塩もお札も黒くなったら目があった
札が一瞬で黒くなるのを確認して俺はドン引きした。
コツン……
窓を叩く音はまだ聞こえている。
部屋の四隅に置かれている盛り塩も上の方から徐々に、徐々に黒くなってきている。
ドン引きである。
いや、作法を知らない人が塩を置いたところで怪異を怒らせるだけだってのは知っているが、この盛り塩は櫛井さん謹製ぞ?
一般人がウェーイ盛り塩ウェーイって言いながら適当に盛ったやつちゃうんぞ?
それがどんどん力を失っていくって何事ぞ?
本当にドン引きだよ……
櫛井さんの念仏は絶好調だ。
ばあちゃんは仏壇の前でぎゅっと目を瞑って拝んでいる。
じいちゃんはのっそりと立ち上がって窓の方を睨みつけた。
窓は新聞紙で目張りされているから外は見えない。
その上に貼られた黒くなったお札がはらりと落ちた。
これ、いかんのじゃないのかぁ。
「っ!」
じいちゃんが俺を庇って前に出ようとするのを制する。
じいちゃんが驚いたような顔で俺を見るが、俺はじいちゃんに向かって頷いた。
ずっと俺は考えていた。
八尺様の正体はなんなのか。
八尺様には「なぜ」と思えるところがたくさんある。
「うお……」
じいちゃんが思わず声を上げる。
テープでしっかりと貼り付けられた新聞紙が段々とめくれてきていた。
「ここが正念場だ!」
櫛井さんが叫ぶように言い、念仏の声が高くなった。
いやぁ、それはどうだろうか。
さすがにもうとっくの前に正念場はすぎてるんじゃないかなぁ……
だって……
「ぽぽっ、ぽっ……ぽ」
目があってるもんなぁ、今。
めくれた新聞紙の向こう側から、窓の外から、八尺様は俺を見つめていた。
俺はまだ考えていた。
こうじゃないかという推測はある。
確信はない。
確信はないけどやるしかない。
俺は立ち上がって……
歌い始めた。




