家に着いたら出会ってた
車は猛スピードで、そろそろ家に到着しそうだ。
「ぽ、ぽぽっ……」
視線を下に向けているから見えないが視線の外に見えている影……八尺様は車の外に大股で歩きながらついてきているようだ。
「むぅ、こりゃいかん」
念仏を唱えていた櫛井さんが顔を歪めた。うん、俺もそう思っていたよ。そりゃいかんよね。わかるー。
このままだと八尺様を家に連れて行くだけだ。
車から出られなくて詰んでしまう。
じいちゃんは八尺様が見えないながら車を運転し、ばあちゃんもじっと下を見つめている。
とりあえず八尺様を撒かなければ家に入ることもできない。
どうすれば……
家に到着した。
しちゃった。
「むぅぅ」
櫛井さんが唸る。なんとかして八尺様の気をそらさなければ。
じいちゃんは八尺様に魅入られていないため、八尺様がどこにいるかわからない。ただ……
コツンコツン……
「おっ」
八尺様がガラスを叩く音は聞こえているようだ。
「こ、困りましたねぇ」
ばあちゃんは困っている。俺も困っている。
うーん、なにか方法があるんだろうか。
そもそも俺は異世界転生者なのだからなにかチートスキルとか持っていないのか。
「破ぁーっ!」
なにも起こらなかった。まぁ、俺は寺生まれじゃないし。
いや、チートスキルの発動条件はこれじゃなかったのかもしれない。俺は諦めないぞ。信じていれば夢は叶うさ。
「どうした!」
じいちゃんを驚かせてしまった。そりゃそうだ。いきなり孫がそんなこと叫んだらなぁ……
「ぽ……ぽぽっ、ぽ」
八尺様はまた体を屈めて車の中を覗き込もうとして……不意に体を起こし、視線を逸らした。
なにかを見つけた……?
なにを見つけた?
「ぽぽぽ」
「ほほほ」
屋根の上に渦人形がいた。
八尺様はそれを見ていた。