぎない。
運……?
いや、もしかして俺は転生したことではちゃめちゃに運がよくなっているのではないだろうか!?
少し考えて首を振る。
運のいいやつは八尺様には魅入られない。
いいなぁ、運のいいやつ。
俺がじいちゃんの家に逃げることによって、じいちゃんとばあちゃんも魅入られるのではないか、と、少しだけ思うこともあった。
あんないいじいちゃんとばあちゃんが被害を受けるなんてまっぴらだ……が、俺はじいちゃんとばあちゃんには被害は出ないだろうということも思い出していた。
八尺様の被害には「成人前の若い人間」が遭うことが多いという。
じいちゃんとばあちゃんはじいちゃんとばあちゃんだからなぁ。
しかし、あくまでも「多い」だ。
絶対に魅入られないとは言い切れない。留意しなければ。
どれだけ長い時間、バイクを走らせていたのだろう。
実際にはほんの短時間なのに、俺はやっとじいちゃんの家の灯りを見出した。
玄関は暗くなっているが居間は明るいようだ。
よかった。ここでじいちゃんとばあちゃんがすでに寝ていたら完全敗北である。
俺は急ブレーキでバイクを止め、急いで玄関に走り、バンバンと戸を叩いた。
「じいちゃん! ばあちゃん!」
しばらく必死で戸を叩いていると、玄関の明かりが灯される。
俺は漏らしそうなほどの安堵感を感じていたい。
ごめん。ちょっと漏らしていた。




